年が明けてもう1ヶ月以上経ったというのに昨年について書くのもどうかと思うが、そもそも“年間ベスト”というものをまとめることが苦手で、選びあぐねている内に得た情報でアルバムや楽曲がまた違って聴こえるようになり、セレクションがどんどん入れ替わっていく始末だ。例えばポップ・スモークの“ウェルカム・トゥ・ザ・パーティ”は、昨夏に同曲を収録したミックステープ『ミート・ザ・ウー』を耳にして、「ブルックリンのラッパーがUKっぽいビートを使っているのは面白いな」ぐらいの感想は持っていた。それが最近、ブルックリン・ドリルとUKドリルの相互作用、そしてオリジンとしてのシカゴ・ドリルに関する記事を読み、現代における文化の流動性を象徴する楽曲なのではないかと改めてその重要さに気付いた次第である。
いまオリジンと書いたけれど、シカゴ・ドリルももちろん様々なラップやビートとの影響関係の中から生まれてきたわけで、宇野維正/田中宗一郎『2010s』に倣って2010年代を振り返るとしたら、ワカ・フロッカ・フレイムとレックス・ルガーの“ハード・イン・ダ・ペイント”を起点のひとつに挙げたい。ただ当時は同曲をそこまで特別なものとして捉えられていなくて、単に自分がポピュラー音楽を評価する才能に欠けているのかもしれないが、それはやはり時間をかけて徐々に整理されていくものなのだろう。
2019年は「移民とラップ」という連載を始めたこともあって、今まで以上に音楽の流動性と人間の流動性の関係に興味が向いていた。21サヴェージの“ア・ロット”は、YGの“ゴー・ロコ”とどちらを選ぶか迷ったが、アトランタをリプレゼントしていた前者が移民・関税執行局に逮捕され、イギリスからの移民だったことが判明、彼を揶揄する声に対して、自身も移民の両親の間に生まれたカーディ・Bがインスタグラムで書いた「21サヴェージはアトランタで育った! 彼の子供と家族はアトランタに住んでいるし、彼はコミュニティにサポートされて人気を得た」という擁護のメッセージと合わせて強く印象に残っている。そのことについて考え続けている内に1年が経ってしまった。
〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2018年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 辰巳JUNK
「〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2019年の年間ベスト・アルバム、
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「2019年 年間ベスト・アルバム 50」
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