SIGN OF THE DAY

今、ラップに対抗出来るのはEDMとポップの
融合? マシュメロがチェインスモーカーズと
並び、ポストEDM時代の覇者になった理由
by YOSHIHARU KOBAYASHI August 03, 2018
今、ラップに対抗出来るのはEDMとポップの<br />
融合? マシュメロがチェインスモーカーズと<br />
並び、ポストEDM時代の覇者になった理由

2018年のEDM、あるいはポストEDMを象徴する新世代アクトは誰か? それは間違いなくマシュメロでしょう。もちろんカルヴィン・ハリスもスクリレックスもディプロもいまだ健在。チェインスモーカーズの怒涛の勢いも無視できない。しかし、〈フォーブス〉曰く、「マシュメロは同胞の誰よりも早く成層圏まで上昇した」のです。

実際、マシュメロは今年2018年に入ってから既に4曲のトップ40ヒットを生み出しており、それらの総ストリーミング回数は驚異の20億回超え。〈フォーブス〉が発表した「世界でもっとも稼ぐDJランキング」の2018年版でも5位につけています。(1位は6年連続でカルヴィン・ハリス、2位はチェインスモーカーズ)。日本でも大人気のチェインスモーカーズと並び、まさにマシュメロこそが今もっとも勢いに乗っている新世代の代表格と言って過言ではありません。

となれば、ここ10年でもっとも充実したラインナップである今年の〈サマーソニック〉においても、マシュメロを観ないわけにはいかない――それが本稿の趣旨です。チャンス・ザ・ラッパーが目当ての人も、ベックやノエル・ギャラガーが目当ての人も、とりあえずマシュメロをチェックしておいて損はありません。なぜなら彼はEDMの現在地とポップの最前線を象徴する存在だからです。

「いや、EDMのブームは終わったんじゃないの?」もしかしたら、そんな風に思っている人もいるかもしれません。確かに、2016年には「EDMはもう終わり」というニュースが海外で頻繁に報じられていました。例えば〈ページ・シックス〉は、EDMのDJにとってドル箱だったラス・ヴェガスのホテルでの年間レジデンシー契約の更新料が50%削減されたと報道。〈ビートポート〉は、同年の〈マイアミ・ミュージック・ウィーク〉は散々な客入りだったというニュースを伝えていました(現在は削除済み)。そんな中、〈トゥモローランド〉や〈エレクトリック・ズー〉を主宰する大手プロモーター、SFXが破産。当時、日本ではまだEDMバブル真っ盛りだったものの、〈マイアミ・ヘラルド〉が指摘したように、「ダンス・ミュージックの熱狂はスロウ・ダウンしつつある」と海外では受け止められていました。

ところが、その直後の2017年から状況は大きく動きます。ポストEDMと呼ばれる新世代が次々と頭角を現し、ヒット・チャートを席巻するようになったのです。その代表格が、先ほどから名前を挙げているマシュメロとチェインスモーカーズ。世代としては一つ上にあたるかもしれませんが、ゼッドやカイゴもポストEDM時代のトップ・スターと位置付けて異論はないでしょう。

彼らの特徴は、一言で言えばソングライティング重視であること。ビッグ・ルーム向けのダンス・フィールを根底に持ちながらも、ポップ・ソングを書くことに極めて意識的なのです。しかも、ここ1年半くらい特に顕著な傾向として見られるのが、大物ポップ・シンガーたちとのコラボレーション。ざっと挙げるだけでも、チェインスモーカーズとコールドプレイ、マシュメロとセレーナ・ゴメス、ゼッドとアレッシア・カーラ、カイゴとミゲルなど、キリがありません。〈ローリング・ストーン〉は、この傾向を「ラップ/R&Bに後れを取らないように、この2つのジャンル(EDMとポップ)は互いに助け合う必要があった」と分析しています。

とは言え、ポップとEDMの結託自体は、決して目新しいものではありません。過去にもカルヴィン・ハリスとリアーナによる“ウィ・ファウンド・ラヴ”(2011年)、ゼッドとアリアナ・グランデによる“ブレイク・フリー”(2014年)といったビッグ・ヒットが生まれています。しかし、それらの楽曲と現在のポップ/EDMクロスオーヴァーの違いは、現在の方が曲のスタイルに柔軟性があること。振り返ってみると、従来のポップ/EDMヒットは、EDMのフォーミュラにポップ・シンガーをそのまま乗せただけ、という曲が少なくありませんでした。しかし、現在のポップ/EDMクロスオーヴァーは、曲やコラボ相手によって、サウンドやスタイルは多種多様です。

