SIGN OF THE DAY

音楽に政治を持ち込むな! 政治的な行動
よりも大切な役割がアートにはある、と語る
サヴェージズが誰よりも政治的だという話
by YOSHIHARU KOBAYASHI August 05, 2016
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音楽に政治を持ち込むな! 政治的な行動<br />
よりも大切な役割がアートにはある、と語る<br />
サヴェージズが誰よりも政治的だという話

2016年の今、アーティストは聴き手に何を、どのように語り掛けるべきなのか? それは、多くの作家がこれまで以上に意識的になっている問題のひとつです。

たとえば『ホープレスネス』でドラスティックな変化を見せたアノーニ、あるいは『レット・イングランド・シェイク』以降のPJハーヴェイの在り方を見ると、わかりやすいかもしれません。真摯に時代と向き合った表現を志すアーティストたちは、日に日に社会情勢が緊迫感を増していく状況下において、それまで公にしてこなかった政治的なステイトメントをストレートに発することも厭わなくなった。そんな傾向が見て取れます。

歴史的に見て常に虐げられる対象であり続けてきた黒人の作家たちをこの文脈に当てはめることには慎重になるべきですが、それでも、ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』が2015年を代表する一枚となり、ビヨンセの『レモネード』が2016年のそれになり得ることも、こういった時代の機運と決して無関係とは言い切れないでしょう。いずれにせよ、音楽に政治を持ち込むなと騒がれる日本からすると遠い世界の話、のようにも思えますが。

表現方法はそれぞれ違えども、ここ数年は特に、果敢に政治的な問題にコミットした作品から傑作が多く生まれてきました。欧米の音楽シーンを見る限り、これは紛れもない事実です。

そういった状況を踏まえた上で、本稿の主役、サヴェージズの2nd『アドア・ライフ』を聴いてみて下さい。「愛が答え」「私は人生を敬う」と歌うサヴェージズは、目の前の政治的な問題に対する何かしらのステイトメントを表明するわけではありません。

Savages / The Answer

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Savages / Adore

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では、サヴェージズは表現者として何を、どのように語り掛けようとしているのか? それをバンドのフロントウーマン、ジェニー・ベスとの対話から明らかにすることが、本稿の目的です。

詳しくは以下の対話に譲りますが、要するにここで問われているのは、「現実へのコミットメント」と「絵空事にも思える理想的なヴィジョンやコンセプトを提示すること」の狭間で、それぞれのアーティストがどこに着地点を見つけるのか? という問題だと言えるでしょう。たとえばアノーニは、その二極の間で揺れ動きながら、結果的にどちらにもリンクした表現をしている最たる例です。



【ANOHNI interview 後編】実現不能な(?)
調和の世界を夢見る現代の『キッドA』、
今年最初の傑作『ホープレスネス』を巡って


そして、近年は前者の比重を強めた表現が影響力を持っている中で、サヴェージズはあくまで後者にこだわる立場を取る、ということです。かなり乱暴な要約ではありますが。

勿論、これはどちらに比重を置くのが正しくて、間違っている、という話ではありません。ただ今の時代において、サヴェージズのようなスタンスを貫くことが容易でないことは確か。だからこそ余計に、彼女たちの姿勢からは音楽というアート・フォームへの絶大な信頼と愚直なまでの情熱が伝わってきます。それが聴き手を感染させるところは間違いなくあるでしょう。

Savages / Sad Person (live on Later… with Jools Holland)

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いまだにサヴェージズが「漆黒のポストパンク」という切り口でしか語られていない日本の音楽メディア状況を考えると、今回のインタヴューはそれなりの気付きや発見がある内容になっているはず。ぜひ以下のリンク先の記事と一緒に読んでみて下さい。

UKインディが死亡宣告間近って本当?
その救世主となり得るバンドはいるのか?
という疑問への答えを出す5組をご紹介


こちらでまとめられているのは、1st『サイレント・ユアセルフ』の中心にあったポストパンクに留まらず、ノイズやハードコア色も強く打ち出した『アドア・ライフ』がいかに素晴らしく、そのライヴがいかに強烈か。そして、インディ・シーンが形骸化したイギリスにおいて、サヴェージズがどれだけ特別な存在か。というポイントについてです。

この2つの記事を併せて読んでもらうことで、「なるほど、サヴェージズってそういうバンドだったのか」と、その輪郭がより鮮明に見えてくると思います。では、ここからはジェニーとの対話をどうぞ。




●2nd『アドア・ライフ』は、丹念なスタジオ・ワークによって、1stよりもさらに豊かなニュアンスを持った、音楽的に幅の広いレコードになりました。リリースから半年経った今、改めてこのアルバムを振り返ってもらえますか?

