SIGN OF THE DAY

女性ポップ・アイコン全盛期の10年を経て、
時代を牽引するのはフィメール・バンド?
そんな流れを予感させるアクト10組を厳選
by AKIHIRO AOYAMA June 01, 2017
女性ポップ・アイコン全盛期の10年を経て、<br />
時代を牽引するのはフィメール・バンド? <br />
そんな流れを予感させるアクト10組を厳選

今、フィメール・バンドが熱い。なんて書くと、とかく表現にポリティカル・コレクトネスが求められるこのご時勢では、いろいろな反発を生むのかもしれない。「フィメール・バンド」というカテゴライズは、LGBTをはじめジェンダーの多様性が重んじられるようになった現代では、個々に異なる表現を矮小な型にはめる行為と取られてもおかしくない。また、一部の男性の側からは、女を持ち上げて男を貶めるなんてミサンドリーだ! なんて声も上がるかもしれない。ただ、本稿ではあえて「女性」という枠組を使って、10組のバンドを紹介したい。それには理由がある。

そもそも、2000年代後半以降のポップ・シーンを牽引してきたのが、レディー・ガガやテイラー・スウィフト等のフィメール・ポップ・スターだったのは厳然たる事実。レディー・ガガは女性のセックスを消費物にしないアート性によって、テイラー・スウィフトは過去の恋愛と男たちがしてきた仕打ちを赤裸々に歌にすることによって、男の支配に縛られない女性のあり方を強く打ち出してきた。それぞれに個性の強い彼女たちの活躍は、近年のジェンダーに対する意識の高まりとも少なからず同調している。そして、ここ数年で頭角を現してきたフィメール・バンドを並べてみると、そこにはポップ・スターたちと同様に、「女性によるロック/バンド音楽」という一面だけではない多様性とバリエーションが存在するのだ。

2000年代以前には、「女がバンドを組みロックをやる」ことだけで、多少なりとも政治的な意味合いを含まざるを得なかった。だが、2010年代の女性の表現者たちはそんな旧態依然とした「フィメール・バンド」の枠組からは完全に解き放たれ、個々の表現を追求する自由を勝ち得ている。そんなバラエティに富んだフィメール・バンドの2010年代的あり方を示したい、というのが本稿の主旨だ。

そこで、ここでは2017年に期待と称賛を受けている10組を厳選してピックアップ。加えて、私・青山晃大と〈サイン・マガジン〉編集部が、それぞれどのアクトに一番エキサイトしているかも示すために、バンドへの評価、期待値を5つ星で評価した。編集部を代表して、田中宗一郎の一言コメントも添えてある。

それでは始めよう。これがフィメール・バンドの新時代を牽引する10組だ!




1.Marika Hackman
まず初めに紹介するのは、ロンドンを拠点とするマリカ・ハックマン。いきなりソロ・アーティストじゃん! というツッコミも入りそうだが、ただミュージシャンの集合体というだけにとどまらず、ギャングめいた連帯、運命的な絆が「バンド」を規定するとすれば、今もっともフレッシュなバンドの出会いの瞬間を鳴らしているのは、彼女とビッグ・ムーンだろう。

これまでインディ・フォーク系アーティストとして活動し、ポスト・ローラ・マーリングとでも言うべき存在だった彼女。しかし、ローラ・マーリングのことは敬愛していても「インディ・フォーク」にタグ付けされることには辟易していたようで、今年に入って公開された2ndアルバム『アイム・ノット・ユア・マン』からのリード・シングル“ボーイフレンド”で、いきなり激変。昨年出会ってすぐに意気投合したというビッグ・ムーンをバック・バンドに迎え、フォークからロックへと舵を切ってみせた。

Marika Hackman / Boyfriend

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その関係性はザ・バンドを従えたボブ・ディランを想起させもするが、その音楽性はむしろもっとも「ロック・バンド」だった頃のレディオヘッドに近く、“ボーイフレンド”はさながら彼女たちにとっての“マイ・アイアン・ラング”。男友達の恋人との友情を超えた関係と、それに気付こうともしない男の鈍感さを綴った歌詞といい、ナヨナヨした男バンドと彼女たちの演奏シーンが重なり合いつつ切り替わるヴィデオといい、女だからってナメてもらっちゃ困ると言わんばかり。

