スーパーオーガニズム決定版インタヴュー:
世代も出自も違う、帰るべき場所を持たない
アウトサイダー8人がホームを手にするまで
●じゃあ、少し曲単位で訊かせてください。アルバム一曲目の“イッツ・オール・グッド”は、サウンドもそうだし、タイトルを見る限りはすごくポジティヴな曲なわけですよね。
●でも、スクリュードした声で、自己啓発本で有名なアンソニー・ロビンスの発言が使われている。あれは皮肉ですか? それとも、彼の著作や言動に対するシンパシーがある? どちらなんでしょうか。
エミリー「アンソニー・ロビンスの存在って、良いようにも悪いようにも解釈出来ると思うんだ。『いいことを言っているな』と感じる発言もある。基本的な考え方としては間違っていない。『ポジティヴに考えて、ポジティヴに行動する。じっとしてないで何かをやってみよう』って。誰だって共感出来ることだよね。でも、『自分がなりたいと思ったら何にでもなれるんだ!』とか言い出すと、ちょっと鬱陶しくなってしまう(笑)。だって、実際はそうじゃないから」
ハリー「でも、そういうのを信じちゃう人がいるから、ペテン師が出てきてしまうんだよね(苦笑)。まあ、アンソニー・ロビンスがペテンだとは言わないよ。でも、幸せを求める行為が、時に人を盲目にしてしまうことってあるよね。で、そこにつけ込む政治家や宗教家が必ず出てきて、出来もしない約束をするんだ。すべての答えを持っている振りをしたりね。でも、そんなことありえないから、結局、痛い目にあって初めて目が覚めるんだよ」
●じゃあ、あなたたちの曲って、サウンドとリリックのバランスもそうだけど、リリック自体も両義的な意味合いを持っているものが多いですよね。それは意識的?
ハリー「そうだね。ある程度の両義性を持つことはすごく大事だと思う。アートは何かを反映していることが大事だけど、そこから何を汲み取るかはリスナーの解釈に委ねるべきだと思うんだ。アーティストが自分の見解を明確にする必要はないと思う。それよりも自分の周りの世界を作品に反映させることが役割なんだよ」
●まさにその通り。
ハリー「その結果、もしかすると、人によってはそれを陰鬱だと感じるかもしれないし、希望と感じて奮起してくれるかもしれない。でも、アートには聴き手が自分を投影出来る両義性を持たせるのが大事だと思っているんだ」
●例えば、“エヴリバディ・ウォンツ・トゥ・ビー・フェイマス”にしても、誰もが有名になりたいと思っている今のセレブ・カルチャーやセルフィー(自撮り)・カルチャーをからかっているところが確実にありますよね。でも、全否定はしていない。「自分たちもそうした欲望や環境からは逃れられないし、その一部なんだ」っていうニュアンスを感じるんですね。ただ、実際はどうですか?
ハリー「君が言ったことはかなり当たってると思う。だって、世界中の誰もが何らかの形で人に認めてもらいたいと思っているし、自分のことを人に知ってもらいたい、よく思ってもらいたいと感じてるわけだよね。まあ、家族に認めてもらいたいのか、友人たちに認めてもらいたいのか、社会的レベルで有名になりたいのかーーそれぞれレベルは違うと思うけど。でも、それ自体を前向きに捉えるか、否定的に捉えるかは、受け手次第なんだよ」
エミリー「実際、SNSで他愛もないことを自慢する人たちって、面白いよね。ランチが充実していたとか、どれだけ休暇を取っているかとか(笑)。勿論、それをからかうことは出来る。でも、考えてみれば、僕たちだって世界中を旅して、自分たちのレコードの宣伝をしているわけでさ。だから、それが僕たちにとってのセルフィーだと思われても仕方ないわけだよ。僕たちだって同罪だ。人のことをとやかく言える立場じゃないっていうね」
●じゃあ、少し話は逸れるんだけど、セレブ・カルチャーについての質問です。例えば、カニエ・ウェストとテイラー・スウィフトの確執だとか、それを元にテイラー・スウィフトが「世間からの評判」ってタイトルのレコードを作ったりーーそういった一連の動きをどんな風に見てたのか教えて下さい。
エミリー「個人的には面白くて笑っちゃうけどね(笑)」
ハリー「もうカニエの場合、あのキャラが強烈過ぎるからね。いいアーティストっていうのは、とにかく変人だったりするから」
エミリー「彼の場合、その変人っぷりを思い切り発揮する巨大なステージが与えられてるって感じだね(笑)」
ハリー「そうそう、超変人。彼のファンにとっては最高のエンターテインメントだよね。でも笑っちゃうのは、肝心の作品そのものよりも、個人が持ち上げられてしまう傾向があること」
●まさに。
ハリー「僕の友達には、カニエ・ウェストの音楽を聴いたことがないのに、カニエのことを毛嫌いしている人たちが大勢いる。彼らが唯一知ってることと言えば、カーダシアン姉妹の一人と結婚していることと、過激な発言ばかりしているってことだから。実は天才的なアーティストだということを知らないんだ。そもそも彼の名を世に知らしめた背景についてはお構いなしなんだよ」
●セレブ・カルチャーに興味がないと思ってる人たちこそ、そのカルチャーの悪しき側面に染まってるっていう好例ですよね。
ハリー「ただそれは、今の社会が個人を有名人として執拗に取り上げることしかしないのが理由なんだよね」
●じゃあ、もう少し個々の曲について訊かせて下さい。“リフレクション・オン・ザ・スクリーン”のリリックの中出てくる「Idiocracy」っていうのは、映画『26世紀青年』のことですか?
