●じゃあ、構成に対して意識的になったところを、この5曲の中で具体的に教えてもらってもいいですか?
夏目「三曲目の“CHOKE”っていう曲が、一番時間かけて作ったんですけど」
●この曲が一番、断トツでいいと思います
夏目「ですよね」
大塚「嬉しい」
夏目「まず、この作品を作り始める時に、セイント・ヴィンセントの『セイント・ヴィンセント』と、スプーンの最新盤(『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』)を聴いて。50年代、60年代くらいの過去の音楽を参照して、それを一回整理した後に、自分たちで新しいものにしていく――モダン・ロックみたいな言われ方をしていましたけど。そういうのが今一番かっこいいな、っていう意識はあって。彼らは50年代、60年代とかのロックでそれをやったんだろうけど、『じゃあ、ネオアコをモダン化するんだったら、どういうのが出来るかな?』っていうのが、最初メンバーに話したことで。『ってことは、構成とコード進行と言葉の関係を全部理解してから作った方がいいな』と。で、A、B、Cみたいなやり方はちょっと飽きちゃったから、A、A、B、Aみたいなブルースっぽい構成の枠の中で、使ってないコード進行と使ったことないリズムで曲を作りましょう――っていうのが、“CHOKE”だったんです。その条件さえクリアしていればよかったから、だいぶ最初は実験して。このリズムだったらどうだろう、このコードだったらどうだろう、って。で、一番みたいな最初のブロックが出来た時に、ツー・ブロック目の最後は変えて、すんなりそのまま間奏行っちゃおう、とか。最後はもう一回コーラスが入るけど、沈んだ感じにしようとか。そういう風に整理されていったんですけど、出来た時に、『あっ、これはやりたかったことにかなり近いぞ』ってなって。で、そういう研究成果としては、“CHOKE”が一番満足度が高いかなって」
菅原「セッションを一番繰り返して、4人で『そうだよね』って言いながら完成した構成だよね、“CHOKE”は」
夏目「そうだね」
菅原「それに一番時間かけたから」
藤村「半分くらい“CHOKE”に時間かけた」
菅原「最初は夏目も俺と同じくらい弾いてて。歌がないのにメロディが三本あったんですよ。ベースもメロディで」
大塚「そう」
夏目「だから、途中で俺が、『やっぱキーボード弾く』とか言い出して、一瞬キーボードで弾いてるだけのを試したりとか、いろいろしたね。これは長く(時間を)かけたから、すごくいろんな要素を入れまくって。かつ、シンプルでありつつ、一番匂い立つっていうか。『芳醇なものってどうやって出来るんだろうか?』っていう。リズムにしても、ギターにしても、歌、歌詞にしても、本当にいろんなものを詰め込んだ後に、必要なものだけにするって作業だったから。全員がそういう意味では、同じくらい大変だったかな、とは思う」
菅原「多分、どのパートも無理してないっていうか、弾いてることがハマってるなって思います」
●この“CHOKE”みたいに、BPM100前後の16フィールの感じは、今までのシャムキャッツのレパートリーの中では一番オーセンティックなんじゃないかな、と思うんですけど。そこに関しては?
藤村「結構、俺がしつこくやろう、やろう、って言ってた気がしますね。普通に8でやってもいいんじゃないか、って空気があったんですけど、『いや、入れよう。細かいフィール入れよう』って言って。で、ちょっとシャッフルって言うんですか、3拍子×4、8のリズムを無理やり叩いたりして。タタタンッ! って。で、『このリズムでやろうよ』って言ったような記憶が、さっき思い出されました」
夏目「まあ、いろんなパターンを相当試したんですよね。16のスタンダードなノリっていうところよりも、これを作る上で自分たちの中でハネをどう入れるか、っていうのが重要だったとは思う。リズムを作っている時は」
●8の中でどうハネさすか?
夏目「そうです。だから、超わかりやすくハネてるみたいなパターンも試したし。ね?」
藤村「うん」
夏目「でも、流行の感じになんないようにするにはどうしたらいいかな、っていう。16のシャッフルでやるとしたら、バンビとかは得意だけど、ヒップホップみたいな感じにもなり得るし。で、一番バンドに馴染むのがこれだった。って感じじゃない?」
大塚「うん、そうだね」
●この曲は明らかに、ソングライティングとしても、プロダクションとしても、演奏としても、断トツにいいと思います。で、リリックも非常に優れている。おそらく、『AFTER HOURS』とこの5曲を合わせても、一番キャラクターがムーディ、不機嫌だよね。不機嫌にもかかわらず、その不機嫌さを誰にもわからないように抑え込もうとしてる。なので、表面的には見えづらいんだけど、煮詰められたようなネガティヴなフィーリングがある。これは意識的にやったこと?
夏目「そうですね、うんうん」
●でも、そういうキャラクターを書きたいっていう、一番のモチヴェーションは何だったんでしょうか?
夏目「まあ、自分がやれないから、登場人物にさせるのがいいかな、っていうのが正直なところですね。ステージに立って、『俺はイライラしてるぞ』って言いたいわけじゃないんで。『こんなイライラしてる男がいるんだよね』って話をしたいんですよね」
●イライラや焦燥感とか、ネガティヴなフィーリングが明らかにある。でも、実際の歌詞としては、「踊りませんか?」っていう言葉に落とす。あるいは、「胸はしんと静まりかえっているんです」っていうところに落とす。つまり、語気の強い言葉は使わないことで、むしろ熱の強さみたいなものを表現している。それも描きたいやり方だったってことですか?
