SIGN OF THE DAY

祝、アラバマ・シェイクス待望の来日公演!
厳選した超絶ライヴ映像から見る、世界中を
シェイクさせてきた祝福と喜びの歴史。後編
by YOSHIHARU KOBAYASHI October 11, 2016
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祝、アラバマ・シェイクス待望の来日公演!<br />
厳選した超絶ライヴ映像から見る、世界中を<br />
シェイクさせてきた祝福と喜びの歴史。後編

今やアラバマ・シェイクスは2010年代を代表するロック・バンド。グラミー四冠でさらに勢いに乗り、「大型フェスの次期ヘッドライナー筆頭候補」という評価も盤石。彼らは間違いなく、今もっとも観ておくべきバンドなのです。

と言われても、2016年12月のジャパン・ツアーに行くべきか、まだ迷っている人も少なくないでしょう。そこで我々は、彼らの最新ライヴ・レパートリーから10曲をピックアップ。その聴くべきポイントを1曲ずつ、前後編にわけて解説することにしました。これを読めば、きっと彼らのライヴのすごさがわかり、当日のパフォーマンスも120パーセント楽しめるようになるはず。これぞ決定版の徹底ガイドです。

前編を読んでいない人は、まずこちらからどうぞ。



祝、アラバマ・シェイクス待望の来日公演!
厳選した超絶ライヴ映像から見る、世界中を
シェイクさせてきた祝福と喜びの歴史。前編


さあ、残すは後5曲。果たして何が入っているのか? 後編スタートです。




5. Don't Wanna Fight
2nd『サウンド&カラー』からの1stシングル。今のアラバマ・シェイクスを語る上では欠かすことが出来ない代表曲のひとつ。アルバムに先駆け、この曲が発表された時は、あまりの変貌に度肝を抜かれた人も多かったはず。

音の隙間を最大限に活かした、余裕と広がりのあるサウンドスケープ。かなり加工が加えられているようでいて、同時に、耳元で弾いているような生々しさも感じさせる楽器の鳴り。あたかも埃臭い田舎のガレージで一発録りしたようなサウンドだった1stからは想像もつかない圧倒的な進化。そのリリックも男女の恋愛におけるすれ違いをテーマにしつつ、異なる価値観や信条を持つ者同士の争いが様々な規模で起こり続ける今の社会に対するコメンタリーとしても機能しているという点で、ブリタニーの作詞家としての大きな成長が見て取れます。間違いなくこれは、彼らが踏み出した大きな一歩でした。

勿論これは、各地のライヴで絶対に盛り上がる一曲。このスコットランドのフェス〈Tイン・ザ・パーク〉でのライヴ映像のように、「これ以上戦いたくない」とオーディエンスが笑顔で口ずさみ、演奏に合わせて楽しそうにダンスするピースフルな空間が日本でも生まれたら、この曲は一層感動的に感じられることでしょう。

Don't Wanna Fight (T in the Park 2015)




4. Gemini
アラバマ・シェイクスのディスコグラフィの中で、もっともディープで冒険的なトラック。サイケデリック期のテンプテーションズがバッド・トリップしたような、ドラッギーでダークなスペース・ジャム。そして、これが『サウンド&カラー』で最初に作られた曲だという事実は、彼らが自らのサウンドを全く新しいものに塗り替えてしまうくらいの決意でアルバム制作に臨んでいたことを意味しています。

ここで見てもらいたいのは、2015年の〈オースティン・シティ・リミッツ〉でのパフォーマンスです。ドスンッ、ドスンッ、と重たいリズムを刻むドラムとベース。必要最低限のフレーズを弾くのに徹しながら、ミステリアスなムードを創出していくギターとキーボード。そして、静まり返った空間を自在に浮遊するような、艶めかしいブリタニーと男性コーラスのハーモニー。やはりライヴでもこの曲が持っている空気感は異質。オーディエンスも下手に声を上げず、息を飲んで聴き入っているかのよう。

Gemini (Austin City Limits 2015)


