今年2018年の〈サマーソニック〉に死角なし。そう言って切ってしまってもいいでしょう。なにしろ今年は、来日自体が奇跡のチャンス・ザ・ラッパーを筆頭に、今観ておきたい世界的ビッグネームが大集結。と同時に、注目のニューカマーもジャンルを越えて一挙にチェック出来るという充実ぶり。とにもかくにも豪華、なのです。
〈サマーソニック〉で来日する世界的ビッグネームたちについては、こちらの記事で紹介してあります。ぜひ併せて読んでください。
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サマーソニック2018ラインナップ最強説!
盛り上がってないのは日本だけ?世界を魅了
する豪華ビッグ・スター10組を見逃すな!
〈サマソニ〉特集第二弾となる本記事では、注目のニューカマー10組(+2組)をご紹介します。彼らはインディからR&B、UKラップ、ポップ・シンガー、ポストEDMに至るまで、そのジャンルは多種多様。それでいて、必ずや音楽シーンの未来を担うだろうアクトばかり。元々〈サマーソニック〉は新人のフックアップに定評がありましたが、ここまで見事なラインナップが揃ったのは本当に久しぶりではないでしょうか。
思わず懐かしさを覚える人も、こんなの初めて見るよ! という人もいると思いますが、ここで2000年に開催された記念すべき第一回〈サマーソニック〉のラインナップを見てください。
特に注目は初日土曜日。〈ステージ1〉のトップ・バッターはミューズ。そして〈ステージ2〉の一番手がシガー・ロス、二番手がコールドプレイです。今となっては信じられないタイムテーブルですが、このように未来のトップスターをいち早く観られるのが〈サマーソニック〉の醍醐味でもあります。
きっと今年のニューカマーにも、将来、大化けするアーティストが幾つも潜んでいるはず。ぜひあなたも自分の目と耳で、この12組の中から未来の大物を見つけ出してください。(小林祥晴)
今から思えば、起点となったのは、ロードの『ピュア・ヒロイン』だろうか。2010年代を通してポップ・シーンのメインストリームを牽引してきたのはレディ・ガガやケイティ・ペリーに代表される女性シンガー/ポップ・スターの系譜だったが、特に若い世代において、その在り方は今、大きな変化の時を迎えつつある。
それを端的にまとめるなら、著名プロデューサーを筆頭に多数の作家を起用した分業プロダクションから、限られた数名と共同で作り上げる、より親密なプロダクションへの変化ということになる。ポップ・ミュージックの分業化は、ジャンルの枠を超えた交流を推し進めた半面、常に画一化という弊害と表裏一体でもあった。しかし、現在、若い世代から台頭しつつある女性シンガーの多くは、そこからの揺り戻し/カウンターとしての表現を模索し始めているのだ。
その筆頭と言えるのが、LA出身で現在16歳のビリー・アイリッシュ。その若さと整ったルックスだけで新種のアイドル歌手と勘違いするのは早計だ。まずは、Netflixの大ヒット・オリジナル・ドラマ『13の理由』シーズン2に起用された、彼女の最新曲“ラヴリー”を聴いて欲しい。
この曲は、昨年世界的なブレイクを果たした新鋭カリードとのデュエットで、十代の孤独と憂鬱を歌い上げる美しいバラード。『13の理由』のテーマとも完璧にシンクロする内容だ。この曲をプロデュースしているフィニアスという人物はビリー・アイリッシュの実兄であり、これまでの楽曲は全て彼との共作&プロデュースとなっている。ヒップホップ/R&Bやエレクトロニック・ミュージックを通過したプロダクションを大前提として、生楽器の柔らかな音により親密かつ切実なムードを演出する彼女の音楽は、女性シンガーの潮流における新たな方向性を指し示している。
青山:★★★
編集部:★★★★★