オロノ「そうです」
●じゃあ、あの映画のタイトルを引用することで何を描きたかったのか教えてください。
オロノ「まあ、映画以上にIdiocracyって言葉の響きが好きなのもあるんですけど。そもそも実際にはない言葉ですけど、言葉に最初にIdiot(馬鹿/間抜け)って言葉がつくから、歌詞の流れに合うかなと思って入れたんです。映画そのものの意味より、それが大きいですね」
●なるほど。実際、あの曲は、SNSにアクセスしすぎるあまり、自分の周りに馬鹿の壁を作ってしまい、外側が見えなくなってしまうことをテーマにしている部分もあるんでしょうか?
オロノ「この曲はインタヴューをやるたびに、いろんな解釈を言われるんですよね。バンドの中でも、この曲の意味はそれぞれ違うように捉えていて」
●例えば?
オロノ「エミリーが言ってたのは、『カップルが一緒にネットフリックスとかで映画を観てる、その様子のリフレクションだと思っていた』って。あと、FacebookとかのSNSに何でも投稿するカップルっているじゃないですか。で、そのカップルが別れた後の経緯を辿っている曲だとか。いろんな捉え方があるんですよ。だから、何でもいいんです」
●正解は明かしたくない?
オロノ「正解はないです。正解がないっていうのが正解。なんでもOKです」
●じゃあ、“ナイズ・マーチ”っていう曲がありますけど、マーチは3月を意味するものでもありますよね?
オロノ「今言われて気づいた(笑)。ナイっていうのは確か地震の神様の名前で、マーチはそのまま行進曲という意味でつけただけです。3月とか、全然考えてなかったです」
エミリー「いいね! 自分たちのアルバムについて、毎日新しい発見がある(笑)」
●褒められているんだか、からかわれてるんだか(笑)。ただ、あの曲には、オロノの日本に対するアンビバレントな気持ちが出てる部分もあると思いますか?
オロノ「出てると思います?」
●出てる気がします。
オロノ「じゃあ、出てるんじゃないですか」
●ということにしておきましょうか(笑)。
オロノ「ただ実際は、そういう考えで作ったわけじゃなくて。あの曲はもともとは東京じゃなくて、ニュージーランドのウェリントンの話だったんですよ。メンバー全員、以前は地震が多いところに住んでたから、『地震って怖いよね』って話を軽くしていたら、あの曲が生まれたんです」
●なるほど。
オロノ「でも、地震だけの話じゃなくて。今、みんなこうやって普通に生活しているけど、隕石が衝突したり、大地震が起きたりする可能性だってあるわけじゃないですか。そう考えると、すごく怖い世界なんですよね。なのに、みんなスマホを見ながら普通に、『ちょっと今日、渋谷行ってきたんだ』みたいな感じで生活をしてる。それが面白いなと思って。だから、これも観察しているような曲ですね」
●じゃあ、時間もなくなってきたので、すごくざっくりとした質問です。カニエとジェイ・Zが『ウォッチ・ザ・スローン』を作った辺りから現在のブルーノ・マーズに至るまで、ラグジュアリーな価値観を称揚するポップ・ソングの系譜ってありますよね。でも、一方で、数年前にニュージーランドの田舎から出てきた10代のロードが「ラグジュアリーじゃなくてもいい、ロイヤルであればいいんだ」というカウンター的な価値観を提示した。こうした状況を踏まえた上で、「今、スーパーオーガニズムがオファーしている価値観とは何か?」と訊かれたらどう答えます?