わかりやすいカタルシスを与えない、謎めいた曲だからこそ、演奏が終わった後も深い余韻を聴き手に残します。この曲が本編の最後に演奏されることが多いのは、そういったこととも少なからず関係しているかもしれません。それまでのパワフルなソウルやロックから一転、これでライヴ本編が終わった瞬間、私たちはどのような感覚を抱いてフロアに立っているのでしょうか。



3. You Ain't Alone
この曲は、1st『ガールズ&ボーイズ』の中でも特に有名なわけではありません。シングル・カットもされていない。しかし、彼らのライヴではほぼ必ずアンコールで披露される重要なナンバー。今回の来日公演に足を運ぶなら、絶対に押さえておきたい一曲です。

まずは2012年の〈Tイン・ザ・パーク〉に出演した時の演奏を聴いてみて下さい。オーディエンスのヴァイブが非常によく、それにバンドが感化されたかのような名演になっています。ブリタニーのエモーショナルな熱唱も圧巻。

You Ain't Alone (T in the Park 2012)


曲調としては、壮大で感動的なソウル・バラッド。そして、「オールライト」という言葉がとても象徴的に使われる、ある意味、サム・クックやジョン・レノンの系譜にある理想的なポップ・ソングでもあります。

Sam Cooke / It's All Right

The Beatles / Revolution


この曲のコーラスでブリタニーは、何かしらの不安を抱えている「あなた」に、「本当になんて言っていいかわからない……」と言葉を詰まらせた直後に、「オールライト」と何度も繰り返します。これは勿論、どう慰めていいか分からず、取り敢えず「大丈夫だよ」と言っているのではありません。力の限りに声を振り絞って発せられる「オールライト」という言葉は、不安や恐怖を抱えていることを恐れるんじゃない、そのまま進んでいいんだ、と背中を押すような力強さを宿しています。これは、聴き手を強く抱きしめると同時に鼓舞するような、極上のバラッドです。

せっかくなので、ここでは2016年9月に行われた最新のライヴ映像も貼っておきましょう。これは、ニール・ヤングなどが発起人となってスタートしたチャリティ・コンサート〈ファーム・エイド〉でのパフォーマンス。マイクを片手に歩き回り、身振り手振りを加えながら諭すように歌うブリタニーは、ベテランのソウル・シンガーか説教師のよう。

You Ain't Alone (Farm Aid 2016)


おそらくほとんどの客が、この後に出てくるニール・ヤングやウィリー・ネルソンを目当てのオジ様オバ様たち。なので、決して熱狂的な反応というわけではありません。しかし、この日のセットの最後を飾った“ユー・エイント・アローン”が終わったところでスタンディング・オヴェーションが自然と沸き起こっているのは、彼らの音楽、そしてブリタニーの歌が世代を超えて様々な人の心を揺さぶることを証明しているかのようです。



2. Hold On
アラバマ・シェイクスの記念すべきデビュー曲。今となっては、「アラバマ・シェイクスの一番の代表曲は?」と訊かれたら意見が割れるでしょうが、2012年の時点では全会一致でこの曲が選ばれていたはず。〈ローリング・ストーン〉では2012年の年間ベスト・トラック1位にも選ばれていました。

Hold On (KONK Session 2012)


BPM90前後。2コードのシンプルなギター・リフに乗ってのんびりと転がっていく、アーシーでブルージーなロック。20歳過ぎの若者たちのデビュー曲にしては落ち着き払っていると思えるかもしれません。しかし、そのリリックに耳を傾けると、まだ自分が何物でもないことへの焦りと、焦っても仕方ないんだ、という相反する二つの気持ちの間で揺れ動いている姿が伝わってきます。

この曲は若くして他界したブリタニーの姉の視点から歌われているとも言われていますが、視点の位置を空の上からに変えることで、目先のことで一杯いっぱいになっている自分をたしなめる狙いもあったのでしょう。コーラスで何度も繰り返される「ホールド・オン=踏ん張って、堪えて」とは、空から聴こえてくる姉の声なのかもしれません。変化を求めていても、焦らず着実に、冷静にやらなきゃ駄目。BPM90くらいのペースで、のんびりと、という。

