セロやシャムキャッツなどを代表として出すことさえ憚られるほど、次から次へと新しい才能が現れていた、ここ数年の国内インディ・シーン。けれども、あくまで東京を中心に考えるとすれば、やはり2014年は一つの区切りと振り返られるのではないか。そんな予感もしています。シーン黎明期に光っていた2つのアクト、王舟と昆虫キッズが、かたや、もはや出ないかもとさえ思われていたアルバムを遂に発表し、かたや4作もの傑作アルバムを残しながらも解散を選択したことは、その象徴のように思うのです。
一方で、より大局へと目を向けると、いわゆる東京インディ・シーンとはまた異なった背景から、さらに新しい世代のバンドが台頭しつつある気配を感じずにはいられないでしょう。例えば、先月1stアルバム『HELLO』を発表した京都出身の5人組、ハッピーはその先頭をいく存在。すでに500~600人キャパでの東名阪ワンマン・ツアーがアナウンスされるなど、状況の加速度では群を抜いています。
うん、これは魅力ある。全てがよく行き届いたサイケ・ポップスの佳曲。なによりメンバー5人がとにかくチャーミングですもの。で、ハッピーに次ぐネクスト・ビッグ・シングとして注目されているのが、神戸から出てきたザ・フィン。ビーチで斜陽を眺めているような美しさとメランコリアがないまぜとなったドリーム・ポップ。どうです?とにかく曲の良さとヴォーカルの存在感が圧倒的じゃないですか。
さらに、同じ神戸出身であり、ザ・フィンとは盟友と言うべき近しさを持つスースもここで一聴いただきたいバンド。前ニ者とは違って、まだ公式なリリースはなし。サウンドクラウドに挙げたデモ音源がこちら。
ディアハンターやクリスタル・スティルツといったバンドが思い浮かぶサイケなガレージ・ポップ。ダルな雰囲気の歌声と、艶やかなギターがかっこいいです。このスース、前身は2010年頃に関西のインディ・シーンを席巻したザ・ディムというバンド。当時メンバーはまだ高校生というのも話題でした。そして、ザ・ディムと双璧として脚光を浴びていたエー・マッド・ティー・パーティのメンバーは、現在バーサーカー・チルドレン・クラブとなっており、彼らはハッピーとスプリットの7インチを出すような関係。さらに、同じく兵庫出身である踊ってばかりの国の下津光史が、ハッピーをフックアップした第一人者であるのは有名な話。ザ・フィンやスースのメンバーと話すと、10年代前後の神戸周辺の活況は、踊ってばかりの国、黒猫チェルシー、女王蜂らの登場が後押しした面もあるようで、このあたりで起きていたことは一度きちんとドキュメントとして活字化したいところ。
おっと話がそれました。大阪を拠点に活動する女の子3人組のジーザス・ウィークエンドも注目。アップロードされている音源では、まだそのポテンシャルを捉えられてはいないものの、ライヴにおいて、とてつもない存在感を放つ、深いブルースを持った歌の魅力は凡百のバンドとは一線を画しています。気怠いキーボードがフィーチャーされたアンサンブルも挑戦的。
それにしても興味深いのは、上記にあげたような若い世代のバンドの特徴として、00年代後半のブルックリンにおけるサイケデリアを筆頭に、どこかあの時代のUSアンダーグラウンドとの連続性を感じられるところ。そして、どのバンドもどこか他者を一定以上には寄せ付けない鋭さを発している。ハッピーもザ・フィンもアイドル的なチャームを表面では出しつつも、ダサい対バンとかを楽屋ではひどい言葉で馬鹿にしてそうな性格の悪さが、どうにも染み出てしまってるじゃないですか。ていうか、そこがたまらなく魅力的なんですけど。そして、その刺を魅力に変えるだけの確固たる音楽性がすでにある。
ちょっと視野を広げると、東京のインディ・シーンにおいても、森は生きている、吉田ヨウヘイgroupなど比較的後続にあたるバンドには、この10年のアメリカーナ・サウンドへの志向が顕著です。特にアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を、ジョナサン・ロウ、ブライアン・マクティアという、現代アメリカーナ・サウンドの第一人者たる制作陣と作り上げたロット・バルト・バロンは、国内指折りのフリー・フォークの探求者と言えるでしょう。ハッピーやザ・フィンと比べると、かなり学究肌ではありますが、吐き出している空気はやはり地続きなものであるように思うのです。
ざっくりレジュメするなら、新世代バンドに共通するムードとは、00年代USインディと共振するサイケ志向、そして、早熟に方向性を獲得し、独自に突き詰めんとするスタンス。さらに付け加えるなら、それがゆえのディープな関係性がもたらすギャング感といったところでしょうか。でも、それら全てがどこの誰よりも早くそなわっていた一世代前のバンド、いますよね。え、わからない?だとすれば、その状況は彼らにとってあまりに不遇。だって、そのバンド、すでに数ヶ月前に、とてつもない大傑作アルバムを完成させてたんですから。2008年にキャッチーなインディ・ポップ・バンドとして突如現れ、〈セカンド・ロイヤル〉がレーベル初のバンドとして契約した5人組。2010年にはブラック・リップスの国内ツアーに帯同し、彼らに気に入られて本国でのライヴにも参加と、華々しく状況を加速させながらも、突如実験モードへと突入。数年かけて完成させたアルバムではアニマル・コレクティヴかくやのサイケを展開し、周囲を戸惑わせた東京シーンきっての孤高の存在。そう、ニュー・ハウスです。
6月に配信スタートし、8月末にパッケージでもリリースされた彼らの2ndアルバム『カレイドスコーピック・アニマ』。これがすっごく良いんです。今までに彼らが培ってきたサイケなサウンドをちゃんと深化させつつも、ソングライティングとしては開放的な人懐っこさがある。アバンギャルドでありながらウェルメイドという、並立しがたい2つの魅力を見事に溶け合わせている。というかハッピーがあんなに盛り上がってて、この作品がちゃんと聴かれてないのは許せない。新しい世代のカラーが見えつつある今こそ、その先駆者たるニュー・ハウスに再びスポットライトが当たるべきタイミングなのです。次稿では、彼らのこれまでの軌跡を振り返りつつ、新作アルバムにおける到達点を検証します。なぜ今ニュー・ハウスなのか、その理由を解き明かしてぞんぜよう。
30分で教えます。新世代サイケデリアの
傑作『Kaleidoscopic Anima』を上梓した
ニュー・ハウス、その奔放な軌跡。前篇
はこちら。