「ジャパニーズ・ミニマル・メロウ」をキーワードに、突如としてシーンに登場した若きトリオの、素晴らしきデビュー作。偶然なのか、あるいは引用か、オウガ・ユー・アスホールもこれとほぼ同じ言葉をコンセプトに掲げていたことがあったが、実際のところ、両者のアプローチはまったくの別物といっていい。つまり、オウガがドラムやパーカッションの打点を強調しながら、極めてタイトなファンクやボサノヴァを演奏していたのに対し、D.A.N.がここで音楽的な主要素としているのは、エレクトロニクスを用いたクラブ・ミュージック。ポスト・ダブステップ以降のUKベースと共振し、なおかつ現行の R&Bにも接続したメランコリックなサウンドは、このデビュー作の時点で、すでに他の追随を許さないほどの完成度を見せている。バンド・サウンドの在り方を再提示することにもなった本作は、今後の国内インディ・シーンにおける、ひとつの指標となっていくに違いない。(渡辺裕也)
はじめて買ったアルバムは、15歳の頃にKマートで見つけたデヴィッド・ボウイのヒット曲集。以来、グラム・ロック期のボウイを最大のロール・モデルとしながら、クラフトはそこを起点にブルースやジャズ、サザン・ソウルなどを掘り下げていく。実際、ラグタイム調のピアノで幕を開ける本作に耳をそばだてると、その派手なルックスとは裏腹なルーツ・ミュージック志向の強さがアルバム全編からうかがえる。しかも、それをフレディ・マーキュリーさながらの熱唱型ハイトーン・ヴォイスで歌い上げるというスタイルは、昨今のトレンドからすればあきらかに時代錯誤だが、それゆえに強烈なインパクトを放っていたのも事実。加えて、このデビュー作のリリックには宗教的なモチーフがふんだんに盛り込まれており、それこそジギー・スターダストに倣ったようなペルソナを用いながら、そこに地元ルイジアナで信仰されるブードゥー教の神話が絡んでいく世界観は、かなりエクストリーム。同時にそれは、アフロ・アメリカンの社会的なステイトメントが際立つ現在の北米シーンにおいて、見過ごされてきた声のひとつでもあるのかもしれない。(渡辺裕也)
うるせえ! この舗装されていない砂利道のような、ささくれだったギターと破裂したようなドラム・サウンドは、ともすれば過剰にロックを演出したフェイクになりかねないが、ギリギリそうならないのは「さすがはロック先進国イギリス人」と言うべきか。2015年、ロイヤル・ブラッドが切り開いた「大文字ロック」復権への道に続くように1st『アー・ユー・サティスファイド』を全英8位とヒットさせた彼らスレイヴスだが、結局状況は何も変わらず、この2016年においてもインディー不況は続き、大文字のロック含めバンド音楽全般はますます厳しくなる一方。そんなどうにもならない凝り固まった現状を打破するためのヒップホップの拝借こそがマイクD起用の要因かと思いきや、音の太さと強くなったビート感以外にはそれほどヒップホップ要素は感じられず、前作の延長線上という印象。正直物足りないところも多々あるし、個人的にはまったく好みでもないが、ここにはロック・ミュージックを今の時代に響かせようという意志と行動、そして知恵によるユーモアがある。暗く長いトンネルはまだまだ続くが、だからこそ歩みを止めてはいけないのだ。(照沼健太)
今年、USヒップホップ・シーンでは「マンブル・ラップ」という言葉が議論を呼んだ。それは、モゴモゴと何を言っているのかよく分からない、スキルも言いたいことも弱いラップというような意味の蔑称で、シングル“パンダ”で全米チャートを席巻したデザイナーやリル・ヨッティーといった若い世代のラッパーが槍玉に上がることになった。このリル・ウージー・ヴァートも「マンブル・ラップ」と揶揄されたラッパーの一人である。彼がテーマとして取り上げるのは、首尾一貫して社会的な議題というよりも恋人への愛。この『VS・ザ・ワールド』にしたって、タイトルは映画にもなったグラフィック・ノヴェル『スコット・ピルグリム』へのオマージュで、流行りのトラップに乗せて、恋人との関係を漫画やアニメを参照しながら綴っている。確かにこの地域性、社会性の希薄さはとても新世代的だが、トラップにしてはカラフルなトラックや、歌とラップの間を行くキャッチーなフロウにはどうにも抗い難い魅力がある。言うなれば、彼の音楽は、アトランタのトラップとドレイク率いる〈OVOサウンド〉周辺を繋ぐ、今もっともコマーシャルな可能性を秘めたヒップホップの形なのだ。(青山晃大)
ここ数年、特にアンダーグラウンドなテクノ・シーンの潮流としてスカミーなインダストリアル・エレクトロがブイブイ言わせてたわけですが、そのなかでガッチャンガッチャンと電子音を鳴らしつつプロップスを得て、ついには〈XL〉との契約までもぎ取ったパウエルくん。アルビニ先生にサンプリング許諾のお伺いを立てたところ「クラブ・ミュージックとかでえっきれいだ」と言われたたあの事件が話題になりましたね。でもこれ決してクラブ・ミュージックではありませんよ。ゲラゲラとスイカを割りながらリリースした1stアルバムは、テクノの新星というよりも、わりとロッキンでパンキッシュなつんのめり具合。で、これがまたパウエル史上もっともポップじゃないかと。ガラクタで作ったエレクトロニック・ボディ・ミュージックというか、ガビのいない初期のD.A.F.(ウェストバムの自叙伝最高!)というか、あ、スーサイド(アラン・ヴェガR.I.P.)も。そのあたりの音を、エイフェックス・ツイン的なご遊戯精神でカット&ペーストというか、そう、なにより難しい顔で作ってなさそうなのがイイんですよね。それがポップさの秘訣じゃないでしょうか。(河村祐介)
2016年 年間ベスト・アルバム
61位~70位
2016年 年間ベスト・アルバム
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