SIGN OF THE DAY

シーンを転覆させる救世主のいない時代に
マドリード出身の女子4人組ハインズが
全世界から注目されている理由、教えます
by AKIHIRO AOYAMA February 19, 2016
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シーンを転覆させる救世主のいない時代に<br />
マドリード出身の女子4人組ハインズが<br />
全世界から注目されている理由、教えます

歴史は螺旋状になって繰り返す。過去を知ることは今を知ること。というわけで、バンド音楽の状況が英米で冷え込んでいる今、敢えて2000年以前――つまりストロークス登場以前の音楽シーンの状況を振り返ってみたいと思います。だって、過去を振り返り、そことの違いと共通点を検討することでしか、未来へのヒントは見えてこないんですから。

2000年以前と言えば、ネプチューンズやティンバランドが革新性とポップ性を両立させたサウンド・メイキングでヒップホップ/R&Bシーンのみならずメインストリームも席巻していた時期。

JAY-Z / I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)

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ロック・バンドで目立つ足跡を残していたのは、当時UK叙情派とも言われたコールドプレイ、エンブレイス、トゥーリン・ブレイクスといったバンドや、商業性よりもサウンド面での実験精神を重視したポスト・ロック・バンドばかり。

Turin Brakes / The Door

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つまり、ブラック・ミュージックが商業面/音楽面の両方で目を見張るような成果を残す一方で、ロック・ミュージックは小奇麗なポップに寄っていくか、演奏力とIQの高さに特化して難解になっていくかで両極化していたということ。この状況は、それから15年以上経った現在の音楽シーンとも似通っているように思えます。

では、2001年のように、そろそろ新たなストロークスが登場する? いや、インターネットが私たちの生活に浸透した今は、15年前とは根本的に文化のあり方が変わっています。細分化がさらに徹底された2016年に、新たなストロークスはもう現れないかもしれません。

The Strokes / The Modern Age

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しかし、1人の救世主の登場ではなく、世界各地に点在するローカル・シーンがインターネットを介して共有されるという状況の変化によって、むしろロック/バンド音楽にも新たな可能性が生まれつつある。それが今という時代なんじゃないでしょうか。例えば、東京だけでなく京都などの地方都市にあるシーンも注目を集めている日本のインディ界隈然り、アイスエイジが発見されたことによってD.I.Y.なシーンの存在が世界的に広まったコペンハーゲン然り。そういった昨今のバンド状況は、これらの原稿にもまとめられています。

「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野
Part.1:2000年代初頭のブルックリンを
思わせる学生音楽家たちが蠢く街、京都


コペンハーゲンの地を全世界に知らしめ、
新時代の扉を開いたアイスエイジとは何か?
最初の発見者のひとり、仲真史に訊く。前編


バンド音楽なんてもう死んだでしょ?!
と訳知り顔で語る輩を一発で黙らせる、
2016年期待の新人バンド6組をご紹介


ここに紹介するハインズも、今までほぼ無名だった地に存在するローカル・シーンを背負って世界に羽ばたこうとしているロック・バンドの一組です。彼女たちの地元はスペインのマドリード。スペインでは根強いダンス・シーンのあるバルセロナと対照的に、マドリードには根強いロック・シーンがあるとハインズの面々は言います。その証拠がこれ。彼女たちが地元で行ったライヴの映像です。ちょっと見てみましょう。

Hinds / Bamboo (live)

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映像は粗いですが、それだけに彼女たちの代表曲の1つ“バンブー”を最初から最後まで大合唱するオーディエンスの熱気が伝わってきます。同日のライヴでは、オーディエンスが大挙してステージに上がり、メンバーと共に踊り歌うという地元ライヴならではの瞬間も。

Hinds / Davey Crockett (live)


ライヴ動画を見ても分かる通り、彼女たちの鳴らす音楽は小難しいところは一切なく、徹頭徹尾ユルくてキャッチー。ブラック・リップスとマック・デマルコへの真っ直ぐな愛情が感じられるような、微笑ましいばかりのガレージ・ロック。でも、これが今、世界中のリスナーの心をつかんでいるんです。

その理由は、一言で言えば彼女たち4人が持っている空気感。バンド音楽にとって欠かせない、メンバー全員が並んだ時に醸し出される佇まいの魅力が本当にバッチリ。ハインズが初期に制作したヴィデオのほとんどは、メンバー4人が楽しそうにつるんでいる姿を映しているだけのシンプルな代物ですが、だからこそ彼女たちの魅力が一発で伝わってきます。

Hinds / Trippy Gum

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男だけのバンドでも、男女混成のバンドでも、このムードは絶対に出せない。頭でっかちになりがちな男の子の理屈っぽさを笑い飛ばす、女子だけで組んだチームならではの楽しげなヴァイブ。それこそが、ハインズ最大の魅力であり、世界中から期待を集める要因に他なりません。

Hinds / Chili Town

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そして、世界的に高まるバズの中、ついにリリースされたのがデビュー・アルバム『リーヴ・ミー・アローン』(日本盤は3月2日発売)。同作のプロデュースを務めたのは、地元マドリードのシーンで長年共に活動してきたというバンド、パロッツのメンバー。そのことからも伝わるように、ここでのハインズは自身を囲む状況の変化もどこ吹く風。周囲の期待に浮足立つ様子もなく、これまでと同じように自分たちのやりたいようにやった、D.I.Y.かつローファイな陽性ロックが全編に渡って展開されるレコードになっています。

Hinds / Garden

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2016年に新しいストロークスは現れないかもしれない。でも、新しい時代の風を感じさせてくれるバンドは確実に出てきています。ハインズは間違いなくその筆頭格。今後の動向も含めて、絶対にチェックしておいて損はありませんよ。


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