久方振りに掛け値なしの英国発、大型新人バンドが〈サマーソニック〉で初めて日本の地を踏む。今イギリスでもっとも大きなバズを生んでいる超新星こそがペール・ウェイヴスだ。
ゴス・ルックが目を引くカリスマ、ヘザー・バロン・グレイシー率いるマンチェスター出身の4人組は、昨年The 1975やウルフ・アリスを擁するレーベル〈ダーティ・ヒット〉と契約してデビュー。その後2枚のシングルをリリースしただけの10月の段階で〈NME〉誌の表紙を飾り、〈BBC〉〈MTV〉といった著名ネットワークから〈DIY〉〈クラッシュ〉等のインディ系まで、大小様々なメディアで軒並み「2018年期待の新人」の一組として選出されてきた。
彼らは、例えるならばキュアーの孫、あるいはThe1975の妹。初期キュアーから譲り受けたクリーン・トーンのギターとタイトなビート、ビタースウィートなメロディは、今後まっすぐにスタジアム規模へと上り詰めていきそうな大きなポテンシャルが感じられる。
彼らの最新曲“キス”は、ヘザー自身が「気分を良くするドラッグみたいな曲」と語るアップリフティングなポップ・チューン。ここでは、先日ブライトンで行われたフェス〈グレイト・エスケープ〉出演時のパフォーマンス映像を見ていただこう。
彼らは、今夏を通して、イギリス、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドと世界各地を回る大規模ツアーを敢行。その中には〈レディング〉や〈ロラパルーザ〉といった世界的フェスへの出演も含まれ、さらに英ハイド・パークで6日間に渡って行われる大型フェス〈ブリティッシュ・サマー・タイム〉では、7月7日にヘッドライナーを務めるキュアーと同じステージを踏むことも決まっている。
未来のアリーナ・ロック・バンド最右翼、ペール・ウェイヴスが世界へと羽ばたく瞬間を、ぜひとも今回の〈サマーソニック〉で見届けてほしい。
青山:★★★★
編集部:★★★★★
昨年大ヒットを記録したドレイク『モア・ライフ』、先頃発表されたばかりのエイサップ・ロッキー『テスティング』などの作品が象徴するように、近年、英国産のヒップホップやグライム、UKソウル/R&Bが世界的にも注目を浴びつつある。その中で、英米のトップ・アーティストを次々と虜にし、アルバム・デビュー前にも関わらず数多くの大物と共演を果たしてきた新世代の筆頭こそがジョルジャ・スミスだ。
これまでに彼女をフックアップしてきた人物は、ドレイク、ブルーノ・マーズ、ケンドリック・ラマーと、超大物揃い。ドレイクは2016年から彼女の楽曲を気に入り、先に挙げた『モア・ライフ』では2曲でフックアップ。その内の一曲は“ジョルジャ・インタールード”と彼女の名前を冠したタイトルが付けられていた。ブルーノ・マーズは昨年行った世界ツアーの前座に彼女を起用。さらに、ケンドリック・ラマーがキュレーションを務めた映画『ブラック・パンサー』のサントラでは、英国出身アーティストとしては唯一となる単独名義での楽曲を提供している。
ジョルジャ・スミスは何故これほどまでに愛されるのか? その理由は、歌声から匂い立つブリティッシュネスにあるだろう。彼女がこれまでにもっとも影響を受けたと語るのは、エイミー・ワインハウス。実際、その音楽性はエイミー・ワインハウス以降のブリティッシュ・ソウルの系譜を正当に受け継ぐものと言える。
そのブリテッィシュネスがもっとも色濃く反映されている楽曲は、彼女のデビュー・シングルであり代表曲でもある“ブルー・ライツ”だろう。
翳りのあるエレクトロニック・プロダクション。シンプルなブーム・バップ・スタイルのビート。ヴァースで披露される、ブリティッシュ・アクセントのトースティング。ディジー・ラスカル“サイレンズ”の引用。これこそが英国的なソウル/R&Bの最新形なのだ。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
