どう考えても、ジェイク・バグに続くロックンロールの若きヒーローは彼でしょう。と、思わず飛ばし過ぎたことも書きたくなる。アメリカはニュー・オリンズからやってきたライジング・スター、ベンジャミン・ブッカーの爆裂ブルーズ・パンクに打ちのめされてしまうと。少なくとも、ストライプスのようなお子ちゃまでは足元にも及ばない。論より証拠。まずは聴いてみてほしい。デビュー・シングルの“ヴァイオレント・シヴァー”だけでも、彼が只者ではないことがわかるはずだ。
チャック・ベリーかシスター・ロゼッタ・サープかという軽快でご機嫌なリフ。敬愛する盲目のブルーズ・マン、ブラインド・ウィリー・ジョンソン譲りのパワフルなダミ声。戦前のブルーズや50年代ロックンロールを主な参照点にしながらも、パンキッシュなスピード感と衝動性、そして現代的なミニマリズムを当たり前のように宿したサウンドは、凡百の新人バンドとは比べものにならない。今年7月にアップしていたこちらの記事で、『サイン・マガジン』が早くも彼のことを騒ぎ立てていたのも無理はないだろう。
勿論、ブッカーに熱狂したのは我々だけではない。ほとんどデモ音源に近い5曲入りのEP『ウェイティング・ワンズ』がきっかけとなったのか、イギリスでは〈ラフ・トレード〉、アメリカでは〈ATO〉が契約を締結。そして、“ヴァイオレント・シヴァー”が正式なデビュー・シングルとしてリリースされるや否や、アメリカの人気番組『レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン』に出演が決定してしまったのである。
今年7月には、ジャック・ホワイトの全米ツアーのサポート・アクトにも大抜擢。ブルーズやロックンロールのモダナイズに心血を注ぐジャックに目を掛けられたのは、その文脈を継ぐブッカーにとってこれ以上ないほど嬉しいお墨付きだと言える。実際、ジャックはブッカーの音楽的ヒーローの一人であるそうだ。
残念ながら、このツアー時のブッカーのライヴ映像が見つからなかったので、代わりに(と言ってはなんだが)同ツアーでのジャックのパフォーマンスを貼っておこう。この2組が一緒に観られるなんて、なんて贅沢なツアー!
そして、ジャックとのツアー翌月には早くも届けられた1stアルバム『ベンジャミン・ブッカー』。ここには、なんとも痛快で小気味よいブルーズ・パンクが満載である。やや乱暴に位置づければ、ジェイク・バグがアメリカ南部の空気をたっぷりと胸に吸い込んだ感じ。といったところか。
60年代のロックンロール・バンドよろしく、わずか6日間で一気にレコーディングされただけあって、サウンドは粗削りで勢い重視。だが、それがデビュー作らしい衝動的な魅力に上手く転化されている。“ヴァイオレント・シヴァー”を筆頭に、“ハヴ・ユー・シーン・マイ・サン?”や“ウィックド・ウォーターズ”など、前のめりに転がっていくタイプのロックンロールは、もう完全にお手の物だ。
一方、ロバート・ジョンソンを入り口にブルーズの世界にも深く分け入っただけあって、“スロウ・カミング”や“バイ・ザ・イヴニング”といった、よりブルージーで渋味を効かせたトラックも幾つか見受けられる。が、そのような曲でも最後には抑えきれないエナジーの爆発が刻まれているのは、処女作らしい微笑ましさかもしれない。
粗削りだけどポテンシャルの塊。もしかしたら大器の予感。『ベンジャミン・ブッカー』はそんなアルバムである。なので、日本ではなんとなくスルーされつつあるのは、正直勿体ない。もっと騒がれてもいいのに。と感じているのだが、さてどうだろうか? 近々レヴューもアップする予定なので、そちらの評者達の意見も参考にしつつ、ぜひあなたの耳で確かめてほしい。