夏目「そうです、まさしく」
●ここでこいつが熱を持った言葉を発したら、もう台無しになる。つまり、最初の話と繋がるってこと?
夏目「そうです、そうです。熱は持ってない気がした、この人は」
●ある意味、気持ちが白け過ぎて、まっさらになってる?
夏目「まっさらになってる。自分がどういうことを言っているか、どういう気持ちでいるか、すごく理解していると思う、この男は。だからこそ、自分がどれくらいイライラしているかを、きっと理解してると思う」
●なるほど。じゃあ、これは今日訊く質問の中で一番無粋な質問だと思うので、スルーしてもらっても構いません。この5曲、もしくは、『AFTER HOURS』も含めても、この曲が一番、夏目くん自身のフィーリングが出ちゃった曲でもある? 出すつもりはなかったとしても。
夏目「フハハハハハッ!(笑) うーんと、出すつもりがなかった、ってところは違うかも。今回は、出すつもりがなかったと言えば、一番やりたくなかったのは“KISS”みたいな曲だけど。今回は、この主人公と同じく、出そうとしたものと出てるものはコントロール出来てる気がする」
●だから、わかる人にはわかるが、わからない人にはわからない。それくらいの表情で、いつも歩いてるってことだよね?
夏目「そうそう(笑)」
全員「(笑)」
●了解(笑)。じゃあ、ミニ・アルバムなので、5曲すべてについて訊かせてください。今、夏目くんが、“KISS”は一番やりたくなかったって言ってたけど、その理由はなんですか?
夏目「“CHOKE”では、イライラしているっていうことを『僕はイライラしてるよ』って言葉でやってないのが成功しているところで」
●うん。
夏目「だから、『君が好き』っていう歌を作る場合、『君が好き』っていう言葉を排除してやるべきだって考えが僕の中にあるわけです。そういう面で言うと、これはガッツリわざとやりまくる、っていう」
●全部のラインで「君が好き」って言ってるような曲だもんね。
全員「(笑)」
夏目「だから、自分の中のルールは破ってるんですよね、わざと。その気持ちよさと恥ずかしさとが、この曲にはあるって感じ」
●まあ、だからこそ、力がある曲だけど。
大塚「でも意外に、一番ノリノリで、『歌詞出来た!』みたいに言ってたし」
●ハハハッ!
大塚「それは恥ずかしさの裏返しだとは思うんですけど(笑)。『いやあ、馬鹿みたいな曲出来ちゃったんだけどさ』って。でも、最初の方に、“KISS”ってするって言ってたよね?」
夏目「そう、“KISS”って曲名でキスしまくる曲を作る、って言ってた。あと、恥ずかしさの違いで言うと、前までは自分の気持ちが露出して恥ずかしいって感じだったけど、今回は作詞する、そのプレイヤーとしての恥ずかしさって感じ」
●ルールを破って、ここまでやっちゃっていいの? っていう。
夏目「そうそう(笑)。でもこの曲は、ドラムとギター二人とベースの兼ね合いが最初からすごい上手く行ってて。最終的に、音楽的に非常に豊かなものに仕上がって。ここまで芳醇なものが出来れば、どんな歌詞を当てても曲としてはいいだろうな、とは思った」
●ただ、多分、今の4人のモードからすると、BPM150ちょっとの早めのものってモードではないじゃないですか?
夏目「『AFTER HOURS』の時っていうのは、テーマとしてどうしても放課後になっちゃって。でも、街を描きたいから、制服を着てる男女を絶対出したかったんですよ、この5曲の中で。でも、制服を着て恋をしてる子たちの歌がミドル・テンポだったらちょっと嫌だな、と思って。もう無鉄砲でいてほしいし、それこそ突っ走ってて、危ない男を描きたかったんですよね。まあ、近い将来、お前は振られるだろうな、って奴。とすると、このBPMがよかったかな、っていう感じ。僕としては」
菅原「全体の並びを考えた時にこういう曲はいるな、っていうのは大きくて。疾走感、この曲の担当はそれだ――みたいな感じで。全然すんなり作った感じはしますね、僕は。歌詞も、キスって言ってるくらいだから、そういう感じになるんだろうな、とは思ったし」
大塚「でも、そんなに疾走感っていうか」
菅原「うん、速いってイメージは意外とない」
大塚「ワン、ツー、ワン、ツーみたいなリズムの取り方出来るから、8分って感じじゃないんだよね。4分の2みたいな感じのイメージになるし。で、夏目がベース・ラインを『こういう感じにしてほしい』みたいなのをちょっと言ったんですね。それで、あのベース・ラインになってるんですけど。8分のルート弾きだったら、ああいう風にはなってなかっただろうし」
夏目「ダダダダダダダダッ、じゃね」
大塚「そう。8分のガッツリな感じになると、もっと疾走感出るけど。でも、ああいう感じになってるから。ベースとドラムも全然違うんですよね。合ってないっていうか、ある一点でしか合わせないって感じで。あのやり方は、ある意味、“渚”とちょっと近いんですけど、“渚”よりもさらにポップスですよね。その辺が、疾走感もあるけれども、俯瞰してる人が絶対どっかにいるんだろうな、っていう雰囲気を表してる気もする。だから、そういう意味では、すごい気に入ってますね」
菅原「確かに、意外と面白い作り方はしてる」
●だと思う。モチーフに合わせた疾走感だけど、演者の成熟度に合わせたグルーヴ。
夏目「そうそう(笑)」
●あのヴァイオリンのピチカートを使ったメイン・リフは、どのタイミングで入れることになったの?