例えばチェインスモーカーズとホールジーによるメガ・ヒット“クローサー”は、コーラスにEDM特有のドロップを薄っすら残しているものの、基本はメランコリックなエレクトロ・ポップ。リリックにも名前が出てきますが、本人たち曰くブリンク182の“アイ・ミス・ユー”にインスパイアされているんだとか。

The Chainsmokers / Closer feat. Halsey


少し時代が前後しますが、ヘイリー・スタインフェルドとゼッドのコラボである“スターヴィング”は、80年代メタル・バンドの泣きバラードとEDMをぶつけたような、2016年当時としては新鮮な試み。アッパーなEDMと対比し、最近のメロウなEDMは「チルEDM」と呼ばれるようになりましたが、この曲なんかはその走りかもしれません。

Hailee Steinfeld, Grey / Starving feat. Zedd


こういったポストEDMにおける楽曲の多様性は、「金太郎飴」と揶揄されがちだったEDMプロデューサーに引き出しの多さが求められるようになったことの裏返しでもあります。とりあえず派手なビルドアップとドロップを作っているだけでは、今の競争を生き抜けません。そして、この状況下において、もっとも目を見張るべき才能を発揮しているのがマシュメロなのです。彼は、最強の全方位型オールマイティ。その柔軟性には驚かされるばかりです。

具体的に見ていきましょう。マシュメロによるポップ・スターとのコラボ・シリーズの口火を切ったのは、カリードを起用した“サイレンス”。これはカリードのソウルフルで物憂げなヴォーカルを最大限に活かしたバラードですが、コーラスに向けてビルドアップしていくアレンジはEDM的。近年のチルEDMのお手本のようなトラックです。

Marshmello / Silence feat. Khalid


セレーナ・ゴメスとのコラボ曲“ウルヴス”は従来のEDMに比較的近いサウンドですが、音色にしろ、展開の抑揚のつけ方にしろ、やや抑えめ。どこかチル気味ですね。しっかりと時代の空気を取り込んでいます。コーラスでのハイハット使いがトラップを意識しているのは、いい隠し味です。

Selena Gomez, Marshmello / Wolves


イギリスの新鋭アン・マリーが歌う“フレンズ”は、EDMと呼ぶより素直にR&Bと呼んでしまった方がしっくりと来る仕上がり。〈ローリング・ストーン〉では「ゼロ年代のR&Bを思い起こさせる」と評されています。マシュメロがEDMの枠組みに留まらない、本格的なポップ・プロデューサーとしての才覚を持っていることを広く知らしめた曲だと言ってもいいでしょう。

Marshmello & Anne-Marie / Friends


そして、ロジックとの“エヴリディ”、ミーゴスとの“デンジャー”は、完全にビッグ・ルーム仕様のトラップ。音色以外にEDM要素はほぼ見当たりません。ただ、EDMのDJがBPMを半分に落としてラップをセットに組み込むのが当たり前になった今、こういった曲はフェスでも大活躍しそうです。

Marshmello & Logic / Everyday

Migos & Marshmello / Danger


一方で、2018年6月にリリースしたばかりのニュー・アルバム『ジョイタイムII』は、若干のエモ要素はあるものの、基本は完全フロア仕様のEDM。これを聴くと、シングルはヒット・チャート向けのポップ・ソング、アルバムはダンスフロアやフェスティヴァル向けと明快に使い分けていることがわかります。

Marshmello / Stars (from Joytime II)


“サイレンス”がリリースされたのが2017年8月。それからわずか1年弱の間に、ここまで多彩なサウンドを提示したポストEDMのプロデューサーは、果たして他に何人いたでしょうか? まさにマシュメロは、音楽スタイルに強い柔軟性が求められるポップ/EDMクロスオーヴァーの時代に頭角を現すべくして現した才能。〈サマーソニック〉で彼のステージを観れば、現在のポップ・シーンのひとつの突端に触れられるのは間違いありません。

最後に、今年マイアミで開催された〈ウルトラ〉でのフル・セット動画を貼っておきましょう。基本は超アゲアゲのパーティ・モード。本稿で紹介した自身のヒット曲をプレイしているのはもちろん、ケンドリック・ラマー“ハンブル”やヨ・ゴッティ&ニッキー・ミナージュ“レイク・イット・アップ”などのラップも差し込み、更にはダフト・パンクやキラーズやボン・ジョヴィ(!)みたいな大ネタまで叩き込むなど、何でもあり。最高に楽しませてくれること請け合いです。さて、〈サマーソニック〉当日は如何に?

Marshmello / live at Ultra Music Festival Miami 2018



2018年の夏フェスすべてのハイライトは
世界から置き去りにされた日本のシーンを
塗り替えるチャンス・ザ・ラッパー初来日だ!


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