勿論この「ホールド・オン」というメッセージは、大なり小なり何かしらの変化を求めている、全ての人に訴えかける力があります。だからこそこの曲は、ただの趣味がいいヴィンテージ・ロックとして消費されず、何年もの間、オーディエンスから自然と合唱が沸き起こるアンセムとして愛され続けているのでしょう。

下の映像はオーディエンス・ショットですが、最初から最後までずっと観客の合唱が続いている様子が素晴らしいので貼っておきたいと思います。日本のオーディエンスが一語一句全て覚えて合唱するのは、流石に無理。けれど、コーラスの「ホールド・オン」というフレーズで合唱が起こるだけでも、きっとそれは誰もが忘れることの出来ない、かけがえのない瞬間となるに違いありません。

Hold On (Barcelona 2016)




1. Sound & Color
さあ、遂に最後の一曲です。ここで取り上げるのは、勿論、2ndアルバムのタイトル・トラックでもある“サウンド&カラー”。この曲抜きに、現在のアラバマ・シェイクスを語ることは出来ません。

これを初めて聴いた時の鮮烈な驚きを覚えている人も多いでしょう。透き通った音色のヴィブラフォンと暖かいベース・ラインに導かれ、50秒過ぎにようやく、余裕たっぷりのドラムが入ってくるイントロだけで、この曲が何かしら特別なものだと理解出来ます。そして、それに続き、エモーショナルですが抑制の効いた歌声で、「新しい世界が窓の外にぶら下がってる」とブリタニーが歌い始めた瞬間、暗い部屋に希望の光が差し込み、何もかもが報われるようなフィーリングに包まれるのです。

Sound & Color (Official Video)


この“サウンド&カラー”がもっとも多く演奏されるのは、アンコールの一曲目。本編の後半で披露されるケースもあるようです。ここでは、2015年の〈ボナルー〉に出演した時のライヴを見てもらいましょう。ライヴのラスト2曲、“サウンド&カラー”と“オーヴァー・マイ・ヘッド”を収めた映像になります。

Sound & Color~Over My Head (Bonnaroo 2015)


願わくは、今回の来日公演でも、“サウンド&カラー”から“オーヴァー・マイ・ヘッド”の流れで締めてもらいたい。この素晴らしいライヴ映像を見ると、そんな風に思えてなりません。

“サウンド&カラー”で表現されているのは、「自分が望んでいたものに、後もう少しで手が届きそう」という感覚。まだしっかりとつかんだわけではない。しかし、求めていた理想が目の前にもう見えているんだから、きっと大丈夫、という安堵の気持ちです。そして、その穏やかな感情に包まれたまま、ドラマティックなゴスペル調バラッド“オーヴァー・マイ・ヘッド”で、もう一度エモーションの沸点に持っていかれるカタルシスは圧巻。最後にオーディエンスから大きな手拍子が沸き起こる様子も感動的。やはり日本でもこんな光景が見たい。そんな風に思います。

様々な争いや対立が絶えず、出口が見えない今の時代に、怒りや悲しみではなく、喜びと祝福のフィーリングに満たされた“サウンド&カラー”は、ともすればリアルではないと感じられるかもしれません。しかし、この曲の存在そのものが、理想への道筋がはっきりと見えた時の静かな高揚感と、それを手にするためには焦らず穏やかに歩み続けることの大切さを、今一度思い出させてくれるのは確かです。

そして、ライヴという不特定多数の人々が集まる場で、その祝福の感覚を共有しているという実感を得ること。それが何より掛け替えのない体験になるのは言うまでもありません。ここ日本でも、一人でも多くの人がライヴに足を運び、「音と色がわたしの心に寄り添って、口をきかなくたって船は行き先を示してくれる。もう遠くない……」と歌われる“サウンド&カラー”の穏やかな希望と喜びを、共に噛み締められることを願っています。




何がすごいの?どこが新しいの?今年、
全米No.1に輝いた唯一のインディ・バンド、
アラバマ・シェイクスのすべてを
解説させていただきます:前編


アジカン後藤正文に訊く、グラミー4部門を
制覇したアラバマ・シェイクスの凄さ、
そこから浮かび上がる2016年の風。前編




photo by Erina Uemura

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