菅原「あれ、いつだっけ?」
夏目「最初は、前作でヴァイオリンを入れたんで、『どれかに入れたらいいね』って話をしてたけど、『でも、いらなそうだね』ってなって。一曲目の“GIRL AT THE BUS STOP”に入れたら、すべてが芳醇な感じになって。ちょっとオーケストレーションも入ってる、超ゆっくりのハウスみたいなイメージを持ってたんですけど、やり過ぎになるなって。で、『やめ』ってなってたんですけど、年末、名古屋にライヴしに行った時に、前作でヴァイオリンを弾いてくれた――」
菅原「“TSUBAME NOTE”で弾いててくれた……」
夏目「女の子と対バンして。で、『そういうアイデアもあったんだよね』みたいな話をしたら、結構ノリノリだったから、『あ、これはやっぱり、入れてもらった方がよさそうだぞ』と」
菅原「そこで対バンした――(亀谷)希恵ちゃんって言うんですけど、希恵ちゃんが、向こうのバンドでピチカート弾いてて。それすごくいい、って話してて。『これだ、これ入れよう』って感じかな」
藤村「で、ピチカートだけを弾きに、名古屋から来てくれた」
夏目「しかも、ベースとピチカートのユニゾンって、今まで聴いたことがないなって」
●じゃあ、最初からベースとユニゾンのフレーズだったんだ?
夏目「うん。ピチピチ感……っていうのかな? 女子高生の太ももの感じをちょっと、あれで出して」
全員「(笑)」
菅原「なんか、異性のエッセンス入ったよね、あれで」
●(笑)あと、曲の最後に一度だけ出てくるブリッジ。これがあるとないとで、ストーリーのふくらみが全然違うと思うんですね。ブリッジの部分で嫉妬というネガティヴな感情がいきなり入ってきて、影が差し込んできたぞ、っていう。それも、やっぱり意識的に作ったの?
夏目「そうです、そうです。バラしちゃうと、ハイロウズの“青春”みたいな曲が作りたかったんですよ。(“青春”の)最後の、『心のないやさしさは/敗北に似てる』ってところがほしかったんですよね。ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラスってなって、それよりもさらに印象的なパートが入って、コーラスで終わる、っていうのがやりたかった。しかも、そこは、こいつのブルースが出てないと駄目だと思って。俺が聴く側だったら、ここで拳を挙げたいな、と思ってた(笑)」
●(笑)なるほど。前回の『AFTER HOURS』というのは、背景としてネガティヴな歴史性や楽天的になれない基盤がありつつも、その中できらめくものを浮き立たせようって作品ですよね。でも、『TAKE CARE』では、そこに差し込む影が少しだけ前景化してきている。もしくは、ベースにあるネガティヴな認識が全体に侵食しているっていう印象があります。これは、気付いたらそうなっていた? それとも、そうならざるを得ないな、と思いながらやっていた?
夏目「サウンドとしては意識してなかったけど、歌詞のテーマとしては、『そうならざるを得ないな』って感じながら制作に入ってた。それが一番出たのが、“CHOKE”だってことだと思う。これはメンバーには話してないけど、自分の中で、『どういう曲にしようかな?』っていうアイデアを考えてた時に、本当はもっともっと踊れて、楽しいものの方がいいと思ってて。なぜなら、ポップスを作ろうとしているわけだから。それこそ、もうちょっとR&Bっていうか、黒人がやっていたロックンロールのフィーリングをやりたいってのがあったんだけど、『でも、今ここでそれをやっても、多分。意味がないな』って気がしちゃったんですね。俺としてもそれは楽しめないなって」
●今、それをやっちゃうと、から騒ぎとか、逃避になるってこと?
夏目「そう、まさに。から騒ぎと逃避っていうのは一番したくない。って考えると、一回暗くなんないといけないっていうか。楽しい音楽をやるとしたら、やっている人たちは暗くないと意味がない。それこそ、人を殺したことがある人たちがバンドを組んで、『やってられないよ』って歌詞で楽しい曲をやってたら、僕は納得するけど。でも、今こういう状況に置かれてる僕たちがそれをやっても何の説得力もないな、っていうね。『だとしたら、どうする?』と考えると、おそらくこういう曲調になるだろうなと。非常にフラットで、パッと聴きはポップ・ソングとして機能していて聴きやすいんだけど、確実に影が差し迫っている、っていうのがいいのかなっていう」
菅原「なんか、嘘がないっていうか。『AFTER HOURS』の世界が自分たちの生まれ育ったところっていうのはわかってたけど、『AFTER HOURS』ってそれが実として伴ってない――って言い方は変ですけど、ちょっとそこは置いといて、みたいなところがあって。まあ、これは俺だけかもしれないけど」
●ネガティヴなところは置いといて、ってこと?