青山:★★★★★
編集部:★★★★★「『ア・ムーン・シェイプト・プール』だった1stアルバムがビッグ・ムーンとの邂逅を経て、いきなり『ザ・ベンズ』になった趣き(田中)」


2. The Big Moon
マリカ・ハックマンとのコラボレーションでも素晴らしい成果を見せているビッグ・ムーンは、単体としてみても間違いなく今もっとも注目すべきフィメール・バンドの一つ。パーマ・ヴァイレッツとファット・ホワイト・ファミリーに触発されてバンドを結成したという、正真正銘の新世代ロンドンっ子だ。

ただ、彼女たちを「フィメール」バンドとタグ付けして紹介することは、もしかしたら本人的には不服かもしれない。何しろ、彼女らは事あるごとにジェンダーと過度に結びつけられることに対する違和感について話し、「指摘されるまで女だけのバンドだってことを忘れている事もしばしば」だと言っているのだから。

女性のセクシュアリティをことさらに武器に使うこともなければ、逆にフェミニズム的な姿勢を押し出すこともない。メール・バンドと同じようにつるみ、楽しみ、たまにはバカをやって、性愛も政治もひっくるめた自分自身を表現する。その立ち振る舞いは、とても現代的で健康的に映る。男の視点を借りて露骨で滑稽な異性への誘惑が歌われる“キューピッド”は、クワイエットからラウドへと劇的に展開するギターのダイナミズムとスウィートなハーモニーが合わさった音楽性も含めて、ビッグ・ムーンのカジュアルな魅力を凝縮した一曲。

The Big Moon / Cupid

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青山:★★★★
編集部:★★★★★「2017年上半期ベスト・ロック・アルバムの称号は彼女たちのもの。間違いなく!(田中)」


レディオヘッド『ザ・ベンズ』とピクシーズ
『ドリトル』を繋ぐ完全無欠の女性バンド、
ザ・ビッグ・ムーン、その名もデカいケツ!



3. The Aces
続いて、アメリカからも期待の新鋭を一組。有名な出身者は? と問われてもなかなか答えが出ないだろうアメリカ西部ユタ州の出身で、クリスタル(Vo/Gt)とアリサ(Dr)のラミレス姉妹を中心に、子供の頃からの幼なじみで結成された4人組エイシズ。彼女たちは、シスターフッドを感じさせる関係性や、アメリカーナの素養を持ちつつも華々しいメインストリーム・ポップにリーチする音楽性から、ハイムの後をもっとも正統に追うバンドと言えるだろう。

〈レッド・ブル・レコーズ〉と契約して昨年からリリースした3枚のシングルは、どれも80年代ポップ譲りの煌びやかなシンセ・サウンドとダンサブルなビート、キャッチーなメロディを持つ佳曲ばかり。中でも、パラモアも凌ぐほどキャッチーなコーラスに、いかにもアメリカ的な率直さでセックスだけの関係の虚しさを表したリリックが乗る“フィジカル”からは、彼女たちの持つ底知れないポップ・ポテンシャルが存分に感じられる。

The Aces / Physical

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青山:★★★
編集部:★★★★「これはThe 1975に対するユタ州からの解答では? いっそ★5つでもいいのに! 好きすぎてごめんなさい!(田中)」


4. Haim
件のハイムも、2013年の『デイズ・アー・ゴーン』以来となる2nd『サムシング・トゥ・テル・ユー』をリリース予定。アルバムこそ4年振りだが、この4年の間に彼女らはアメリカのフィメール・バンドにとって、1つの新しいロール・モデルになったと言っていい。

元々デビュー作の時点から、バンドの形態でヒップホップ/R&Bを取り込む独自性を確立していたが、さらに彼女たちはここ数年でテイラー・スウィフトと親交を深め、2015年にはカルヴィン・ハリスのシングル“プレイ・トゥ・ゴッド”にもフィーチャー。さらに、レディオヘッドとの蜜月でも有名な現代アメリカを代表する映画監督、ポール・トーマス・アンダーソンが新作発表のティーザー・ヴィデオを担当するなど、いまやハイムはメインストリーム/インディ、音楽・映像等を問わず、あらゆる方面から認められるバンド・アクトなのだ。

