多くの人たちと同じように、ベン・ワットが1983年にリリースしたアルバム『ノース・マリン・ドライヴ』と、その前年のロバート・ワイアットとの共作EP『サマー・イントゥ・ウィンター』は、僕にとっても特別な作品だ。“ネオ・アコースティック”という言葉の響きに惹かれてオレンジ・ジュースやアズテック・カメラの作品を手に取り、アコースティックというイメージからは程遠いサウンドに戸惑っていた当時の自分にとって、文字通りアコースティックで、誰もいない浜辺のように寂しげなベン・ワットやトレイシー・ソーンのソロ・アルバムは、まさに心の拠り所とも言えるものだった。
だからこそ、その後トレイシーと結成したエヴリシング・バット・ザ・ガールやDJでの活動を通じてドラムンベースやハウス・ミュージックに接近していったベン・ワットの31年ぶりのソロ・アルバム『ヘンドラ』が、原点に立ち返ったようなシンガー・ソングライター的な作品だったのは嬉しい驚きだったし、そのアルバムを携えて久しぶりに来日するというのだから、エヴリシング・バット・ザ・ガールをリアルタイムで体験できなかった自分にとっては、喜びもひとしおだ。しかも今回帯同するのは、アルバムでもリード・ギターを弾いていた元スウェードのバーナード・バトラー。近年はリバティーンズやクリブス、ケイジャン・ダンス・パーティーなどのプロデューサーとしての活動で知られている彼がプレイヤーとして表舞台に立つことも、大きな話題になるだろう。……贅沢を言えばビーチ・ステージに打ち寄せる波を避けながら、曇り空の下で見ることができたら文句無かったのだが、ベン・ワットが爪弾く“ノース・マリン・ドライヴ”のイントロが聴こえてきたら、きっと心はすぐにでも冬の海に飛ばされてしまうに違いない。
そのベン・ワットを聴くといつも思い出すのがスウェーデン人シンガー・ソングライターのホセ・ゴンザレスなのだが、彼が初来日した際のサポート・メンバーだったのがユキミ・ナガノ。その後ゴリラズやSBTRKTのアルバムに客演してすっかり人気者になった彼女が、自身のバンドであるリトル・ドラゴンを率いて来日するのも見逃せない。同じくゴリラズへの参加でも知られる羽鳥美保と本田ゆかのチボ・マットも、15年ぶりの新作『ホテル・ヴァレンタイン』を携えて凱旋帰国。チューン・ヤーズやミカチューといった女性アーティストたちの先駆けとも言える、カラフルでエキセントリックなステージに期待しよう。そして音楽は勿論、その過激な言動でなにかとお騒がせなスカイ・フェレイラとアゼアリア・バンクスの、“東西バッド・ガール対決”にも注目。
他にも例年以上に女性ソロ・アーティストの出演が目立つ今年のラインナップ、見どころは“ナッシング・バット・ザ・ガール”なのかもしれない。
サインマグの各ライター陣が本音で選んだ
〈サマーソニック〉お薦めアクト・トップ5
その④:キュレーション by 天野龍太郎
はこちら。
「さて〈サマーソニック2014〉なんですが、
果たしてアークティック・モンキーズ以外に
見どころはあるのか? 検証してみますよ。」
はこちら。