現在、もっとも刺激的な音楽都市は、間違いなくサウス・ロンドン。そこにはロック、ジャズ、グライムなど多様な音楽ジャンルの新鋭が集い、雑多だが活気に満ちたシーンが形成されている。そんなサウス・ロンドンに拠点を置くアーティストの中でも、ジャンル越境的な音楽性とポップ・ポテンシャルでは群を抜いた存在がトム・ミッシュである。
レーベル・インフォに「ジェイムス・ブレイク、ジェイミーxx に続いて現れた天才」とある通り、彼は元々プロデューサーとして世に登場した。その才能を世に知らしめた2015年発表のミックステープ『ビート・テープ2』は、Jディラの影響が色濃いソウルフルなビート・ミュージック作品だった。
しかし、実のところ、彼の才能はビートメイキングだけには留まらなかった。ギタリスト、ヴォーカリスト、ソングライターと、総合的なアーティストとしての才能を全面的に開花させたのが、今年4月にリリースされた彼のデビュー・アルバム『ジオグラフィ』だ。ここでは、盟友でもあるロイル・カーナーをゲストに迎えた収録曲“ウォーター・ベイビー”を聴いてもらおう。
一聴しただけでは誰もプロデューサー作品だとは思わないだろう、シルキーなギターの音色と甘い歌声。彼はジョン・メイヤーからも強いインスピレーションを受けたと話しているが、なるほど、親しみやすいメロディを聴けば、そんな影響源もすんなりと腑に落ちる。この稀有なソングライティング・センスは『ジオグラフィ』の核となっているものの、ゴールドリンクとデ・ラ・ソウルというアメリカの新旧ラッパーをゲストに招聘し、スティーヴィー・ワンダーをカバーする音楽的なレンジの広さも健在だ。
ライヴのステージでは、ギターを抱えてフロントに立ち、フル・バンドでのパフォーマンスを行っているトム・ミッシュ。シンガーソングライターでもあり、同時にプロデューサーでもある。ポップ・ミュージックでもあり、同時にビート・ミュージックでもある。彼のそんな立ち位置は、実に2018年的なソロ・アーティストの在り方だと言えるだろう。
青山:★★★★
編集部:★★★★
サウス・ロンドンからはもう一人、最注目の才能が〈サマーソニック〉に初登場する。アデルからキング・クルールまで、多数の著名アーティストを世に送り出してきた名門ブリット・スクールを昨年卒業したばかりの新鋭、コスモ・パイクだ。
グライム、レゲエ、スカ、ソウル、ジャズ等の影響をバンド形態に落とし込んだ折衷性が魅力の彼は、フランク・オーシャン“ナイキズ”のミュージック・ヴィデオに出演したことでも話題を呼んだ。“グレイト・デイン”のヴィデオでは、ミュージシャンだけでなく、グラフィティ・アーティスト、スケーター、モデルとしての顔も持つ彼のマルチな才能が垣間見える。
彼はファッション界からも熱い視線を注がれており、今年4月には〈サマーソニック〉に先駆けて、〈フレッド・ペリー〉と〈グラインド〉誌に招かれる形で初来日を果たした。〈フレッド・ペリー〉の日本公式サイトでは、その来日に伴うインタヴューとプレイリストが公開されている。
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Cosmo Pyke - ブリティッシュ・サブカルチャーを巡るプレイリストとインタビュー
グライムやキング・クルールといった同時代の音楽と並んで、ジョニ・ミッチェルや昔のスカ音楽からの影響も語り、自らの音楽を「Fusion of Jazzy」と称するコスモ・パイク。彼もまた、折衷型シンガーソングライターとして今後のサウス・ロンドンを代表する顔役になっていくに違いない。
