SIGN OF THE DAY

2016年 年間ベスト・アルバム
21位~30位
by all the staff and contributing writers December 24, 2016
2016年 年間ベスト・アルバム<br />
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30. Rae Sremmurd ‎/ SremmLife 2

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“ノー・フレックス・ゾーン”や“ノー・タイプ”などのヒット・シングルでも知られるアトランタ出身の兄弟デュオ、レイ・シュリマー(ちなみに難解な読みのこのチーム名、彼らが所属するレーベルの名、〈EarDrummers〉を逆にスペルしたもの)。今作も、地元のパーティーOGであるリル・ジョンとヒットメイカー、DJマスタードを迎えたシングル“セット・ザ・ルーフ”でクラブ・ヒットを狙ったわけだが、とにもかくにもグッチ・メインを迎えた“ブラック・ビートルズ”の大ヒットを誰が予想していただろうか。あのヒラリー・クリントンも挑んだ「マネキン・チャレンジ」のテーマ曲として世界中に広まり、彼らの知名度も桁外れに。彼らの面倒見役兼メイン・プロデューサーのマイク・ウィル・メイド・イットと、メンバーのスウェイ・リーのコンビは、ビヨンセ“フォーメーション”にもプロデューサー&ソングライターとして参加して好相性っぷりを見せたこともあり、今後、更なる飛躍が出来そうだ。(渡辺志保)







29. Whitney / Light Upon the Lake

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スミス・ウェスタンズの解散から2年。今年はそのフロントマンだったカレン・オーモリがソロ・デビュー作をリリースしているが、それは失ったバンドへの未練を悟らずにはいられない、すこしばかり悲痛な作品でもあった。一方、奇しくもそのオーモリとほぼ同時期に初作を発表したのが、同じく元スミス・ウェスタンズのドラマーとギタリストによって結成されたホイットニーだ。ザ・バンドのリヴォン・ヘルムさながらのドラム・ヴォーカルを中心とし、ブラス奏者とサウンド・エンジニアを含む7人編成がここで繰り広げるのは、いまだに忘れられぬ恋人への想いを綴った、ほろ苦いカントリー・ソウル。そのレイドバックした演奏と、か細いファルセット・ヴォイスは絶賛をもって迎えられ、結果として本作はこの一年の北米インディにおける最良の一枚となった。ちなみに、このアルバムをプロデュースしたのは、年明けに新作のリリースを控えている、フォクシジェンのジョナサン・ラドー。本作を手がけたことに加え、あのレモン・ツイッグスもフックアップした彼は、間違いなく2017年のキー・パーソンとなるだろう。(渡辺裕也)







28. Jenny Hval / Blood Bitch

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なぜ人は血を恐れ、血に惹かれるのか? スワンズのソー・ハリスも参加した前作『アポカリプス、ガール』に、イングマール・ベルイマン監督の映画『仮面/ペルソナ』に登場する女性キャラクター2人の名前をクレジットしていたノルウェーの女性作家兼ミュージシャン、ジェニー・ヴァル。その『仮面/ペルソナ』のワン・シーンを思わせるカヴァー・フォトに包まれた本作では、「女吸血鬼」をモチーフに、ポエトリー・リーディングやフィールド・レコーディング、アンビエント・ノイズ、(あのaikoもハマっているという)ASMRなどを駆使して、脳がとろけるような、官能的な音世界を作り出している。ここで扱われている題材は「血」、とりわけ「月経」であり、人によっては不快感を抱くかもしれないが、それは「すべての処女と売春婦、母親、魔女、夢追い人、恋人を結びつけるものである」という主張のもとに女性たちに連帯を呼びかけ、手をさしのべる。血まみれの腕に抱かれているような傑作だ。(清水祐也)