「あなたが言った『豊かなニュアンス』だけど、それは意図的だったと思う。今回は多様なアルバムにしたかったから。1stは全部ライヴ録音だったから、ある意味当時の私たちを正確に写すフォトコピーみたいなアルバムだった。でも今回はもっとサウンドを探求する機会だったし、全体的により楽しめる経験だったの。今回はたくさん曲を書いて――それもいろんなスタイルの曲を。どんなサウンドにするかじっくり考えて、自分たちの頭の中にどんなサウンドがあるのか、どういうものを作りたいのか、個人個人でも前より時間をかけた。ソングライティングでもレコーディングでも、メンバー全員にその贅沢があったの。それって1stに欠けてたところで」

●1stリリース後はツアーで忙しかったと思いますが、曲作りはその合間にやっていたわけですよね?

「そう、曲を書いていた時期にはライヴもやってたから、その側面も勿論入ってきた。そこで感じたことがサウンドだけじゃなく、曲の内容にも関わってきたし。曲を書き上げるとすぐにレコーディングに入って、それが2015年の4月だったんだけど」

●音楽的により「豊かなニュアンス」を持たせること以外に、『アドア・ライフ』で目指したものは?

「アルバム全体としてこの『アドア・ライフ』が意味するもの、私たちが意図したのは“コネクション”、繋がりだと思う。人々を一つにする普遍的かつ素晴らしいメディア=音楽、っていうアイデアがあったから、ミュージシャンとしてそのメディアで何を押し出そうとするのか、どんな世界を作り出そうとするのか、もし次の世代にも聴かれるなら、そこで何が言いたいのか——ってことだったのよ。クリエイトすることの正当性、っていうのかな。だからこそ歌詞も自己肯定的で、かつ他の人と向き合うようなものにしたかったし」

●歌詞でいうと、『アドア・ライフ』であなたは初めてラヴ・ソングを書いていますよね。ある意味、それは他者と向き合うということでもあります。ただ、あなたにとって、理想的なラヴ・ソングの在り方とはどういうものなのでしょうか?

「実は私、ラヴ・ソングに夢中になったことがなくて(笑)。特に失恋とか傷心とかの歌が受け入れられない。一曲だってこれまで歌ったことも、カヴァーしたこともないの! 勿論フィル・スペクターの曲とか、ああいうヴァイブは大好きなんだけど、曲として好きでも自分では絶対歌えなかった。個人的に、私はそれがリアルだって感じないと歌えないし」

●一般的なラヴ・ソングは、どんなところがリアルだと感じられない?

「曲のキャラクターが犠牲者なのが嫌いなのよね。私が好きなのは何かについて考えを巡らせるような曲、人生について理解があるような曲だし、途方に暮れていて、『どうしていいかわからない』みたいな人の視点で歌われる曲は好きじゃない。勿論、そこでコネクトするのが難しいのはわかってるんだけど」

●ええ。

「それでもやっぱり私は恋愛を通じてヴァルネラビリティ、人の弱さについて語りたい。逆に言うと、例えば誰かに『愛してる』と言うのは弱さをさらすことでもあるんだけど、むしろその弱さを自分のものにしてる、っていうのかな? 犠牲者になるんじゃなくて」

●わかります。じゃあ、『アドア・ライフ』は、どういった人々の、どのような状況のサウンドトラックに適しているかと訊かれたら、あなたはどのように答えますか?

