振り返ってみれば、2017年はインディ・ロックにとって大きな節目となる歴史的な一年だった。どのような転換点が訪れたのか? という問いに答えるとするなら、〈ピッチフォーク〉がインディ・ロックの変移について総括した以下の記事を引用するのが手っ取り早いだろう。
▼
▼
The Year “Indie Rock” Meant Something Different
この記事で、〈ピッチフォーク〉のシニア・エディター、ジリアン・メイプスは2017年のインディ・シーンをこのようにまとめている。「The old guard returned, but a new generation reigned」、訳すならば「老いた守り人の帰還と、新しい世代の君臨」ということだ。
2017年のインディ・ロック、特に北米シーンでもっとも目立ったのは、過去十数年間のシーンをリードしてきたトップランナーたちの新作が次々と上梓されたことだろう。アーケイド・ファイア、LCDサウンドシステム、ナショナル、フリート・フォクシーズ、ダーティ・プロジェクターズ、グリズリー・ベアetc……、名前を挙げれば枚挙にいとまがないほどだった。
ただ、それらの新作は決して諸手を上げて絶賛される傑作ばかりではなかった。もっとも象徴的だったのは過去10年間、世界最高のバンドという称号をほしいままにしてきたアーケイド・ファイア最新作に酷評が噴出したことだろう。彼らに限らず、昨年リリースされた大型リリースには、インディ・ロックの権威失墜と同調するように、どこか迷いや逡巡を感じさせるものが多かった。それは、2017年中でも屈指の高評価を得たLCDサウンドシステムやナショナルだって決して例外ではない。それら二組の最新作には、混乱した時代に飲まれ、老いさらばえながら死に向かっていく、自らのミドル・エイジ・クライシスがどうしようもないほど色濃くリアルに反映されていた。ただ、だからこそ感動的だったのだ。
「老いた守り人の帰還」がそういったゼロ年代のトップランナーたちを指すとして、一方の「新しい世代の君臨」とはどのような状況を言っているのか? 上掲の記事には、このように書かれている。
「長年、ストレートの白人男性によって広く創出されてきたパーソナルな体験に基づく音楽を聴いているなら、現在、より多くの女性やクィア、有色の人々がジャンルの最前線に立ち、裾野を広げていることに気付くだろう。少しずつ、シーンはオープンになりつつある」
つまり、これまで長らくロックというジャンルのステレオタイプなイメージを支配してきた白人男性が時代の変遷と共に難しいポジションへと追いやられている一方で、女性、LGBT、カラードといったジャンルにおけるマイノリティが自由な発想と行動力によって世に羽ばたき始めているのだ。2018年以降のインディ・ロックの行く末を知るためには、それらのジェンダーや人種を超えた新世代の動向に注目する必要があるだろう。
そこで、本稿では女性アクトを中心として、クィア、カラードも含めたインディ新世代の中から、期待の新鋭を15組厳選して紹介する。新しい時代を象徴するヴァラエティに富んだ音楽性と個性的なキャラクターにいち早く触れてほしい。
現在、インディ・シーンの活性化が著しい国と言えば、筆頭に上がるのはイギリスで間違いない。同地のインディ新世代においても、牽引役となっているのが女性を中心としたバンドだということは、ビッグ・ムーンやマリカ・ハックマンを取り上げた昨年の記事でも触れた通り。
▼
▼
女性ポップ・アイコン全盛期の10年を経て、
時代を牽引するのはフィメール・バンド?
