SIGN OF THE DAY

2018年の夏フェスすべてのハイライトは
世界から置き去りにされた日本のシーンを
塗り替えるチャンス・ザ・ラッパー初来日だ!
by KOREMASA UNO July 02, 2018
2018年の夏フェスすべてのハイライトは<br />
世界から置き去りにされた日本のシーンを<br />
塗り替えるチャンス・ザ・ラッパー初来日だ!

もしかすると、今年の〈サマーソニック〉のヘッドライナー、ベックの前に出演するチャンス・ザ・ラッパーって誰? という人もいるかもしれない。だが、もしこれが日本以外の国の音楽フェスだったら、ヘッドライナーはむしろベックではなく、チャンス・ザ・ラッパーだったろう。間違いなく、今、彼は時代の中心にいる。

ご存知の方には改めて言うまでもないが、チャンス・ザ・ラッパーは2010年代の音楽シーンにおけるゲーム・チェンジャーの一人だ。

彼はいまだにレーベル契約がなく、自身の作品を有料販売したことがない。にもかかわらず、ストリーミングのみで発表された現在までの最新作『カラーリング・ブック』(2016年)は、グラミー賞で最優秀新人賞を含む三冠を達成した。チャンスからの積極的な働きかけと、その作品の素晴らしさによって、「一般的な流通形態で有料販売されたもの」というグラミーの選考基準が書き換えられたのだ。

それだけではない。3枚目のミックステープ『カラーリング・ブック』(彼はいまだ正式な1stアルバムは作っていない)において、地元シカゴの〈セイヴ・マネー〉クルーを中心に、異なる人種や世代や信仰のゲストを一堂に集めたこと。特定のジャンル/価値観に固執することなく、ヒップホップやゴスペルからジュークやR&Bやハウスまでを横断したサウンドを提示してみせたこと。さらには、その音楽活動から得た資金を惜しみなく使って、シカゴの教育機関への支援を積極的に行なっていること――チャンス・ザ・ラッパーの活動は、その全てにおいて、何かしらの形で状況を少しでもポジティヴな方向に好転させようという意志が貫かれている。そして、それを実現させるスマートな知性と地道な努力がある。

この混乱と対立の時代において、チャンス・ザ・ラッパーほど目の前の気が滅入るような状況に屈することなく、ポジティヴな変革の旗を振り続けているアーティストは、他になかなか見当たらない。だからこそ、彼は人々の信頼を得て、今の時代を代表するアイコンとなっている。

では、この2018年にチャンス・ザ・ラッパーを観るとはどういうことなのか? それを、海外のポップ・カルチャー全般に造詣が深く、常に時代を象徴するポップ・ミュージックを鋭く論じ続けている音楽評論家の宇野維正氏に紐解いてもらった。(小林祥晴)




2018年のチャンス・ザ・ラッパーを、まだ誰も知らない。いや、厳密にいえば今年に入ってからも南半球のサマー・シーズンとなる3月に、サンパウロ(ブラジル)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、サンティアゴ(チリ)で開催された〈ロラパルーザ〉のステージに上がっているのだが、それは昨年8月にシカゴでおこなわれたロラパルーザからの一連の流れに過ぎない(ご存知のように〈ロラパルーザ〉はツアー形式のフェスで、近年はアメリカのシカゴをベースにして、そこからアメリカ国内ではなく南米やヨーロッパの都市をツアーするようになっている)。新作への期待は日に日に高まっているが、単独名義の作品に関しては、2016年5月にシェアされたミックステープ『カラーリング・ブック』からもう2年以上もの年月が経ったことになる。

それでもチャンスの名前を聞かない日がないのは、彼がソーシャル・メディアを積極的に駆使して、そこでの発信を起点に行動を起こし続けていること。シーンの最重要人物の一人であることを全身で引き受けて、社会問題、政治、音楽業界のあり方まで広範囲にわたってオピニオン・リーダーとして発言をし、その結果としていくつかの騒動にも巻き込まれてきたこと。そして、フィーチャリング・ゲストとして他のアーティストの作品に参加し続けているからだ。

もっとも、フィーチャリング・ゲストとしてのアピアランスは、今年に入ってから同郷シカゴの盟友サバのアルバム収録曲“ログ・アウト”、カーディ・Bのアルバム収録曲“ベスト・ライフ”、そしてチャンスにとって一心同体とも言えるバンド、ソーシャル・エクスメリメントのキーボーディスト、ピーター・コットンテイルのリーダー作“フォーエヴァー・オールウェイズ”の3トラックのみ。いずれもチャンスらしさが存分に発揮された素晴らしい仕上がりだったが、カーディ・Bを除けば完全な「身内」の作品ばかり。2016年頃までの「ラップ・シーンの外交官」的なクロスオーヴァーな活躍は鳴りを潜めている。

Saba / Logout feat. Chance the Rapper

Cardi B / Best Life feat. Chance The Rapper

Peter CottonTale / Forever Always feat. Chance The Rapper, Rex Orange County, Daniel Caesar