27. Jamila Woods / Heavn

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今年、世界有数の良質なポップ・ミュージックの産地だったのは、間違いなくシカゴのヒップホップ/R&Bシーンだろう。同地からは、チャンス・ザ・ラッパーを筆頭に、彼の周辺に集う数多の才能が充実のフル・レングス作品を次々と届けてくれた。その中でも、ジャミーラ・ウッズの『ヘヴン』は、ノーネイムの『テレフォン』と並んで、殺人発生率全米トップの街シカゴの厳しい現実を、さらに厳しい立場に置かれた女性の視点から描き切った一枚だ。言葉の面では、奴隷解放や公民権運動に尽力した女性活動家たちの名前を引用した“ブラック・ガール・ソルジャー”等の楽曲に顕著なように、根強い偏見と抑圧に抵抗する黒人女性のエンパワーメントが全体を貫く大きなテーマに。ただ、プロテスト・ソングの体であったとしても、彼女の音楽は常に洒脱な感覚を損なわず、その鼻に抜けるような歌声からは常に慈しみと喜びが溢れ出している。チャノやノーネイムらシカゴの同胞の諸作だけでなく、ソランジュやビヨンセの最新作とも並べて聴けば、今のアメリカにおける黒人女性の問題意識と、彼女たちが持つ知性や強さがより一層伝わってくるはずだ。(青山晃大)







26. Seiho / Collapse

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時間と空間を肌理細やかに彫刻し、色鮮やかな音色で染め上げていくようなサウンドから漂う、この妖しく奇形的な美しさは唯一無二だ。多様なテクスチャーと人を食ったようなユーモア、複雑に編み上げられた抽象構造からマーク・フェルを連想させられもするが、ニュー・エイジ的なサンプリング・センスからはジャイアント・クロウなどのヴェイパー・ウェイヴ勢を思わせる部分もある。そうかと思えば、現代ジャズやトラップ的な要素まで混入しており、これほどまでにクロスオーヴァーで、かつ大胆なエディット・センスには驚きを隠せない。一つの文脈に囚われることのない、参照点をいかようにも解釈しうるこのサウンドは、YoutubeやApple Musicであらゆる音楽を自在に、そしてテキトーに聴くことができる時代だからこその生々しさを持って響く。ある音源に飽きてきたら、それが終わらぬうちにワン・クリックで別の音源に移る、その唐突さが本作のサウンド・デザインの基盤となっているように聴こえる。ヴェイパー・ウェイヴは過去のある時代についてのサンプリング表現だったが、本作は現代の音楽を、そのリスニング・スタイルまで含めてサンプリングしたアート作品なのだ。(八木晧平)







25. Travis Scott / Birds In The Trap Sing McKnight

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表題にあるマクナイト(R&Bシンガーのブライアン・マクナイトのことだろう)とシングの間にライクを挿入して、囚われた(イン・ザ・トラップ)鳥(バーズ)が囀るさまを想像してみる。ただ、トラップ(ドラッグ売買関係)とあれば、バードは、コカインの隠語では? との連想も働くわけで、“ビーブス・イン・ザ・トラップ”等そのままの内容の曲もある。が、この二作目でトラヴィス・スコットが力を入れているのは、やや雑多な主題が並ぶ前半より、後半で統一感を見せる女性関係についてだろう。実際、そこではキャシー、ブライアン・ティラー等のシンガーの起用に加え、スコット自らが歌う場面さえ設け、今回はドラッグ(による酩酊を含む)よりも、気持ちの上でも、愛について歌い続けるマクナイト側に寄せているのは間違いない。それを、ジェイムス・ブレイク参加の1曲目のイントロをエヴィアン・クライスト制作、インタールードでウォッシュト・アウトの“ユー・アンド・アイ”を、ラストでティナーシェイの“イン・ザ・ミーンタイム”をそれぞれサンプル、とアンビエント/アトモスフェリックなサウンドで全体を包んでいる(のだが、なぜか客演者に花を持たせ過ぎ)。(小林雅明)