また、このインタヴューでは自分の曲を「フェス向き」だとも語っているため、野外フェス初参加となる〈サマーソニック〉のステージはなおさら必見だろう。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
ブリット・スクール出身者で、世界的ブレイク間近のアーティストがもう一人。レックス・オレンジ・カウンティ名義で活動するアレクサンダー・オコナーは、BBCが毎年発表している期待の新人リスト〈サウンド・オブ・2018〉で第二位に選ばれたシンガーソングライターである。
現在はサウス・ロンドンに住んでいるというが、彼は元々ハンプシャー州の外れにある小さな村、グレイショットの出身。その育ちもあってか、彼が作り出す音楽はいい意味でいなたく、ロンドンっ子が時に陥りがちなスノビズムとは無縁だ。
目下の代表曲は、オランダのポップ職人ベニー・シングスと組んだ“ラヴィング・イズ・イージー”。ドラム、ピアノ、ストリングスの生音に人懐っこいハーモニーが乗る、ハートウォーミングな一曲で、ストップ・モーションで作られたキュートなヴィデオと相まって、彼の魅力を分かりやすく伝えてくれる。
彼はすでに自主リリースで2枚のアルバムを発表済。その音源を聴いて彼を気に入ったのがタイラー・ザ・クリエイターで、彼はタイラーの最新作『フラワー・ボーイ』に収録された“フォアワード”と“ボアダム”にヴォーカル参加も果たしている。
例えばエルトン・ジョンのように、老若男女を問わず誰にも愛され、皆が歌を口ずさむ。レックス・オレンジ・カウンティが、そんな国民的メロディメイカーへと成長する日も決して遠くないだろう。
青山:★★★
編集部:★★★★
ブルージーなギター・リフとパワフルなドラム・フィルを皮切りに演奏が始まったかと思えば、続いて聴こえてくるのはハイトーンのシャウト。これはいつの時代のハード・ロック? いや、いつの時代のレッド・ツェッペリンなのか? そんな疑問が頭に浮かぶほど、70年代ハード・ロックのマナーを現代に蘇らせるバンド、それがミシガン州から現れた4人組、グレタ・ヴァン・フリートだ。
このライヴ映像を見てもらえば分かるように、そのサウンドとは裏腹にメンバーは全員二十代前半の若さ。双子と兄のキスズカ三兄弟を中心に結成された彼らは、昨年リリースした2枚のEP『ブラック・スモーク・ライジング』と『フロム・ザ・ワイアーズ』によって、ロック・メディアを中心に話題となった。
それぞれのEPに収録されたシングル“ハイウェイ・チューン”と“サファリ・ソング”は、どちらもUSメインストリーム・ロック・チャートで1位を獲得。〈ラウドワイア〉や〈ケラング〉等のラウド・ロック系メディアだけでなく、老舗の〈ローリング・ストーン〉や〈エンターテイメント・ウィークリー〉といったメディアでも要注目の新人として紹介されるなど、アメリカン・ロック界の期待を一身に集めている。
イマジン・ドラゴンズを筆頭に、モダンなテクスチャーを取り込むバンドが主流のUSロック・シーンの中で、安易に時代性へと目配せすることなく、ロックの歴史に連なろうとする彼らのようなバンドは希少。『フロム・ザ・ワイアーズ』にサム・クックとフェアポート・コンヴェンションのカヴァーを収録していることからも、彼らの求道的な姿勢が伝わってくる。
今回の〈サマーソニック〉ではメイン・ステージの真昼間に登場する予定となっているグレタ・ヴァン・フリート。あなたがロック・サウンドを欲しているなら、彼らのステージを見逃す手はない。
青山:★★★
編集部:★★★★
一昨年から加速度的に勢いを増し、昨年のストームジーによる全英1位獲得によってメインストリームを完全に掌握した感のあるグライム。ただ、グライムの潮流は規模の拡大と共にいくつかのサブジャンルへと枝分かれしつつある。
