2017年の今、ロック・バンド然としたロック・バンドは存在しない。ストーン・ローゼズやリバティーンズのように、メンバーの絶妙な佇まいのバランスや運命共同体を思わせるギャング的な空気感でオーディエンスを熱狂させるバンドは、もうしばらく生まれていない。そして、これから先、そんなものが出てくる気配さえ感じられない。と思っている人が大半ではないでしょうか。その直観は決して間違ってはいません。
2016年のインディ・シーンにおける最大のホープだったレモン・ツイッグスとホイットニーを例に取ってみましょう。彼らが音楽的には非常に上質ながらも、ロック・バンドらしさは希薄だったのは象徴的。それはこの二組のバンド編成にも表れています。ご存知の通りレモン・ツイッグスは兄弟二人のユニットで、ライヴではサポートを含めた4人編成。一方のホイットニーは大所帯の楽団といった趣ですが、アーティスト写真に写っているのはメインの二人のみ。シンプルに一枚岩のバンドとは組織論が違うのです。
実際、この二組は核になるメンバーは必須でも、他のメンバーは追及する音楽性によってフレキシブルに変わる可能性がある印象を受けます。少なくとも、音楽性よりもまず「このメンバーありき」というタイプのバンドとは違うはず。リズム隊がパーマネント・メンバーではないceroに近いのかもしれません。実際、レモン・ツイッグスやホイットニーは、2016年という「非ロック・バンドの時代」に対するインディからのひとつの回答だった、と捉えるべきでしょう。
では、2017年の今、ロック・バンド然としたロック・バンドはもう出てくることはないのでしょうか? 正直わかりません。ただ、現時点でほぼ唯一の例外が存在します。それがコペンハーゲンからやってきた若き4人組、コミュニオンズです。
まずはこのヴィデオを見て下さい。彼らのデビュー・アルバム『ブルー』のオープニングを飾る“カモン・アイム・ウェイティング”。
繊細さと不敵さを同時に感じさせるメンバーの佇まい。4人が並んだ時のハマり具合の良さ。そして、何の変哲もないはずのバンド・アンサンブルから溢れ出る、空に舞い上がるような高揚感とロマンティックなフィーリング。ここでは、最高のロック・バンドに求められる条件がきっちりと満たされています。彼らがよく引合いに出されるストーン・ローゼズやリバティーンズと同じように。
そもそもコミュニオンズは、その成り立ちからして「ロック・バンド的」。フロントマンのマーティン・レホフとベーシストのマッズ・レホフは実の兄弟で、ギタリストのヤコブ・ファン・デュース・フォーマンとドラマーのフレデリック・リンド・コペンはマーティンの高校時代からの友人。つまり、地元の気の置けない仲間たちと組んだバンドで世界に羽ばたく、という古典的なロック・バンドの物語が再び綴られようとしているのです。
このコミュニオンズというバンドが一体どこからやってきたのか、ご存知の方もいるでしょう。そう、アイスエイジのブレイクによって広く世に知られたコペンハーゲンのバンド・シーンです。
コペンハーゲン・シーンについて詳しく知りたい方は、シーンを日本に紹介した第一人者、〈Big Love〉の仲真史氏のインタヴューをご覧ください。これが最良のテキストです。
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コペンハーゲンの地を全世界に知らしめ、
新時代の扉を開いたアイスエイジとは何か?
最初の発見者のひとり、仲真史に訊く。前編
この記事に詳しいですが、シーンの結束を強くし、その存在を広く世に知らしめたのはアイスエイジ。
コミュニオンズが結成されたのは、アイスエイジによる決定打『プラウイング・イントゥ・ザ・フィールド・オブ・ラヴ』がリリースされた2014年です。つまりコミュニオンズは、熱気溢れるシーンが生み出した次の世代。であると同時に、2017年中に〈XL〉からデビュー・アルバムをリリースする同郷のリスと並び、アンダーグラウンド色が強かったシーンに現れた更にポップな新世代と位置付けられます。
もちろんコミュニオンズは、ロック・バンド的な空気感だけが全てのバンドではありません。音楽的に今のイギリスやアメリカのバンドがやれていないことをやれているのも、間違いなく強み。
一聴してわかる通り、コミュニオンズのサウンドにはオアシスやストーン・ローゼズ、そしてストロークスといった90年代以降の大物バンドへのストレートな愛情が溢れています。
例えばこの“ガット・トゥ・ビー・フリー”は、イントロからメロディから不遜な歌い回しまで、全てにおいて初期オアシスを思い起こさずにはいられないパワフルなトラック。
そして、アルバムからの最新シングル・カット“イッツ・ライク・エアー”もまたオアシス的ですが、裏拍にスネアが入る感じといい、よりインディ・ダンス色が濃い印象。シェッド・セヴンやハッピー・マンデーズが引合いに出されてもおかしくないサウンドです。
これらを聴いてもわかる通り、彼らの音楽性は王道中の王道。しかし、それを「敢えて」やっているニヒリスティックな雰囲気はなく、確信を持ってストレートにやっている。その衒いのなさは、あまりに新鮮で眩しすぎるほど。バンド音楽が成熟しすぎている今の英米からは、こういったバンドはなかなか出てこないでしょう。
実際、彼らのようにダイレクトで力強い表現こそが、今、瀕死のバンド音楽に決定的に欠けているものかもしれません。シンプルで明快。難しいことは何もやっていない。でも、なぜか強烈に惹きつけられるものがある。彼らのような極めてロック・バンドらしいロック・バンドは、本当に久しぶりです。
今やロック・バンド然としたロック・バンドは存在しない。この先そんなものが出てくる気配もない。しかし、このコミュニオンズは、2017年におけるほぼ唯一の例外。彼らのデビュー・アルバム『ブルー』は、ロック・バンドの素晴らしさをもう一度思い起こさせる煌めきに満ちています。果たしてそれが本物かどうか、是非あなた自身の目と耳で確かめて下さい。