2018年のアドベントの夕方、ある地方都市の古びた団地の道端で日系ブラジル人4世の若者たちと缶ビールを飲んでいた時のこと。話題がラップ・ミュージックに移り、ひとりの青年がシックスナインが好きだと言ったので、「どうなっちゃうんですかねぇ」と、最高で終身刑もあり得るという彼の裁判について振ると、青年が「いやぁ、伝説ですよ」と呟いた、その実感のこもった響きが忘れられない。
選出していないアーティストの話を総評で書くのもどうかと思うが、僕を始めとして多くのジャーナリストやメディアが取るに足らないものだと考えているシックスナインのようなアーティストも、若者にとっては同時代の神話的存在なのだ。その観点からすると、近年のラップ・ミュージックに対して繰り返し忠告される、ゴシップと音楽を分けろという誠実な意見も簡単には頷けなくなってしまう。いや、シックスナインも、あるいはXXXテンタシオンなども、ゴシップと音楽が混濁したポップ=ラップ・ミュージックの犠牲者なのかもしれないけれど。
シックスナインは、ドレイク“ゴッズ・プラン”のスケールをめちゃくちゃ小さくしたようで笑えるし泣ける、“ゴッティ”のヴィデオをベスト・ソングに選ぼうか最後まで悩んだ。XXXテンタシオンの短い人生が終わる3ヶ月前に発表されたアルバム『?』も、僕のための音楽ではないと感じたものの、ティーンエイジャーになった自分の子供のチャットを覗き見てしまったような妙な生々しさが印象に残っている。
件の日系ブラジル人4世の若者たちは、曽祖父母が貧困を背景として日本からブラジルへと渡り、両親が90年の入管法改正をきっかけに、経済が低迷していたかの地からバブル景気に浮かれていた先祖の国へと帰還。ところが、彼らが生まれる頃には日本もまた不景気にはまり込んでいたという、時代に翻弄され続けた血筋だ。そして、ブラジルには1度も行ったことがないが「ガイジン」扱いされる彼らは、今、日本語のラップ・ミュージックをつくっている。今回のベストにも――シックスナインやXXXテンタシオンの「音楽」にだって――そのような流動性と混血性が表れているし、2018年の特徴と言うよりは、それこそがポップ・ミュージックの本質だろう。
〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2018年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 渡辺裕也
「〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2018年の年間ベスト・アルバム、
ソング、映画/TVドラマ 5選」
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「2018年 年間ベスト・アルバム 50」
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