「音楽はみんなのものだから、勿論どんな状況も歓迎なんだけど。でも実際、それって自分でも考えたことがあるの。このアルバムは変化を必要としてる人にアピールするんじゃないかな。その人は人生の分岐路に差し掛かってるように感じていて、疑念を抱いてるかもしれない。ちょっとしたプッシュを必要としてるのよ。その変化、ジャンプを後押しするものをね。実際は思うほど怖くはないし、それで自分を失ったりしない。むしろ求めてるものがわかって、パワーを手にすることになると思う。でもそのためには、怖い思いをしなきゃいけない、っていう」

●なるほど。

「音楽を愛する人にとって、音楽は日常生活にダイレクトに繋がってるから……たとえカジュアルなリスナーでも、繋がりがある。そして一冊の本と同じくらい、一つの曲が聴く人のパースペクティヴを変えることもあると思う」

●その通りだと思います。

「私は実際、音楽が社会において占めるそのスペースをとても重視してる。そこには人々の地平を広げる可能性があって、しかも私たちアーティストは政治的なレベル、社会的なレベルで働きかけてるわけじゃない。別のレベルにおいて“ポリティカル”なのよ。私はその場所で出来ることを愛してる。物事のルーツ、根っこに取り組むことになるから。人々のソウル、精神と取り組んでるし、善も悪もすべてはそこから始まってる。音楽はそうやって聴く人の中に分け入っていくのよ」

●ただ現実的に、近年はアーティストが積極的に政治的な立場やメッセージを発信する機会が増えていますよね。たとえば、イギリスのEU離脱を問う国民投票に際して、多くのアーティストたちはSNSなどを通じて自らの立場を表明し、スーパー・ファーリー・アニマルスのグリフ・リスは“I love EU”という曲まで発表しました。もし差し支えなければ、こういった状況に対するあなたの意見を教えて下さい。

「そうね、今ってトレンドがあって……トレンドじゃないな。それ以上、ムーヴメントって言ってもいいかもしれない。私の世代のアーティストの多くが政治に関わりたがってるの。それは今の世界の状況のせい。遠くの国でも、すぐ隣でも、いつ爆弾が爆発してもおかしくない状況だから。たぶんみんな、無力感があるのね。だから何か行動を起こそうと声をあげて、呼びかけてる」

●ええ。

「それは私も十分理解してるの。ほんと。でも、さっき『アーティストの場所』について話したでしょう? 私たちは社会においてものすごく特別な場所に立っているし、それを守る必要があると思う。私たちアーティストは哲学者であり、アイデア=思想の担い手であり、コンセプチュアルで詩的な人間なのよ。そういう人間として動き、語り、扇動し、他の人からリアクションを引き出す。でも、それは政治家とかそういうのとはまったく別のレベルにおいてなのよね。私は本当に、その場所を大切にしてる。そしてレアになりつつあるその場所を守るべきだと思ってるの」

●そういった点で、自分と同じようなスタンスのアーティストは思い浮かびます?

「一番いい例は、ニーナ・シモンじゃないかな」

Nina Simone / Backlash Blues

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「彼女は公民権運動への弾圧を見るのにうんざりして、こう言ったって言われてるでしょ? 『私は銃を手にするべきか、それともペンを手にして曲を書くのか?』って。そして彼女は次々に曲を書いた。私にとってはそれこそがアーティストの場所なの。何かに心を動かされて、自分にとってパーソナルなものになれば、それについて書けばいい。他はどうでもいいのよ。答えになってるかな(笑)」

●大丈夫、よくわかりました。では、あなたから見て、今のイギリスのインディ・シーンはどのように映っていますか? 00年代と較べて、非常に厳しい状況にあると思いますが。

「厳しい状況って、具体的には?」

●アンダーグラウンドのシーンは活気がなさそうに見えますし、メインストリームに食い込めるバンドもほとんどいなくて、チャートに入るポップ寄りのバンドばかりですよね。

「つまり、経済的にってこと? そうね……私としては、インディ・シーンは墓場だと思ってるの。バンドの死に場所。私はインディ・ロックのバンドが好きじゃないし、音楽にとっての悲劇だと思う。あれがシャープネス、いろんな意味での鋭さを削いでしまったから。私は10年前からロンドンに住んでるんだけど、当時はインディ・シーンに勢いがあって……でも実際、ちょうど死にはじめるのを目にしてたんじゃないかな」

●確かに10年くらい前は、少しずつ衰退の兆しが見え始めた時期でしたね。

「あれは音楽の意味の絶滅っていうか……同時に、ライヴ音楽の死でもあった。インディ・ロックって、観ててほんと退屈だったから。だからこそ、私たちがサヴェージズを始めた時にはそこがものすごく重要だった。だってロンドンにはボー・ニンゲンと、その前にあったいくつかのバンド以外、面白いライヴ・バンドって長い間まったくなかったのよ」