代表的なサブジャンルとして挙げられるのは、まずシカゴのドリル・ミュージックを雛型にしてより過激で暴力的なストリート表現に傾倒するUKドリル。そして、もう一つがアフロ・ビートとダンスホールをロンドン的な混交の感覚で融合させたアフロ・バッシュメントだ。アフロ・バッシュメントを代表する旗手は、昨年リリースの1stアルバムが全英6位となったJ・ハス。そして、J・ハスに続いてアフロ・バッシュメント発のヒット・ソングを生み出した新鋭ラッパーこそがこのラムズだ。
昨年末に発表されたこのデビュー・シングル“バーキング”は、今年1月、ドレイクとエミネム&エド・シーランの大ヒット曲に挟まれる形で全英2位を獲得。ヒットの要因は、何と言っても世界的なトレンドと共振するダンスホール譲りのビートと、ラップというよりもトースティングに近いメロディアスなフロウの中毒性にあるだろう。
アフロ・バッシュメントの潮流はまだ生まれて間もないため、アフロ・スウィング、アフロ・トラップなど、いくつかの呼び名が存在する。とは言え、このアフロ・ビートとダンスホールのグライム的派生が今後のイギリスで更なる広がりを見せていくのは間違いなさそうだ。
ここ日本では、グライム系アーティストの来日自体がかなりレア。しかも、それが最新トレンドであるアフロ・バッシュメントの未来を担うラムズとなれば、なおさら貴重なステージと言えるだろう。
青山:★★★★
編集部:★★★★
アメリカのメインストリームを完全に手中に収めたトラップ。ビヨンセ、ソランジュ、ジャネール・モネイらが牽引する、女性のエンパワーメントを掲げたR&B。ロバート・グラスパー以降の新世代ジャズ。グライムやブリティッシュ・ソウルの新潮流。いずれも現代のポップ・ミュージックを見る上で重要な、それらのムーヴメントをたった一人で繋いでみせる突然変異種がUKのマンチェスターに存在する。
彼女の名前はダイアナ・デブリート、IAMDDBというアーティスト名義で活動する新鋭だ。彼女はすでにBBCの〈サウンド・オブ・2018〉で3位に選ばれ、各国の音楽メディアからも熱い視線が注がれている。
彼女の音楽はネオソウル的と形容されることもあり、自ら「アーバン・ジャズ」と呼ぶようにジャジーなアーバンR&B/ソウルを一つの参照点にしているのは確か。だが、その音楽性は決して一筋縄ではいかない。ソウル譲りのスムースさに太いトラップ・ビートが重なり、シルキーな歌唱から三連フロウも当たり前のように駆使するラップまで、そのヴォーカリゼーションも多彩。彼女の代表曲“シェイド”は、彼女の孤高さを3分間に凝縮した名曲だ。
ヴィデオを見れば分かる通り、彼女はファッション・センスもかなり独創的なセンスの持ち主。〈サマーソニック〉の舞台では、音楽面のみならずビジュアルやステージングにも要注目だ。
青山:★★★
編集部:★★★
日本からKOHHとLootaが参加したキース・エイプの“It G Ma”がアメリカや欧米でもヴァイラル・ヒットとなったのは2015年。それから3年の間で、東アジアのヒップホップ・カルチャーが世界的にも活況を博し、現在ではグローバルなネットワークを形成するに至っている。
その最大の立役者は、ショーン・ミヤシロによってアジアのカルチャーを若い世代に伝えるために設立された、ニューヨークに拠点を置くマスメディア・カンパニー〈88ライジング〉。同会社には、韓国のキース・エイプ、インドネシアのリッチ・ブライアン、日本のジョージ(joji)らが国境を越えて所属しているが、中でも頭一つ抜けたバズを世界中で巻き起こしているのが中国の4人組ハイヤー・ブラザーズである。
経済的にはアメリカに次ぐ世界第二位のGDPを誇る超大国へと成長を遂げたものの、いまだ中国共産党による一党支配が続き、文化的には厳しい統制が敷かれている中国。Twitterもfacebookも規制されているが、ハイヤー・ブラザーズはその文化状況を赤裸々にラップする。キース・エイプがゲスト参加した“WeChat”は、中国でもっとも一般的なメッセンジャー・アプリを駆使して世界と繋がることについての曲だ。