揺らめくギターと三声コーラスが木漏れ日のように輝く“ウォント・ユー・バック”は、2017年に照準を合わせた彼女たちのモードがよく分かる、完璧なポップ・ソングに仕上がっている。

Haim / Want You Back

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青山:★★★★★
編集部:★★★★「21世紀のフリートウッド・マック。イーグルスと並ぶ70年代最大のバンドだった彼らの頂きを目指して欲しい!(田中)」


5. Charly Bliss
華やかなプロダクションでメインストリームにもアピールする上記二組のようなバンドがいる一方で、近年は老舗レーベルを中心に、90年代に先祖返りしたようなインディ・ロック・サウンドへとアプローチするバンドも増えてきている。その代表として挙げたいのが、先頃〈バースーク〉からデビュー・アルバム『グッピー』をリリースした、ブルックリンの4人組チャーリー・ブリスだ。

Charly Bliss / Percolator

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特徴的な声色のフロントウーマン、エヴァ・ヘンドリクスは、ヴォーカリストとしてもアイコンとしても耳目を引く存在。グランジ・ムーヴメント終盤の94年頃を思わせる粗さと軽快さが同居したロック・アンサンブルに、強烈にキャッチーなメロディ・ラインが乗る音楽性は、言わば2017年型のパワー・ポップ・リヴァイヴァル。また、2000年代に分岐して交わることのなかった、パラモアに代表されるエモ勢と、ヴィヴィアン・ガールズらローファイ・ガレージ勢の交配種とも言えるだろう。

青山:★★
編集部:★★★「これは全盛期のファウンテンズ・オブ・ウェインか、ヴィーザーでは? このバンドの是非を決めるポイントのひとつは、このコケティッシュ声に魅了されるか、ムカつくか? でしょうか(田中)」


6. Pumarosa
ロンドン界隈のシーンが持つもう一つの顔、サイケデリック・ロックの新たな息吹を感じたいなら、今年2月の〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉でいち早く来日を果たした南ロンドンの5ピースバンド、ピューマローザによるデビュー・アルバム『ザ・ウィッチ』をおすすめしたい。全曲4分~7分半という長尺の中で、エレクトロニックなダンス・ビートから優美なチャンバー・ポップ、あるいはゴシック・ロックまで、様々な音楽要素を奔放に展開していく彼らの音楽は、新人離れした可能性を内包している。

Pumarosa / Priestess

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その全ての中心にいるのは、アートワークの絵画も自ら手掛けるフロントのイザベル・ムニョス・ニューサム。「魔女」というアルバム・タイトル通りの蠱惑的なヴォーカリゼーションは、ケイト・ブッシュ~PJハーヴェイ~バット・フォー・ラッシーズといった英国のフィメール・アート・ロック/ポップの正統な系譜にも連なっている。

青山:★★
編集部:★★★「レディオヘッドの『アムニージアック』とトム・ヨークの『ジ・イレイザー』との間にある何か。やっぱりバット・フォー・ラッシーズですかね(田中)」


7. Goat Girl
昨年、名門〈ラフ・トレード〉から2曲入りの7インチ・シングルを出したのみながら、〈ガーディアン〉紙に「ロンドンのインディ・シーンを再建するバンド」とまで称されたのがゴート・ガール。この女性4人組が鳴らすのは、ダーク・サイドに堕ちたハインズ、あるいはアパシーに侵されたコーラルとでも言えそうな、けだるく甘美でシンプル極まりないサイケデリック・ガレージ。どちらもほぼ2分という潔さの2曲、“カントリー・スリーズ”と“スカム”は確かにかなり強烈だ。

Goat Girl / Scum

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だが、本人たちは周囲の熱狂や期待など意に介さず、醒めまくっている。いわく、「私たちなんてクソみたいなもの」「シーンっていうと同じようなサウンドの音楽を思い浮かべるけど、南ロンドンではみんな自分のスタイルでやっているだけ」。この突き放したような醒め方は、彼女たちの作る音楽にも通じるものがある。そして、その徹底したニヒリズムがあるからこそ、ゴート・ガールにはロンドン、いや英国中の期待が集まっているのだ。