Bo Ningen / Kizetsu no Uta

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「チャレンジングなバンド、考えさせるバンドが全然いなくて。音楽の消費の仕方とか、自分がギグに行ってバンドを観る、そのやり方そのものを変えたくなるようなバンド、人々と真っ向から向き合うようなバンドがね」

●ええ。

「インディ・ロックは人と向き合ってなかったと思うし、人の頭とも体とも、何とも取り組もうとしてなかった。バンドはただキャリアを築こうとしてただけ。目的はアーティスティックなことじゃなく、バンドとそのマネージメントが契約を取り付けようとしてただけだった。景気がどんどん悪化してる時期だったのに! だからものすごく矛盾してたし、クレイジーなほど機能不全を起こしてて。サヴェージズはそこから生まれて、それを拒否したのよ」

●なるほど。では、The 1975やキャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンのように、ビッグになることへの野心を何よりも前面に打ち出したバンドが増え、彼らばかりが脚光を浴びる状況については?

「んー……さっきの文脈で言えば、別にキャリアを考えること自体は全然間違ってないのよ。音楽で生計を立てようとすること、自分のプロジェクトを成長させて、他の人とコラボしようとか、なんでもいいんだけど。私は誰かを断罪したいわけじゃないし、他の人が何をやってもかまわない。他の人を指差したいわけじゃないの。みんなやりたいことをやればいいし、それがポップだろうと何だろうと私にはどうでもいい。成功してる人たちに腹を立ててるわけでもないしね。彼らがどんなにハード・ワークして、何を犠牲にしてるかもわかってるし、それはリスペクトしてる。でも音楽は音楽として、私の耳で判断してるの。ほんと、それだけ」

●わかりました。あなたたちは2ndのリリース前に、NYで三週間のレジデンシー公演を開催しましたよね。実際、ポップ寄りのバンドを除けば、2010年代にデビューしたイギリスのバンドではほぼ唯一、アメリカでもロイヤルなファン・ベースを築き上げている印象があります。自分たちでもそのような実感は持っていますか?

「んー……アメリカはすごく広い国だから、どこでも人気があるわけでもなくて。今もアメリカをツアーしてるんだけど、場所によって観客の規模が全然違うの。一つの場所でものすごく人気があるからって、どこでも評価されてるとは言えないでしょ? だから私たち自身、別の場所にも広げようと努力してる途中だと思う。それはヨーロッパでも同じだし。だから、どれだけ幅広く受け入れられてるかもよくわからない」

●なるほど。

「ただ、そう、友達の……ヤー・ヤー・ヤーズのギタリストのニック・ジナーが言ってたの。数ヶ月前に彼のバンドとツアーしてたんだけど、ライヴの後に彼が、『君たちのバンドは重要だよ』って。私たちがやってること、言おうとしてることが重要だってことなのか……まあ彼が何を言おうとしてたのか、正確にはわからないんだけど(笑)、本気で『重要なんだよ』って言ってくれて。で、その時は『オッケー、ありがと』って感じだったんだけど、あとになって私、考えたのよね。なんか面白いコメントだなって。だって、『すっごくライヴよかったよ!』とか言うんじゃなくて、『君たちがやってることは重要だ』でしょ? うん、だからその質問、ニックにすると答えてくれるかも(笑)」

●きっと他のバンドにはないもの、何か別のものをオファー出来るバンドだとニックが感じ取ったっていうことなんでしょうね。さっき話に出た、「別のレベルでコネクトする」ってことなのかもしれないし。

「うん。思うんだけど、今ってリアルなもの、現実とのコネクションを持つことが必要なんじゃないかな。私、昨日友達と話してて、実際ここしばらく小説を読んでないのに気付いたの。読んでるのは詩とか、歴史ものやバイオグラフィ、ジャーナリスティックな本ばっかりで。きっとリアルなものを感じたい欲求が強いんだと思う。でも実際、そう話してるうちになんかまた小説が読みたくなって。でもきっとそういうものなんじゃないかな。人ってつねに、現実とイマジネーションを行き来するんだと思う」




通訳:萩原麻理

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