そんな流れを予感させるアクト10組を厳選
その中で、今世界中のインディ・リスナーがこぞって熱狂し始めているのが、マンチェスター出身のペール・ウェイヴスだ。The 1975とウルフ・アリスという現代英国の二大ビッグ・バンドを擁する〈ダーティ・ヒット〉に所属する彼らは、The 1975の正統後継者と言える。
まず目につくのは、キュアーのロバート・スミスやスージー・スーを髣髴させるゴス・ルックのヴォーカリスト、ヒーザー・バロン・グレイシー。80年代ゴシック・ロックのイメージを受け継いでいるのは音楽性からも明らかだが、彼らはそこに同じく80年代のマドンナやプリンスらのエッセンスも注ぎ込み、ダンサブルなポップ・ソングへと仕立て上げている。
彼らの初期シングル“ゼアズ・ア・ハニー”と“テレビジョン・ロマンス”は、レーベルの先輩で同郷でもある、The 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルがプロデュース。The 1975からの直接的な寵愛も受け、イギリス国内のみならずアメリカやヨーロッパでも注目を集めている。
青山:★★★★
編集部:★★★★★
現在、イギリスでもっとも魅力的なシーンを形成しているサウス・ロンドンにも、注目すべき女性バンドは多数ひしめいている。2018年初頭にリリースされたインディ・ロック作品の中でも屈指の高評価を得た3人組ドリーム・ワイフは、そんな現ロンドン・シーンの新たな顔役の一つだ。
▼
▼
【短期集中連載④】英国インディ・ロックの
新たな震源地=サウス・ロンドンの実態を
その当事者に訊く:ドリーム・ワイフ編
「夢のような妻」という皮肉めいたバンド名を冠した彼女たちは、ライオット・ガール譲りのしなやかなDIY精神で、女性の持つ複雑さを表現する。デビュー・アルバム『ドリーム・ワイフ』に収録された“サムバディ”などの楽曲を聴けば、彼女たちが荒々しくもキャッチーなガレージ・ポップ・サウンドにフェミニンな感性を忍ばせていることが分かるはずだ。
現在はサウス・ロンドンを主拠点にしているが、元々彼女たちの出会いはブライトンのアート・スクール。ロンドンっ子が時に陥りがちなスノビズムとは無縁で、屈託のないポップ・センスとアート志向、パンキッシュな反骨心を自然と両立させている点も彼女たちの大いなる魅力だろう。
青山:★★★★
編集部:★★★★
サウス・ロンドンから、インディ・キッズの熱い視線を浴びるバンドをもう一組。今なおロックンロールにこだわり、新鋭を多数輩出し続ける名門〈ラフ・トレード〉からスタークローラーに続いてデビューする4人組フィメール・バンドがゴート・ガールである。
初期シングルでは、最高にスカムなサイケデリック・ガレージ・サウンドを奏でていた彼女たち。4月6日にリリースされるデビュー・アルバム『ゴート・ガール』では、フランツ・フェルディナンドらを手掛けたダン・キャリーをプロデュースに迎え、ニヒリスティックな表情はそのままに、より多面的な音楽性を開陳。先行カットされた“ザ・マン”は、ライヴで映えること間違いなしのアグレッシブなロックンロールに仕上がっている。
テープでのレコーディングにこだわった、奇妙にねじくれたローファイ・サウンド。下手に時代と寄り添うことなく、あくまで我が道を行く、ぶっきらぼうなアティチュード。彼女たちの佇まいからは、すでに孤高のカリスマ性が匂い立っている。
青山:★★★
編集部:★★★★
ロンドンで注目を集めているのは、何もバンドだけではない。インディ・サウンドの中にソウルやジャズのエッセンスを取り込んだユニークな音楽を奏でる新鋭シンガーソングライター。それが西ロンドン出身の22歳、ニルファー・ヤニヤだ。
トルコやアイルランドの血を受け継いだ混血の女性は、ギターの弾き語りを主旋律にしつつ、トラッドなフォークではなくニーナ・シモンやエイミー・ワインハウスらから受け継いだソウルフルなメロディを歌う。初期に比べ、いくらか洗練されたプロダクションをバックに、ヒリヒリとした孤独を歌う最新シングル“サンクス・4・ナッシング”を聴けば、凡百のシンガーソングライターとは一線を画す彼女の個性が伝わるはずだ。
彼女の音楽はすでにロンドンを超えて世界中の早耳リスナーを虜にしていて、〈ピッチフォーク〉を筆頭とするアメリカの批評メディアでも軒並み高評価を獲得。また、The xxのオリヴァーが期待の新人としてニルファー・ヤニヤの名前を挙げるなど、同業者からも熱い視線が注がれている。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