トラップからレゲエに変化する現代的なビートに、キャラ立ち抜群のマイク・リレー。音楽面では世界の潮流と同時代的に繋がりつつ、中国語の響きやリリックを使って中国に生きる若者の生活をレペゼン。インターネットを介した世界的なネットワークと、文化統制を逆手に取ったオリジナリティを武器として、彼らハイヤー・ブラザーズは結成から3年足らずで世界的なスターダムを上り詰めようとしている。
青山:★★★★★
編集部:★★★★
今年の〈サマーソニック〉最大の目玉は、誰が何と言おうとチャンス・ザ・ラッパーに違いない。だが、同日に出演するアーティストの中に、チャンスとかねてから親交の深いアーティストが一人いることも覚えておいてほしい。
その男の名前はノックス・フォーチュン。チャンスも所属するシカゴのクルー〈セイヴ・マネー〉のトラックメイカーを長年務めてきたプロデューサーだ。チャンスの『カラーリング・ブック』において、ケイトラナダがプロダクションを務めた“オール・ナイト”にフィーチャーされ歌声を披露していた人物だと言えば、その名前を思い出す人もいるかもしれない。
彼はこれまで〈セイヴ・マネー〉周辺の裏方ミュージシャンというイメージが強かったが、昨年ソロ名義でデビュー・アルバム『パラダイス』をリリース。同作にはジョーイ・パープ、カミという〈セイヴ・マネー〉のラッパーも参加していたものの、全体的なイメージはヒップホップというよりも、アニマル・コレクティヴを髣髴させるサイケ・エレクトロニックなUSインディ作品に仕上がっていた。
ライヴ映像を見る限り、彼のライヴはバンドを従えて緩々と歌いまくるローファイな代物になっている様子。チャンスのライヴ目的でチケットを取った人も、ぜひ早起きしてチャンスの盟友によるステージを見届けてみてはいかがだろうか。
青山:★★
編集部:★★★
今年は、メイン・ステージのトリ前に、現役最高峰のプロデューサー/トラックメイカーであるマシュメロが登場するものの、全体として見ればEDM系のアーティストは決して多くない。ただ、マシュメロと、このプチ・ビスケットのパフォーマンスを見ればEDMシーンが今なお着実な進化を果たしていることが分かるはずだ。
フランス出身でいまだ18歳という驚異的な若さを誇るプチ・ビスケットは、高校在学中の2015年に発表したシングル“サンセット・ラヴァー”のヴァイラル・ヒットによって一躍その名前を世に知らしめた。
この曲は、ネット上での総ストリーミング回数が3.3億回を超えるキラー・チューン。2015年当時、隆盛だったトロピカル・ハウスにフューチャー・ベースの要素も取り入れたこの音楽は、EDMのメロウ化が進みつつある今聴いても、色褪せるどころか新鮮に聴くことが出来るに違いない。
彼は昨年、自身18歳の誕生日にデビュー・アルバム『プレゼンス』を発表。そこでは、クラブ向けのダンサブルなナンバーのみならず、アンビエントなトラックやヴァイオリンを使用した楽曲でクラシックの素養も垣間見せていた。
ただ頭を空っぽにして踊って楽しむだけではない、知的なダンス・ミュージック。それがフランス発の神童、プチ・ビスケットが提示するEDMの新たな方向性に違いない。その真価は〈サマーソニック〉のステージで確認してほしい。
青山:★★★
編集部:★★★
2018年の夏フェスすべてのハイライトは
世界から置き去りにされた日本のシーンを
塗り替えるチャンス・ザ・ラッパー初来日だ!
今、ラップに対抗出来るのはEDMとポップの
融合? マシュメロがチェインスモーカーズと
並び、ポストEDM時代の覇者になった理由