菅原「もっと全体的な話ですけど、でも、そういうことです。それが、『AFTER HOURS』出して一年ツアー周って、ちょっと実になってきたかな、っていうのがあって。その上でのこれだから、すごいしっくり来てるっていうか。それは歌詞にすごい出てるな、と思って。結構、夏目のことだなって」
夏目「フハハハハッ! まあまあ、うん」
菅原「“KISS”も“CHOKE”も、結構、夏目の中にあるものが出てるなって」
大塚「ああ、そうだね」
菅原「それは結果的にはいいことだと思うし、正解だと思います。嘘ついてないっていうか。それを人に届けるためにポップにしてるから、頑張ってますよっていう。“PM 5:00”なんかは完全に自分、俺らの、っていう意識で作ったし」
●別のアナロジーで言うと、漫画家の吉田秋生の作風でたとえるなら、『AFTER HOURS』が『海街diary』で、若干こっちには『BANANA FISH』とか『YASHA-夜叉-』とか、ああいうものが紛れ込んできた気がする。
夏目「うんうん。そうです、そうです。僕の中で、悲しみとか、虚無みたいなものはフィクションにしない方がいいなっていうアイデアはあって。たとえば、坂本(慎太郎)さんの作品とか、オウガ(・ユー・アスホール)とかは、悲しみとか虚無ってものをフィクションにして出すことで、なにか人の気持ちとか、社会に揺さぶりを起こせたらな、っていうアイデアがあると思うんだけど。その悲しみとか虚無みたいなものを、もっとプライヴェートなものとして感じさせるやり方をしたいな、っていうのはあるんです」
大塚「その二つは好きなんだけどね」
夏目「そうそう。俺、ほんと好きだから。だからこそ、違うものにならないといけない、っていう。だから、この作品の中で起きてる悲しいことや決してポジティヴじゃないことは、あくまでプライヴェートなことに限定しているんですよ。世界がどうなる、社会がどうなる、僕が言ったことは誰も聞いてない、っていう全体の中の悲しみをフィクションとして出すんじゃなくて。ある一人の男が生きていて、そいつのどうしようもない――あ、女の子でもいいけど――ところを、極力、純度の高い形で出せればな、って狙ってました」
●個人的な話をすると、俺、あの二作品に対してはすごくアンビヴァレントな思いがあるんですよ。あれを聴いていると、まさに自分自身が感じていて、マイノリティかもしれないけど、そのマイノリティの大多数が感じていることを、ここまで見事に完成度高く形にしたレコードはないな、って思うわけですよ。
夏目「うん、僕もそう思います」
●と同時に、「俺、それ、いらないかも」とも思うわけ。本当はあれだけすごい作品を作った作家に対してはそんな風に言いたくはないんだけど、確かに感じる部分ではある。
夏目「その気持ちがあるから、『本当は僕らは踊れるレコードを作らないといけない』って気持ちがあるわけです」
●なるほど。ただ、その前には、このダークでムーディな部分をまずやらなきゃ、ってことでもある?
夏目「そうだし、街で過ごしてる人たちの歌を作っていて、そこは僕たちの故郷だけど、僕たちはそこを出たわけで。だから、『どうして出たのか?』っていうのをちゃんと説明しておきたかったっていうのはある。そこの責任をほっぽり出したら違うな、っていう」
●なるほど。今の夏目くんの話と、菅原くんと夏目くんの二人で書いた“PM 5:00”の「あの電車に乗らなくちゃ」っていうリリックは、何か繋がる部分はあるんですか?
夏目「(菅原に対して)あるね。最初に俺がしゃべると、『AFTER HOURS』で描いた続編だから、『AFTER HOURS』の風景とわざと重なる言葉をたくさん入れて、ミルフィーユにした時に作品として面白いように仕上げてるんです。“MODELS”で描いた女の人は、この町に住んでいて、違う街に出かけて仕事をしてもそこに帰ってくる。帰ってくることが約束されている電車に乗るって行為だけど。でも、(“PM 5:00”の)少年たちにとっては、戻っては来るんだろうけど、ちょっとニュアンスが変わってくるかなって。どこか連れてってくれるものだし、多分、電車に対して誰かをこの街に連れてくるってイメージは持ってないと思うんですよね、少年は」
●逆に、外に運び出すっていう?
夏目「そう」
●エルヴィスの“ミステリー・トレイン”から延々と続く列車というメタファーの系譜ってことだね。じゃあ、この曲は菅原くんと夏目くんの共作になっている。どんな風に作ったのか、教えてください。
菅原「新作を作るっていうのが決まって、それが『AFTER HOURS』の続きの世界を描くっていうのが決まるじゃないですか。そうすると、続きを描くわけですから、まったく新しいものを作るのとは違う。でも、おおまかな作業的なところは一緒だから、そこにちょっと物足りなさを感じあところがあるんですね。なんか、飽きちゃうなって。で、4曲か5曲がバッと並んだ時に、『ここでなんかひとつ入れないとな』と思って。そこで、“PM 5:00”は、歌詞の内容も俺だけの問題じゃなくて、多分、俺ら全員が思ってたことだし、入り込めるな、と思ったんです。だから、『ここは参加させて』って俺の方から言ったと思うんだけど。でも、人の詞にああだこうだ言うのも違うと思ったから、『これ、半分俺歌うし、歌詞は半分書かせて』って」
夏目「曲を作ってる段階で、『あ、これ、俺が歌っても面白いかもな』ってポロッと言ってきて。本当に、ちょうどよく半分くらい出来てたんですよ。だから、『あ、じゃあ、もう半分書いて、半分歌っちゃった方がいいよ。二人で歌ってる曲があったほうがいいし』って言って、俺の歌詞は渡して。で、持ってきたものを交互に合わせたら、ストーリーも読んでやってくれてるから上手く行ったな、っていう」
菅原「だから、さっきの当事者問題に話が戻ってきて。『AFTER HOURS』はすごい大好きだし、めっちゃよかったけど、(“PM 5:00”は)この二作の中で自分の居心地がいい場所を作ったって感じですね。詞だけじゃなくて曲も……」
大塚「かなり入れてたよね。これ、菅さんの曲だと思うくらい」
菅原「俺がコードを考えたのは4分の1くらいだけど。ただ、まだよくわかってないんです、この曲に関して。ライヴで一回もやってないっていうのもあるし」
夏目「この曲だけコントロール出来てない、っていうのがあるんですよね。わざとそうしたっていうのもある」
菅原「ああ、そう。そこは俺、わざと崩したかった。『コントロールさせない』っていうのが、ロック・バンドとしてリアリティがあるかな、っていうのはずっと思ってて。そこは意識的にあったかな」
●ある意味、ここ二作のウェルメイドなポップ・ソングな方向性に対するカウンターをやろうとしたとも言える?