音楽的な独自性において、今インディ・シーンでも突出した存在と言えば、スーパーオーガニズムをおいて他にないだろう。ニュージーランド、オーストラリア、日本、韓国、イギリスとバラバラの出身地からロンドンに集った8人組は、デジタル・ネイティヴの瑞々しい感性によって、90年代的ごった煮インディ・ポップを現代へと軽やかに更新してみせる。SNSや動画投稿サービスの時代をテーマにした、サイケなヴィデオも印象的な“エヴリバディ・ウォンツ・トゥ・ビー・フェイマス”は、彼らの現代性を見事に伝えてくれる。
バンドと呼ぶには緩い連帯で、それぞれが異なるバックグラウンドを持つ8人組という大所帯。分業制ポップへの意識的な取り組みが伺えるソングライティングとプロダクション。あらゆる側面において、スーパーオーガニズムは2018年ポップ・シーンへのインディからの理想的な答えとなり得ている。
青山:★★★★★
編集部:★★★★★
▼
▼
鼎談:宇野維正×照沼健太×田中宗一郎
スーパーオーガニズムを肴に語る、フランク
・オーシャン以降のプロダクションの行方
有望な若手がひしめくサウス・ロンドンとは異なる文脈で、現英国のインディ・シーンを支えているレーベルに〈ヘヴンリー・レコーディングス〉がある。最近では、同レーベルと言えばテンプルズやウィッチーズといったスタイリッシュなサイケ・ポップ・バンドのイメージも強いが、ここに紹介するのはそんなスタイリッシュさとは良い意味で無縁の3ピースだ。
イングランド北部のウエスト・ヨークシャーにあるハリファックスというのどかな街で、二人姉妹と友人男性一人によって結成されたオリエルズ。バンドをやっているというだけで、つまはじき者扱いされたという田舎で、彼らが熟成してきた音楽は、言わばオレンジ・ジュースとストーン・ローゼズの能天気な混血種。ジャングリーなニューウェイヴからマッドチェスターへと至る、80年代後半のUKインディ・サウンドがバンドの持ち味と言える。
演奏は初期ストーン・ローゼズも真っ青な拙さだが、ユーフォリックなポップ・センス、後半にビープなシンセが加わってドライブ感を増していくアレンジの構成は絶妙。この楽曲も収録されたデビュー・アルバム『シルヴァー・ダラー・モーメント』では、軽やかなパーカッションが鳴るアフロ・テイストや、サイケなミドル・バラードもあり、ローファイな佇まいの中に多彩な音楽的素養も見え隠れしている。
青山:★★★
編集部:★★★
BandcampやSoundCloudの登場によって、近年はベッドルームでひっそりと制作された音源のアップロードをきっかけに、チャンスを掴むアーティストが珍しくないのは周知の通り。ナッシュヴィル出身で、現在20歳のシンガーソングライター、サッカー・マミーことソフィー・アリソンもその中の一人だ。
幼い頃からテイラー・スウィフトを愛聴していた一方で、ソニック・ユース、ニルヴァーナ、ジーザス・アンド・ザ・メリー・チェインといった90年代オルタナから、ミツキやアレックス・Gら現代のインディ・アーティストを聴いて育ってきたというソフィー・アリソン。カントリー・ポップ譲りのメロディに、ベッドルーム・ポップ的な気怠いエフェクトやロックのダイナミズムをうっすら振りかけた音楽からは、それら先達からの影響が垣間見える。
彼女はBandcampでの話題をきっかけに、2017年に〈ファット・ポッサム〉と契約。自主音源を再録音したアルバム『コレクション』を挟んで、今年3月に正式なスタジオ・デビュー作『クリーン』を上梓した。初めてフル・バンドでの録音が行われたことで、同作は彼女の清廉なソングライティングが更に際立った作品に仕上がっている。
青山:★★★
編集部:★★★
これまで2018年にリリースされたアルバムの中で、もっとも高い評価を受けている作品は何か? 最良の答えは、このU.S.ガールズによる最新作『イン・ア・ポエム・アンリミテッド』に違いない。
元々はシカゴ生まれで、2008年から音楽活動をスタートしたメグ・レミによるソロ・プロジェクト。ローファイなノイズ作品に始まり、作を追うごとに少しずつポップな作風へと変化してきた彼女の名前が一気に広まったのは、〈4AD〉と契約して2015年にリリースしたアルバム『ハーフ・フリー』から。トロント出身のミュージシャン、スリム・ツイッグことマックス・ターンブルとの結婚を機にトロントを拠点とした彼女は、夫の人脈を通じてファックド・アップのベン・クックらトロントのミュージシャンと邂逅。彼女のポップ・センスが存分に花開いた同作は、〈ジュノ・アワード〉〈ポラリス・ミュージック・プライズ〉というカナダを代表する音楽賞にノミネートされることになった。
