ポップ・ミュージックの理想とは、分断された異なるトライブ同士を結びつけることにある。という考え方は、決して理解しがたいものではないでしょう。ストーン・ローゼズがアシッド・ハウスのヴァイブをギター・ロックに注入し、LCDサウンドシステムがディスコとパンクを接合することで時代を揺り動かしたという歴史を振り返ってみても一目瞭然。音楽的な混血こそが常に新しい時代を切り開く――そう言っても決して過言ではないのです。
それを踏まえて、2010年代日本のインディ・シーンを改めて眺めてみましょう。ceroやスカート、シャムキャッツや森は生きているなどの名前を挙げるまでもなく、近年のインディ・バンドはその旺盛な実験精神を武器に、ジャズやR&B、ワールド・ミュージック、時にはアンビエントやノイズまでも果敢に取り入れてきました。
ただ、その一方で、彼らインディ・バンド勢はクラブ・カルチャーとの接点がほぼ見当たらなかったのも事実。たとえば、2010年代日本のインディ・シーンにおけるもうひとつの大きな潮流、ポスト・インターネット世代のビートメイカーとインディ・バンドがクロスオーヴァー的に盛り上がるような動きは、ほとんど見受けられませんでした。海外の音楽とのシンクロという点からしても、ディアンジェロやケンドリック・ラマー、ジ・インターネットとは同じ時代の空気を吸っているようであっても、ディスクロージャーやジェイミーxxのようなアーティストとはどこか距離が感じられた、というように。
つまり、近年のバンド・シーンは非常に折衷的で、様々なジャンルの音楽を結び付けるという大きな功績を残しているものの、こと深夜のダンスフロアとは分断されていた――そう捉えても間違いではないでしょう。
2014年8月に活動を開始したばかりだという若き3人組D.A.N.は、そんな2016年の現状において、明らかに異質の輝きを放っています。まさに彼らは、2010年代日本のインディ・バンド・シーンとクラブ・カルチャーを結び付ける存在。この原稿の論旨に沿って言えば、ポップ・ミュージックの理想を受け継ぐバンドです。
四の五の言う前に、まずは一曲聴いてみて下さい。これは彼らが2015年7月にリリースしたデビューEP『EP』にも収録されていた“Ghana”。
BPM100前後のミニマルな反復ビートと激しくうねるベースが、最高にグルーヴィ。必要最小限のフレーズで的確に空気を塗り替えるギターや櫻木大悟の心地よく浮遊するヴォーカルとも相まって、ディープでヒプノティックな快感を生み出しています。ただ、どこかクールな質感を持っていて、夜の冷たい風が吹いてくるかのような感覚は、The xxやジェイムス・ブレイク以降の空気感といったところでしょうか。
一方、2015年9月にデジタル・リリースしたシングル“POOL”は、90年代的なブレイクビーツを軸としたメロウなダンス・チューン。“Ghana”がサイケデリックな夜の音楽だとすれば、こちらは明け方の切なくも爽やかな空気が滲んでいるように感じられます。
そして、彼らが4月20日にリリースするデビュー・アルバム『D.A.N.』は、まさにD.A.N.の魅力が余すことなく詰め込まれた見事なアルバム。ここにはThe xxやウォーペイントにも通じる2010年代的なメロウネスがあり、最新のR&Bのグルーヴに対するさり気ない共感があり、クラブの現場に通うことで血肉化されたであろうミニマルで力強いダンス・ビートがあります。
そう、本作に先駆けて公開されたダビーでメロウ、かつ壮大なダンス・トラック“Native Dancer”や、どこまでも深く潜っていくような“Zidane”の素晴らしさに触れても、それは十分に感じ取れるでしょう。
さあ、果たして本当に『D.A.N.』は、ポップ・ミュージックの理想を継ぐ者という称号にふさわしいアルバムになっているのか? その答えは、是非あなた自身の耳で確かめてみて下さい。
膠着化しつつある日本のインディ・シーンの
パラダイム・シフトを促す起爆剤的存在、
D.A.N.の新しさを支える「7つの顔」前編