菅原「そうです、そうです。身内なりの反抗っていうか(笑)」
●でも、そういう意識が目覚めたのは、一個人としてっていう部分以上に、シャムキャッツってバンドを俯瞰した時に、ディレクションとして必要だっていうところがあったんじゃないですか?
菅原「そうですね。バンドってそういうバンドが好きだし、ちょっと一人……」
●全体と違う方向を向く奴?
菅原「そうそう、その役割が……」
大塚「みんな、そういうところあるよ」
菅原「いや、みんな、そういうところあるけど、あまりにも揃ってたから」
●すごい揃い始めていた、っていうね。
菅原「そうそう、それがちょっとつまんないな、って思っちゃって。っていうのがあるかな」
藤村「……わりと従順になったな」
●ハハハハッ!(笑)
大塚「急に反省しなくてもさ(笑)」
●人もそうですけど、バンドも二項対立じゃなくて、幾つかのベクトルが常にあることが何よりも健康的だから。ひとつのベクトルに関してはやりきるところまでやった方がいいけど、それで他のベクトルがなくなっちゃうのはマズい。
菅原「それがなんで、これで出来たのかはわからないですけど。タイミングもあったし、いろんな条件が重なって。『ここは俺は従っとくよ』っていうのを作ってもよかったけど」
●でも、今のシャムキャッツ、これからのシャムキャッツにおいては、作品ごと、もしくは、曲単位で菅原くんがどんな風に考え、どんな風に振る舞うかが、かなり重要だと思いますよ。菅原くんが思っている以上に、菅原くんがいろんなことを決めた方がいい気がする。だから、“PM 5:00”みたいに、菅原くんから「これ、一緒に書こうぜ」とか、「これ、やってみようぜ」っていうのがあった方がいいと思う。
菅原「よかった」
夏目「そうそう、それは思ってた」
●キャラクター的にも引いちゃいけない人だよ。むしろ出過ぎて、「おおーっ!」ってみんなが言ってる方が、バランスとしていい。それ向きじゃないって自分で思ってるでしょ?
菅原「向きじゃないっていうか、面倒臭いですよね」
大塚「ハハハッ」
●だから、ポイント、ポイントで、絶対あった方がいいと思う。
菅原「それは多分、意識の底では思ってるんだと思いますけど」
夏目「でも、多分、メンバー全員が菅原がさっき言ってたような気持ちは抱えていて。だから、この曲をどうしようか、っていうのは揉めたのはあると思う」
菅原「ああ、揉めたね、確かに。これはリード曲にするっていう案もあって」
夏目「あと、作ってる段階でも、ギターをもっとパンキッシュに、それこそ、ちょっとリバティーンズみたいにしよう、みたいな案も出たりとか。わかりやすく振っちゃうっていう」
●なるほど。じゃあ、次は“WINDLESS DAY”。要は、凪の日? この5曲の中で一番ダウンテンポだし、リズムレスな瞬間も多い曲ですよね。ほぼギターのアトモスフィアと歌だけで聴かせる部分に、それなりの尺を割いたりもしている。
●こういう作りっていうのは、かなり意識的だったんですか?
藤村「感覚的に、みんな意識してたと思いますね」
大塚「途中と最後にベースのソロが入ってるんですけど、あれは最初、『入れないで』って夏目は言ってて。『凪だし、出来るだけ変えない』っていう。まあ、つまらないと思ったから入れたんですけど(笑)」
●(笑)じゃあ、夏目くんの中では、「なんにも起こらない」っていうのをサウンドとしても形にしたかったっていうこと?
夏目「そうですね。要は、このミニ・アルバムって、『バンドってこういうこと出来るんですよ』ってことを出したかったところがかなり大きいから。こういう技知りましたよ。こういう構成知ってますよ、出来ますよ、もう。マイナーでも曲作れますよ――っていうのを出したかった。その中のひとつとして、構成美として、いろんなものが入ってきたり抜けたりして、最後はパッとまとまって終わる、っていうのが作りたいってところから始まったけど、最終的には全然違くなった……ってのがこれ」
全員「(笑)」
大塚「違くなったの、夏目的には?」
夏目「でも、途中からテーマも見えてきたから、わかった。『ああ、こういう感じで行くなら、こういう歌詞で行けるな』とか。バンドのダイナミズムがわかりやすくある曲があった方がいいと思ったから」
●この曲の歌詞のモチーフは、どういったことに影響されているんですか?