これまでにも、政治的な主張を実験的なアート・ポップ・サウンドに織り交ぜていた彼女だが、3年振りの最新作は言葉の鋭さ、音楽的な野心、キャッチーなソングライティングと全てのパラメータで前作を凌駕する傑作となっている。例えば、ブロンディとロネッツが手を組んだような軽快なディスコ・サウンドに乗せて、今では誰もが忘れてしまったオバマ前アメリカ大統領の罪を厳しく断罪する“マッド・アズ・ヘル”は、彼女の真骨頂と言えるだろう。
夫のマックス・ターンブルも参加する地元トロントのファンク/ジャズ・コレクティヴ、コズミック・レンジの全面サポートで作り上げられたサウンドは、全編に渡りダンサブルでファンキー。極上のポップ・サウンドに紋切型でない政治的メッセージを忍ばせた、2018年を代表する傑作インディ・レコードだ。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
ここまで女性アクトを中心に紹介してきたが、「ストレートの白人男性」というインディ・ロックのステレオタイプから脱し、その可能性を大幅に広げているLGBTの存在も忘れてはならない。同性愛者であることを公言するアーティストはインディに限らず数多いが、その中でも時としてステレオタイプに捉えられがちな「クィア」のイメージを常に拡張し続けるインディ・アーティストと言えば、パフューム・ジーニアスに他ならないだろう。
デビューからしばらくはピアノの生々しい弾き語りに乗せて、赤裸々な言葉を震える歌声と共に綴っていたパフューム・ジーニアスことマイク・ハドレアス。しかし、彼は最新作『ノー・シェイプ』において、神々しい輝きを放つアレンジメントを全身に浴び、疎外感や悲しみをダイナミックに解き放つようになった。
このサウンドを共に作り上げたのは、アラバマ・シェイクス『サウンド&カラー』やジョン・レジェンド『ダークネス&ライト』等の傑作で知られる、ブレイク・ミルズ。彼の手を借りることで、パフューム・ジーニアスはもっとも前衛的で、もっともデカダンなクィア・ポップを作り上げた。
青山:★★★★
編集部:★★★★
近年、特にアメリカではインディ・ロック、エレクトロニック・ミュージック、ヒップホップ/R&Bといったジャンルの境界線が曖昧になり、広義のポップ・ミュージックの名の下で刺激的な混交が続いている。アフリカ系アメリカ人でありながらインディ系のアーティストと深い関わりを持ち、様々なコラボレーションを通じてボーダーを拡張する音楽家として、筆頭に挙げたいのはやはりこのモーゼズ・サムニーだ。
ベック『ソング・リーダー』への参加、ジェイムス・ブレイクやスフィアン・スティーブンス、ソランジュらとの交流を通じて知名度を獲得してきた彼のデビュー・アルバム『アロマンティシズム』は、演奏/共作にジャズ、ポストロック、映画音楽といった多彩な分野で活躍する一線級のアーティストが集結。例えば、“ロンリー・ワールド”にはベース兼共同作曲者にサンダーキャット、ドラムにブルックリンで活動するサン・ラックスのイアン・チャンらが参加し、スリリングな演奏を聴かせている。
卓越したミュージシャンシップで、孤独と内省のファルセット・ヴォイスを包み込む彼の音楽にとって、もはやジャンル分けは意味を成さないだろう。さらなる混交が進みそうな現代の音楽シーンにおいて、モーゼズ・サムニーの存在感は今後加速度的に増していくはずだ。
青山:★★★★
編集部:★★★★
ここからは、狭義の「インディ」という概念にはとらわれず、ポップ・シーン全般において今後の飛躍が期待される女性アーティストを紹介していこう。
まずは、韓国人の両親の元でニューヨークに生まれ、現在もニューヨークを中心に活動するイエジ。ハウス、テクノ、ヒップホップを中心にジャンルを横断し、韓国語と英語を交えた生ヴォーカルも披露するDJセットや、ドレイクのヒット曲“パッションフルーツ”のリワークで2017年下半期の話題をさらったマルチ・アーティストだ。
そのキュートな魅力は、韓国語のコーラスが中毒性抜群のオリジナル・トラック“ドリンク・アイム・シッピング・オン”を聴けば一発で理解できるはずだ。