24. Angel Olsen / My Woman

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2015年はジュリア・ホルターを始め女性のエレクトロニック・アーティストがキャリア・ハイを更新する作品を多く手にした年だったが、今年に関しては女性の「シンガー・ソングライター」について同様の成果を認めることができるだろう。なかでも筆頭が、このデビュー7年目の彼女。ボニー“プリンス”ビリーやジョーン・オブ・アーク周辺でキャリアの足がかりを築いた、そのフォーキーでトラッドな弾き語りに軸が置かれたかつての作風は、この4作目において音楽性の幅を大きく広げている。シンセやメロトロンなど電子楽器を飾りにしてメインストリームのフィーメイル・シンガーと渡り合う場面も垣間見せる華やかさは、前作のジョン・コングルトンに代わり、スカイ・フェレイラやチャーリーXCXを手がけるプロデューサーが新たに起用されたことからも推して知るべし。同じく今年大きく株を上げたワイズ・ブラッドしかり、いわゆるフォーク音楽の作法を押さえつつも、言うなればポップ音楽との距離感やそこでの駆け引きを落とし込んでいく微妙な按配こそ、彼女たちの目覚ましい作品に見られる特徴、かもしれない。(天井潤之介)







23. Iggy Pop / Post Pop Depression

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イギー・ポップがステージ上のアクションだけではなく、新しい作品の表現者としても重要なアーティストであることを70歳手前にして証明した、円熟の名作。思えば、21世紀に入ってストゥージズを再始動したくらいの時期からだったか、イギーは、その激烈なライヴ・パフォーマンスが評判となっているうちに、肝心な作品は一本調子で今ひとつなものが続いていた。それはステージでの本人のパロディのようにも聴こえていたし、たまのスタンダードやシャンソンによる打開策もあまりに極端だった。だが、そんな状態をジョッシュ・ホーミが全て解決した。彼はイギーの、いまだにフォロワーの現れない類い稀な「パンク・クルーナー」としての本質を復活させ、その魅惑の低音美声に合わせた新たなロックンロール・グルーヴを創出した。77年の名作『ロウ』を、デジタルではなくアナログで、楽器各パートの全てを研ぎすまして再構築したような新たな世界。それはイギーを復活させたに留まらず、行き詰まりがちな現在のロックンロールの方向性そのものに指針を与えている。(沢田太陽)







22. Danny Brown / Atrocity Exhibition

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ジャスティン・ビーバー“ソーリー”やリアーナ“ワーク”、ドレイク“コントローラ”を筆頭に、昨今のUSメインストリームにおけるR&Bやヒップホップから、ダンスホール・サウンドを取り入れた楽曲がいくつも輩出されたことは、さまざまなところで指摘されている。それは、マッシヴなミニマリズムを基調としたシーンにおける、新たなバリエーションの一例でもある。フォルムとしてのミニマリズムがより加速している状況というわけだ。そんなシーンへのオルタナティヴとして本作を聴くのはなかなか面白いかもしれない。〈ワープ〉からリリースされた本作の白眉は、かねてから彼が影響を口にしているポストパンク――本作は特にトーキング・ヘッズのニュアンスが強い――の要素でコーティングされた、豊富な情報量を持つトラックだ。それは強烈なホーン・ループがレイヤリングされている“エイント・イット・ファニー”やケレラをフィーチャーした“ダンス・イン・ザ・ウォーター”等に顕著だ。また、TDEのレジデント・エンジニアのミックスド・バイ・アリが手掛ける、どこかラフにすら聴こえるミックスも、先述したオルタナティヴ性を司っているにちがいない。(八木晧平)







21. King / We Are King

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全曲聴き終える前に、これが優れたR&Bアルバムであるのを実感できると同時に、ここでの全体的なサウンド・プロダクションというのが、実はカギカッコ付きのR&Bのそれではなく、例えば、コクトー・ツインズの『フォーカレンダーカフェ』(1993)とシャッフルして聴いても、互いの良さを引き出せるようなものであることに、大いに耳を惹かれた。このキングは、パリスとアンバーのストラザー姉妹とアニタ・ビアスの女性三人組で、二人がヴォーカル。キーボードをメインに、ギター以外の全ての楽器を担当したというプロデュース担当のパリスは、実際に(調べてみると)、コクトー・ツインズは勿論坂本龍一の愛聴者であり、本作では、特にヴォーカル以外のサウンドの残響の緻密な処理にかなりこだわりを見せている。ここでは、アンビエントが、雰囲気だけのものでもなければ、ただの借り物でもなく、それでいて、ナマなヴォーカルが活かされていて(ヴォーカルを下手に加工していない!)、「オーガニックなアンビエントR&B」の見事な成功例を聴くことができる。(小林雅明)







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11位~20位


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