夏目「はっきり言っちゃうと、去年一年間、それと今年入ってから、身近な人の死がすごく多かったんですよね。僕、生まれてからこの歳になるまで、死ぬってことに対して考えたことがほとんどなかったんですよ。おじいちゃんは死んでるし、悲しかったけど、『死ぬってことは、一体どういうことなんだろう?』ってことまでは、はっきり言って考えが及ばなかったんですね。『そりゃ、歳くったら人は死ぬだろう』くらいの感じで。でも、周りで歳くってない人が死んでいったっていう。だから、死っていうものをモチーフにしたいな、っていうのはあったんですよね。で、『風が吹いてない日の歌にしたい』っていうのは、確か最初から言ってたんですよ。デモで聴かせた時も、“風のない日”ってタイトルだったから。だから、なんにも起こってないんだけど、死ぬってことは常にある。それってどういう感じかな? っていう」
●なるほど。
夏目「それと、歌詞のモチーフとしては、シャムキャッツのライヴに来ないようなお客さんのことを歌いたかった。僕たちの周りの人や、僕たちの音楽を聴いたりする人は、まあ、僕たちと近い感覚でいるだろうと。だから聴いてくれると思うんですけど。でも、死というものを考えると、普通に働いて家に帰って、キスマイの番組見たりとか、EXILE聴いたりとか、西野カナ聴いたりとかしてる人たちも、そんなに感覚は違わないんじゃないかな? って気がしてて。だから、居酒屋でバイトでもしない限り、しゃべる機会はないだろうな、っていう感じの女の子の歌を作りたかったんですよね。そしたら、こうなった。すごく簡単な言葉で、っていう。これは三人称じゃないし、自分のことも歌ってない。僕が本当にその子になって書く感じがいいんじゃないかな、と思って。そういうスタイルは、実は今のところ取ってきてなかったなって」
●自分と一生会わないかもしれない、自分と明らかにトライブとかライフスタイルが違う人について書きたい、っていうモチヴェーションって何だと思います? 前半の話とも繋がるような気がするけど。
夏目「なんだろうね? でも、そういう人と話せるはずだな、って気はしてるってことですよね。話す余地があるぞ、っていう気が本当はあるんですよね」
●「そこはもう会話は成り立たないでしょ?」っていう常識がわりと一般化しているのも嫌なんじゃないですか? 誰もがそれを諦めていて、それを必要としていない空気感さえある。人の繋がりが分断されていて、しかもその中での会話がすごいハイコンテクストになっていて、一歩その外に出るとわからない。そういうことも含めて、ちょっと嫌だった?
夏目「そう、嫌だし。あと、思い出した。いろんなところでライヴしたりとか、地元に帰って人としゃべってたりすると、『むしろ遮断してるのは僕たちの方なんじゃないかな?』と思うことの方が最近多くて。はっきり言って、オリコンでバーッと上になってるアーティストたちのことは全然好きじゃないけど、あっちの音楽聴いて好きだなって言っている人は、案外、間口が広い。知ろうとしてる気持ちは実はあったりするな、と思ったんですよ。だから、俺からその家に入っていこうかな、って気分はあるっていうか。でも、俺のやり方で」
●『たからじま』のタイミングで4人と話した時に、「今のJ-POPは『会いたい』とか、『会えない』っていうようなことばっかり歌ってるけど、そこはどう?」って俺が訊いたら、夏目くんは「結局、自分たちもやりたいのはそこだと思う」って言ってて。俺からすると、「そうだよな!」っていう。そこを否定する理由はひとつもない。で、今のモードというのは、そこから地続きで、より視界が明確になってるっていうことだよね? あるいは、今、それが必要だって感じてる?
夏目「うん。だから、この曲はとびきりわかりやすい言葉じゃないと駄目だと思ったし。それこそ、詞を見ただけでは、死みたいなものはなるべく感じさせない、っていう」
●死についてのニュアンスは、「その時」っていう曖昧な言葉だけに集約させているし、「おろしたてのコートだって急に/そう明日とか/気に入らなくなっちゃうかもしれないし」っていうラインで匂わせるくらいにしてる?
夏目「そう(笑)」
●意外とよく聴いてるでしょ?(笑)。
全員「ハハハハッ!」
●つまり、あらゆる意味で横断的なポップのあり方に、どこか意識的になってるってことだよね?
夏目「なってると思います。元々そういう性格だった、ってことだと思いますけど。いろんな影響があるけど、かなりたくさん。外タレとやったことでも、実はそういうところに向かってると思うし。あの人たち、心がすごい広い。超オープン・マインドで、日本人と全然違うっていうのは、付き合えば付き合うほど感じるから」
●そうなんだよねー。あの人たち、日本で言う「インディっぽさ」っていうのは一切ないからね。
夏目「そういうのを見ても、学ぶことしかなくて。『ああ、もうこういうスタイルじゃ駄目だな』っていうか。とにかく、俺の心はずっと開けっ放しでいよう、って気持ちで最近はいるかな」
●そうした夏目くんの実感は、三人としてもずっとシェアしているもの? つまり、シャムキャッツは実験的な部分はあるかもしれないけど、J-POPバンドになるのか、ならないのかっていう。
菅原「もう全然、最初からJ-POP作ってる」
夏目「J-POP作ってる(笑)」
大塚「最初そういうつもりだったよね? ただ、作り方は違うというか、やれることは違う」
夏目「でも正直、その辺は上手くやらなきゃいけない部分だと思うから。簡単に、『J-POP作ってます』って言っていい時代は、後3、4年経たないと来ないかなって気はする。でも、そういう時代を作るためにバンドをやってる、って意識はすごくある。『こっちを普通にさせてやるぞ』って気持ちかな」
●J-POPを再定義する、っていうね。
夏目「フフフフッ、そうそう(笑)」
●リード・トラックでもある一曲目の“GIRL AT THE BUS STOP”についても訊かせてください。さっき夏目くんは、ものすごくゆっくりなハウス、みたいなイメージだって言ってたよね?