ハリー「特にジェイ・Zに言えることだけど、ヒップホップの多くが富を美化するのは彼らが貧しい出自だからだよね。でも、ロードが育った街はニュージーランドの中でも裕福な地域なんだよ。だからこそ、彼女はそういうラグジュアリーな価値観に反論出来た。余裕があるからね。そういう観点で見てみると面白いと思う」
●確かに。
ハリー「僕からすると、富を美化することを一概に批判することには躊躇してしまうんだ。だって、彼らはどんな逆境にもめげることなく、それをやっと手に入れたわけだからね。答えになっているかはわからないけど、僕の見解はそういうこと」
エミリー「そう、金持ちになるのは咎められることじゃないよ。僕だって今の窮屈な家から出られるだけのお金は手に入れたいと思うしね(笑)。だから、よりいい生活がしたいと思うこと自体は少しも悪いとは思わない。少なくとも目をしかめるようなテーマではないよね。もしかしたら、そんな風に思うのは、僕がこれまでラップを聴きすぎてきたせいかもしれないけど(笑)」
ハリー「でも、困惑するのもよくわかるんだ。だって、ロンドンにはホームレスの人たちがすごく多いんだよ。でも、その一方でロシアの大富豪がマンションを建物ごと買って、そのほとんどが空き家だったりもして。正直、こういった状況にどう対処すればいいのか、僕にはわからない。でも、少なくとも、みんなと同様に違和感を抱いてしまうよね」
●わかります。
ハリー「でも、歳を重ねるにつれ、自分なりに行き着く答えというのは、『自分に出来ることは自分の周りにいる人たちにポジティヴな影響力を与えることぐらいなんじゃないか?』ってこと。その結果として、彼らがまた彼らの周りにそれを広げていくことに尽きるんじゃないかな」
●同感です。
ハリー「正直、それくらいしか出来ることはないと思う。ただ、それを出来る最良の方法の一つがアートなんだよ。アーティストであれば、作品を通して人に影響を与えることが出来る。今の社会に対して疑問を持つことや、自分の明るい未来のために自分なりの答えを見出すことを促すしかない。でも、社会に幸せな人が増えるほど、幸せな社会になって行くはずだからね」
オロノ「(ハリーに向かって)すごくいい話だった」
●じゃあ、最後はゲーム的な質問です。スーパーオーガニズムを説明するのに不可欠な3組の作家を挙げてもらえますか。自分たちにとって重要な作家を三角形の3つの角に置いて、その真ん中にスーパーオーガニズムがいるとしっくりくるような。事前に俺も回答を用意してきたので、後で答え合わせをさせて欲しいんだけど。
ハリー「OK」
オロノ「まずはカニエ(・ウェスト)」
ハリー「カニエはありだね」
エミリー「チームで楽曲制作するっていうモダン・ポップの側面を象徴する意味で、まずはカニエだね」
ハリー「あとは、やっぱりロバート・クラムなんじゃないの? ダイレクトに影響を受けているし。さっきも言ったように、彼はアウトサイダーとしての観点で作品に社会を映し出してて、それがメインストリームにもクロスオーヴァーしているから」
エミリー「あと一人は王道な人がいいんじゃない? 例えば、ポール・マッカートニーとか」
ハリー「そうだね、ビートルズとか。その3組でいいんじゃない? モダン・ポップに多大な影響を与えているっていう意味では、マックス・マーティンも考えたんだけど。チームでポップ・スターの楽曲制作を請け負うっていう」
エミリー「でも、それは既にカニエでカヴァーしているからね」
ハリー「そうだね。だったら、カニエ・ウェスト、ロバート・クラム、ビートルズで行こう」
エミリー「なかなかいいんじゃない? そっちの予想はどうだったの?」
●1組は当たっていました。カニエ・ウェスト。で、2組目はペイヴメント。
ハリー「なるほど」
エミリー「いいね」
●3つ目はちょっとエクストリームなんだけど、英国のアナーコ・パンクの代表バンド、クラスです。
オロノ「うわぁ、いいかも!」
エミリー「クラスのことは、ジェフリー・ルイスのカヴァー・アルバム(『12・クラス・ソングス』)で知ったよ」
オロノ「私も!」
オロノ「(二人に向かって)ジェフリー・ルイスにギャビン・マッキンズっていう保守派のジャーナリストがインタヴューした動画を見たんだけど。二人で政治の話を議論し合うんだけど、実は二人ともクラスの大ファンで。気づいたら15分くらいずっとクラスの話をしてるっていう(笑)」
ハリー「絶対にそれ見なきゃ(笑)」
●普通に考えたら、絶対に話が合うはずないのにね(笑)。
エミリー「僕自身はクラスの音楽は聴いたことがないんだけど、すごくワイルドなバンドだって聞いてるし、彼らも共同生活をしたり、DIY精神を持っているんだよね。だから、君がクラスの名前を挙げてくれたのはすごく嬉しいよ」
オロノ「すごくクール!」