彼女は2017年に『イエジ』と『EP2』というタイトルのEP2枚をリリース。BBCが選出する期待の新人リスト〈BBCサウンド・オブ・2018〉のロングリストにも選出された。イギリス寄りでメインストリーム・ポップ寄りのセレクションが多い〈サウンド・オブ~〉リストで、韓国系でアメリカを拠点とするトラックメイカーが選ばれることは滅多に無いため、異例の選出だったと言える。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
その〈BBCサウンド・オブ・2018〉においてトップに選ばれたのは、史上初となるノルウェー出身の女性シンガーだった。
ノルウェーと言えば、ロイクソップ、トッド・テリエ、リンドストローム、近年ではカシミア・キャットやリドといったエレクトロニック・アーティストの母国としても知られている。また、近年ではケイティ・ペリーに絶賛されたオーロラ、タイラー・ザ・クリエイターの最新作にフックアップされたアナ・オブ・ザ・ノースといったエレクトロ・ポップ系女性シンガーも多数輩出。その中で、世界的ブレイク間違いなしの大本命と目されるのが現在21歳のシグリッドだ。
彼女が2017年にリリースしたデビュー・シングル“ドント・キル・マイ・ヴァイブ”は、本国ノルウェーのみならずイギリス、オーストラリアといった国でもシングル・チャートにランクインするヒットを記録。アメリカのポップ・スターに匹敵するスケール感とキャッチーさを感じさせつつ、決して仰々しくなり過ぎない、品の良さは北欧出身アーティストならではだろう。
青山:★★
編集部:★★★★
〈BBCサウンド・オブ・2018〉において、3位という結果を残した女性シンガーもまた、ユニークなサウンドを奏でる注目株。英マンチェスター出身のシンガー/プロデューサー、IAMDDBことダイアナ・デブリトーである。
彼女のオリジナリティを知るには、まず聴いてもらうのが手っ取り早いだろう。すでにYouTubeで1.000万回再生を超えようとしている目下の代表曲が“シェイド”だ。
ロバート・グラスパー以降のジャズ・フィールを感じさせる上音とぶっといトラップ・ビートを、ラップと歌とスポークンワードの中間を行くヴォーカル・スタイルで乗りこなしていく。〈デイズド〉は彼女の音楽を「ジャズとトラップの私生児」と称しているが、それも大いに納得。これはトラップ通過後のヴォーカル・ジャズ最新形なのだ。
青山:★★★★
編集部:★★★★
LA生まれのビリー・アイリッシュは、いまだ16歳という驚異の若さながら、吸い込まれるような美貌と靄がかったミステリアスな楽曲で、音楽界のみならずファッション業界からも大きな注目を浴びる才女。元々ダンサーだった彼女が、振り付けのためのオリジナル楽曲をコーチから依頼されたことで、彼女の音楽キャリアは動き出したのだという。
このデビュー・シングルは元々『グリー』に出演していた経験もある、兄のフィニアス・オコーネルが自身のバンド用に作っていた楽曲。彼女が歌入れした音源をSoundCloudにアップしたところそれがヴァイラル・ヒットとなり、14歳の時点で〈インタースコープ〉と契約することになった。
ラナ・デル・レイが若返ったかのようなポップ・サウンドと歌声もさることながら、ダンサーの顔も垣間見せる芸術性の高いミュージック・ヴィデオを合わせて観ることで、彼女の魅力がより一層理解できるだろう。
青山:★★★
編集部:★★★★★
2017年の時点ですでにシングル“ファインダーズ・キーパーズ”がUKチャート8位を記録し、今年に入ってMTVが主宰する期待の新人リスト〈ブラン・ニュー・フォー・2018〉の投票で一位となるなど、もはやイギリスでブレイク確実と目されているのがメイベルだ。
スペイン生まれでスウェーデン育ち、現在はロンドンを拠点としているという少々複雑に思える経歴の彼女は、実のところかなりの音楽サラブレッド。母親は80年代後半から90年代にかけてイギリスで人気を誇ったシンガーのネナ・チェリーで、父親はネナ・チェリー作品の共作/プロデュースを手掛けてきたキャメロン・マクヴェイなのである。
“ファインダーズ・キーパーズ”を聴いてもらえば分かる通り、彼女の音楽は90年代の黄金期を髣髴させる王道のR&Bだ。あくまで高い歌唱力で勝負するスタイルは、どこか捻りを効かせたR&Bが多い昨今、逆に新鮮にも聴こえる。
彼女はスケプタとマネジメント会社が同じで、2人でコラボレーションしたいとも話しているそう。もしそれが実現すれば、彼女は国民的音楽となったグライムのシーンに欠かせない歌姫として君臨するに違いない。
青山:★★
編集部:★★★★