夏目「(笑)まあ、最初はオーケストラ入れてもいいかな、って思ってたくらいなんで。めちゃくちゃゆっくりな、ぬるま湯につかってるようなフォーク・ハウスみたいな(笑)。そういうものになったらいいなと思って」
●そのイメージはシェアされてたんですか? 曲を書いてる時に。
夏目「あ、でもそれは、セッションを重ねて、この曲が形になりそうだな、ってなった段階で、そっちに振ったってことです。最初は全然違ったっていうか、漠然としたイメージだけあって。なんとなく、『このコードで行きたい』っていうコード進行がある中で、いろんなビートをはめていって、感じに合うものを選んで、これになったっていう。16でずっとアコギを弾くことによって、景色っていうもののベースが綺麗なパステル・カラーで塗れる、っていうのがあって。スミスの“セメタリー・ゲート”とか、そうだったんですけど。とにかくアコギの16がずっと鳴ってるっていう。そういう手法を使ってみたかったんですよね」
●リリックのモチーフという部分で、一度失われたもの、ノスタルジックなフィーリングに焦点を当てたのは?
夏目「自分たちが住んでた街で一番綺麗だなと思ってた景色って、ここで描かれている、湾の向こうに工場が光ってるような景色だと思ってて。僕ら、そこで遊んでたんですけど。『でも、それを書き忘れてたな』っていう。じゃあ、それを描く時に、『どういう技があるかな?』って考えると、(リリックの登場人物に)思い出させるのがいいかなって。きっと記憶の中の景色の方が、今、現実に見る景色より綺麗なはずだから。なので、自然とノスタルジーな方になった。でも、歌詞にも出ちゃってるから、わざわざ言うまでもないんですけど、『綺麗だったな、あの子に恋してたな』って思い出す、そのノスタルジーが重要じゃなくて。それを思い出した段階で、『なんか行動に移してもいいんだよ』っていう。『それでも遅くない。遅かったとしても、お前が悪いんだから、一人で生きていけ』っていう……こと(笑)」
●説明しちゃったね。
夏目「ハハハハッ! してほしいのかな、と思って(笑)」
●(笑)じゃあ、アルバムのタイトルを『TAKE CARE』にしたのは?
夏目「あとから気づいたんですけど、前作の『AFTER HOURS』ってヴェルヴェッツの3rdの最後の曲と同じ名前で。その曲もすごい好きなんで、最近、日本語訳してソロで歌ってたりするんですけど。で、今回は曲が5曲上がった段階で、タイトルはずっと迷ってて。アートワークやってくれたサヌキ(ナオヤ)くんと話してたんですけど、『どういうイメージで作ったの? 全体的に。本当に言いたいことって何?』って言われたから、『う~ん、頑張れ、ってことかな』みたいな、ふざけて言ったんですよ。『俺なりの頑張れソングを5つ並べただけ』って。そしたら、また別のアイデアとしてサヌキくんが、『じゃあ、また今度、好きなバンドのアルバムの中から最後の曲選んでみようよ』ってアイデアを出してきて。で、二人共通して――俺ら全員好きだけど、ヨ・ラ・テンゴが好きだったから。一番好きなアルバムの『サマー・サン』の最後の曲が、“テイク・ケア”っていうタイトルだったっていう。『テイク・ケア。あ、ぴったりだね、さっき言ったことと。なんか、離れるってことに対して、全部の曲で歌ってるもんね。頑張れって、そういうことなんじゃないの?』って話になって。『そうですね』と(笑)」
全員「(笑)」
●『TAKE CARE』、いいよね。「ケア」って言葉は大好きです。
夏目「なんか、優しい気持ちでいた方がいいかな、っていうね。そういうことなんですけど」
●本当にそうですね。じゃあ、これまでの話の中で俺があからさまに取りこぼしているところはないですか?
夏目「……ないんじゃないかなあ」
菅原「“PM 5:00”は、最初の歌詞の段階で、夏目の意思が入ってたんですよ。バンドとして、昆虫キッズに捧げるっていう。だから、『虫も眠り』とか、『どうしてここにいたいのか/たまにわからなくなるのさ』とか入ってたり」
夏目「そうそう。とにかく、昆虫キッズに捧げる曲を作るっていうのは言ってたな。っていうか、昆虫キッズだけじゃなくて、周りのバンドがどんどん辞めていくから。でも、僕たちはまだやらなくちゃいけないな、っていう風に感じている。それをこのタイミングでやっておかないと意味がないかな、っていう」
●でも、他のバンドに比べても、昆虫キッズが解散ってことが、4人にとってはデカいでしょ?
夏目「そうですね。あ~あ、って感じ」
菅原「ヤングっていう、昔ほんとに仲良かったバンドも解散するし」
夏目「最近は関わりなかったけど、SEBASTIAN Xって一応同期みたいなバンドも解散するし。『たからじま』の時も話したけど、同じ年のバンドは(神聖)かまってちゃんとSEKAI NO OWARIしか残ってないっていう」
藤村「ニコ タッチズ ザ ウォールズとか、あとベースボールベアーもかな?」
●でも、それ聞くと、世代感なくもないね。それぞれがバラバラだっていう見方もあるけど、土台は同じところなんだって感じはする。で、全員が同じ方向を向くことが出来なかった世代っていう。
夏目「本当にそうなんですよね、僕らの世代は。下になってくると、結構まとまってるんですよ」
藤村「いろんな奴らがいた感じがする」
夏目「いろんな奴らがいたし、まとまらないから時間かかっちゃってるんだよね、みんな」
大塚「確かに(笑)」
●あと、何をすべきかに対しての正解が本当になかった世代ってことだよね?