青山:★★★★
編集部:★★★★「スカムです。最高にスカム。南ロンドンのゴート・ガール、ロスのスタークローラー。やっぱり〈ラフ・トレード〉は最高。てか、このリストにスタークローラー入れるの忘れてました。大失態(田中)」


8. Black Honey
今や、イギリスにおいてロンドンに次ぐバンド音楽の聖地は、マンチェスターでもリバプールでもなく、ブライトンだ。2000年代以降、ブリティッシュ・シー・パワーやゴー!チーム、クークス等々、音楽的にはバラバラなバンドを生んできた同地だが、近年もデビュー作で全英1位を奪取したロイヤル・ブラッドを筆頭に、活きのいいバンドがひしめいている。その中でガールズ・パワーを感じさせるバンドの筆頭が、昨年の〈サマーソニック〉で来日も経験しているブラック・ハニー。

Black Honey / Somebody Better

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紅一点のヴォーカル、イジー・B・フィリップスの伸びやかな歌声とオルタナ譲りのダイナミズムが魅力、という点ではウルフ・アリスにも通じるものが。ただ、ロンドン出身のウルフ・アリスがその出自ゆえか繊細で洗練された印象なのに対して、ブラック・ハニーはもっと骨太で豪放。それも、特にロイヤル・ブラッド以降のブライトンという地域柄が表れているのもしれない。

青山:★
編集部:★★「ここ1年ほどの間のベスト・アートワーク賞はサンダーキャットを抑え、彼女たちとジャパニーズ・ハウスだと思います!(田中)」


9. Girl Ray
同じロンドンでも、北と南の地域性の違いが音楽に表れるのだろうか。都心に近く、南に比べ治安も良いと言われる北ロンドン発の3人組ガール・レイが鳴らすのは、ロック的なエッジは皆無で、とろけるようにスウィートなコーラスと極端にローファイでレイドバックした演奏から成る陽性のインディ・ポップ。スッカスカでユルユルの、肩の力が抜けに抜けた脱臼サウンドだ。

Girl Ray / Where Am I Now

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見た目も飾りっ気なく、スタイルだって至って普通。だからこそ、とてもキュートで愛さずにはいられない。そのチャーミングな佇まいは、C86関連のジャングリーなバンドを髣髴とさせるし、もっと現代的に称するならば、コートニー・バーネットへの北ロンドンからの返答とも言えるだろう。極端に普通・等身大でいることは、いつの時代にも進歩主義的な価値観に対するある種の批評として機能する。まぁもちろん、本人たちはそんなこと1mmも考えちゃいないだろうけど。

青山:★★
編集部:★★★★「2010年代インディ版キャロル・キング? 英国ロンドンのSaToA? 未完の大器感あり〼(田中)」


10. Girlpool
普通を突き詰めることによる批評性という点では、ペイヴメントというローファイの太祖を生んだアメリカを忘れるわけにはいかない。クレオ・タッカーとハーモニー・ティヴィダッドというギター&ベースからなるデュオ=ガールプールは、その系譜に位置するフィメール・バンドの筆頭だ。活動当初は完全にドラムレスで、モルディ・ピーチズらに代表される00年代以降のアンタイ・フォークをエレキに変奏したような音楽を奏でていたが、今年リリースされた2nd『パワープラント』では、最小限だがドラム・サウンドを加え、よりリッチなサウンドに。ただ、過度に飾り立てて自分をよく見せようとする虚栄心に対して違和感を表明するようなシンプリシティへのこだわりは同作でも変わっていない。演奏中にいちいち口を挟んでくるハリウッド系監督に困惑するバンドの姿が皮肉たっぷりな“パワープラント”のヴィデオにも、ローファイ譲りのアティチュードが表れている。

Girlpool / Powerplant

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青山:★★★
編集部:★★「インディです。USインディ。〈ピッチフォーク〉でも高評価!(田中)」


今や女性がバンドを組んでロックをやることは、特別なことでも何でもない。そこには、旧態依然とした価値観に縛られない多様なアート表現と豊かなバリエーションがあり、各々のアクトは自由にそれぞれの表現を追求している。それこそが2017年の「フィメール・バンド」の今なのです。




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