「チャンス・ザ・ラッパーの不在」を強く感じさせるのは、ここにきて彼にとって導師とも呼べる存在の二人のアーティストの動きが異常なほど活発になってきているからだ。

一人は言うまでもなく同郷の名士、カニエ・ウエストだ。カニエのトランプへの支持表明と度重なるパフォーマンスは、オバマが上院議員だった時期に地元イリノイ州で秘書を務め、2008年の大統領選挙対策本部で地元を統括していたケン・ベネットを父に持つチャンスを複雑な状況に追い込んだ。チャンスの名前を利用してカニエの政治的スタンスを問うラジオDJのツイートに対して、カニエを擁護するようなツイートをすると、今度はトランプ本人がそれを利用してカニエを賞賛するという思わぬ展開に。オバマの選対本部でインターンとして働き、今では公私にわたってオバマと付き合いのあるチャンスは、事態を収拾するために釈明をする必要に迫られた。5月から6月にかけてカニエが5週連続で自身の作品やプロデュース作品をリリースして、(ミュージシャンだから当然のことだが)作品の力で落とし前をつけつつある中、チャンスの作品でのリアクションが待たれている。

もう一人は、ドナルド・グローヴァー=チャイルディッシュ・ガンビーノだ。チャンスは2013年にリリースした2ndミックステープ『アシッド・ラップ』収録の“フェイヴァリット・ソング”でチャイルディッシュ・ガンビーノをフィーチャー。そのお返しに、チャンスは同じ2013年のチャイルディッシュ・ガンビーノの2ndアルバム『ビコーズ・ジ・インターネット』収録曲“ザ・ワースト・ガイズ”に参加。同曲は二人がLAのビーチで無邪気に戯れるミュージック・ヴィデオも制作された。

The Worst Guys (Feat. Chance The Rapper) - Childish Gambino


5年前の時点では、両者ともLAに居を構えた前途洋々なヤング・ブラックスターだった二人はその後、片やコメディ・スターとして地固めした後に製作にも乗り出した『アタランタ』と3rdアルバム『アウェイクン・マイ・ラヴ!』で映像界と音楽界をまたにかけるスーパースターに、片や地元シカゴに戻り現代アメリカのヤング・ブラックを代表する社会派ラッパーに。と、それぞれの道を歩んでいくことになったわけだが、現時点で2018年最大の問題作となったチャイルディッシュ・ガンビーノの“ディス・イズ・アメリカ”は、まるでチャンスのお株を奪うような曲だった。

Childish Gambino / This Is America


ちなみに『アタランタ』の主要エピソード、及び“ディス・イズ・アメリカ”ミュージック・ヴィデオの監督を務めているヒロ・ムライとはチャンスも旧知の仲(2016年にヒロ・ムライはチャンスを起用したナイキのCMも製作している)。2018年の音楽&映像におけるエポックメイキング・ヒットは、本来ならばチャンスの役割だったのではないか?

そして、ここにきて状況が大きく動きつつある。6月28日、米国のカルチャー・メディア〈コンプレックス〉の動画番組『オープン・レイト』に出演したチャンスは、➀カニエとアルバムを既にレコーディングしていること、②そのアルバムが7月中にリリースされる予定であること、③昨年から製作している自身の「デビュー・アルバム」はそれとは別の作品としてリリースされること、④以前から噂のあったチャイルディッシュ・ガンビーノとのミックステープは6曲完成していて、最終的には14曲以上のボリュームになること、を次々に明かした。

Chance the Rapper On Kanye West, Donald Glover and New Music


既に発表されているように、2018年中にはチャンスが主役(デリバリー・ピザのドライヴァー)を演じるホラー映画『スライス』の公開も予定されている。今度はチャンスがドナルド・グローヴァーの領域に侵入してみせたかのようなその作品の音楽には、チャイルディッシュ・ガンビーノの右腕として知られるプロデューサー、ルドウィグ・ゴランソンも参加。すべては繋がっていて、やはりその中心にいるのはチャンスなのだ。

そんなチャンスが、7月21日の地元シカゴでのスペシャル・オリンピックス開催50周年イベントに続いて久々にステージに上がるのが、今年の〈サマーソニック〉での初来日公演となる。今のところこの夏に予定されているのは、シカゴ、サマソニ大阪、サマソニ東京、マニラ、シンガポールの5公演のみ。チャンスにとって初のアジア・ツアーとなる今回のライヴが、代表曲連発のエンタテインメント・ショーとなるか(いずれにせよ“ノー・プロブレム”、“サンデー・キャンディ”あたりの代表曲は必ず演奏されるだろう)、それだけでなく、そこに2018年のチャンス・ザ・ラッパーが反映された最新モードも加えられるかはまだ誰にもわからない。通常、ソーシャル・エクスペリメントによるバンド演奏や聖歌隊が加わるチャンスのショーは、多くの人が想像しているであろうラッパーとDJのストイックなライヴとはまったく次元の違う、ソウル・レヴューとゴスペル・コンサートを合体させたような異様な高揚感に溢れたものだ。

Chance The Rapper / live at Lollapalooza Argentina 2018


チャンスのライヴを観ないことには、「ビーチェラ」、「ディス・イズ・アメリカ」、「カニエ怒涛の連作」を受けた2018年の後半は始まらない。それだけは断言しよう。そして、我々日本のオーディエンスは、それを目撃することのできる最高の「チャンス」を手にしている。




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