藤村「本当に悩みの種でしたね、それ。何が正解なのか、っていう」
夏目「だから、僕らのバンドの最初っていうのは、闇雲に、ただすべてに反抗するしかなかったっていう。360度。もはやパンクになるのも違う。むしろバックグラウンドなんてないんだ、って言うしかない」
●自分もそうだから敢えて言うんだけど、ある意味、90年代の相対主義の哀れな犠牲者っていう。
夏目「アハハハッ!」
●実際、『たからじま』の時は、方向性を持ちたくない、スタイルを築き上げたくない、みたいなところはあったでしょ? でも、“PM 5:00”みたいな曲を入れて、敢えてそれを壊していこうという意識がありながらも、現在のシャムキャッツのスタイルというものが出来上がりつつある。これって、喜ばしい側面と悩ましい側面があると思うんですけど、現時点ではそれをどう感じてますか? 第三者的に見ると、非常にエキサイティングではあるんだけど。
夏目「僕は、今、それ自身を楽しんじゃってる部分があるかな。『どっちにも行けるし』っていう。こういうサウンドでこういう歌詞のテーマで、5曲入りでこういうものを作るって人は、『まあ、いないだろうな』って思うんで。バンドってライヴや盤を重ねて進化していくと思うんですけど、いろんな進化の仕方があるじゃないですか? たとえばトーキング・ヘッズは、この人たちはこうなるなっていう道は三枚目くらいで見えてましたよね? ちゃんと成長していって、その方向でがっつり素晴らしいものを作っていく。でも、ブラーなんかは全然違っていて、まとまった風なものを作ったと思ったら、全然まとまってない。ほぼ解散状態になったと思ったら、急に日本に来る、っていう。まあ、そういう人たちの方がいいかなっていうか。トーキング・ヘッズ式の進化をしていく人は結構いると思うけど」
●ceroとか、そうだもんね。着実にビルド・アップしていってる。
夏目「うん。ミツメとかも、もしかしたらそうかもしれない。でも、違うやり方でもいいんじゃない? って気はしてます。自分たち自身、飽きやすいから。あっち行ったり、こっち行ったりするしかないかな、っていう。もっといい作品作りたいし、『いいね』って言われたいけど、俺も面白がりつつやれたらなって感じ。でも、そんな感じでしょ?」
大塚「そうそう」
藤村「そうだよ」
大塚「むしろ、なんでも出来るようになったって感じだと思います。まとまった。今まではやりたいことが出来なかっただけな気がする。それで単純にグシャッとなってた、って感じで。それが『こなれた』って言われたらつまらないけど、でも、単純にやれることが増えたんですよ。だから、もっとやれそうだなって気持ちはみんなあると思うし、逆にやらないってことも出来るし。まあ、確立したってわけでもなさそうだけどね。ひとつのスタイルにはなっていなそう、まだ」
夏目「まあ、ないんじゃない? スタイルとかは、きっと。ずっとね」
●だから、バンドのライフ・サイクルで言うと、今が一番悩みが多く、一番楽しいタイミングだと思うよ。ちょうど思春期が終わる時くらいの感じ。
全員「ハハハッ!(笑)」
夏目「あ~、それは大変(笑)」
●シャムキャッツの思春期は終わった、ってことだと思う。
藤村「確実に去年で終わったな、って意識がありますね」
夏目「まあ、終わらせたかったっていうのはあるよね。疲れるからね」
●うん、思春期は楽しいけど、疲れるから。でも、本当の勝負も、楽しくなるのも、思春期終えてからだよ。もうとんでもなく楽しいよ。
夏目「楽しそうって予感はすごいしてるんですよね。次、自分たちが出す駒が何なのか、どこに打つのか。それは今、結構ワクワクしてる」
●でも、何やるの? 次。て、いきなりですが(笑)。
夏目「次、ね。何やる?」
大塚、「えっ、何かあるの?」
夏目「まあ、ロック回帰しようと思ってるんですよね、簡単に言うと。ただ、元気なオルタナティヴ・ロック・バンドじゃなくて、タランティーノの『レザボア・ドッグス』の、(ジョージ・ベイカーの)“リトル・グリーン・バッグ”みたいな。ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥンじゃないけど、ああいうダークなノリなんだけど、ひたすら踊れる。ベースのフレーズかっこいい、ギターのフレーズかっこいい、ヴォーカルかっこいい、ドラム、ストイック、最高。ってやつがいいかな、と思ってるんですよ」
●難しそうだね~(笑)。
全員「ハハハハッ!」
夏目「ただ、難題をやろうとした時の方が力を発揮する人たちだと思うから」
●となると、コードの展開っていうよりは、ベースがトニックふたつの円環するリフで組み立てていったりとか?
夏目「リフっぽくはなると思うんですけど、そこで上手くやれたらな、って感じ。それこそ、R&Bとかの構成をもう一回勉強して、自分たちなりに再構築するって作業になるな、とは思ってるんですけど。今言った曲とかは、リズムとかが結構ラテンっぽくて、キンキンキンキンってのが入ってたりするし。だから、これまでネアアコを参照してやってきたけど、今度はネオアコをやった人たちが参照した音楽に自分たちが手を出して作るって感じだとは思うんです。葉巻っぽい感じ、っていうかね。なんか、煙たい感じがちょっとやってみたいっていう。わかんないですけどね、どうなるか。ロック回帰って言うのは変だけど、音数も少ないってことだと思うんですよ。だから、ベックの『モダン・ギルト』みたいなやつをもうちょっと自分たちなりに、しかも、それをもうちょっと汚れを落とした感じでやれたら、ってイメージ。あの作品にはサイケが入ってるけど。でも、まあ、どうなるか。全然違うものになるかもしれないですけどね」
「シャムキャッツinterview part.1
暮れていく夕日に幸せを感じる人にも
気持ちが沈んでいく人にも、優しさと
厳しさを届けるポップを目指して」
はこちら。
「特集:シャムキャッツ
2014年春の記憶と共に、歴史に
刻まれた『AFTER HOURS』」
はこちら。