SIGN OF THE DAY

ガール・バンドこそが、間違いなく「今」!
彼らの何がどう最高で、どこが今なのか?
徹底的に解説します。part.2 by天井潤之介
by JUNNOSUKE AMAI October 06, 2015
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ガール・バンドこそが、間違いなく「今」!<br />
彼らの何がどう最高で、どこが今なのか?<br />
徹底的に解説します。part.2 by天井潤之介

〈ポッシュ・アイソレーション〉のコンピレーション・アルバム『ドクメント #1』は、2010年代の『ノー・ニュー・ヨーク』である。と、以前にアイスエイジのアルバム・レヴューで書いた。補足すると、ノーウェイヴの末裔に属することを自覚していた2000年代初頭のブルックリン勢を彷彿させる、という内容だったのだが、しかし実際、〈PI〉とその地元コペンハーゲンのアンダーグラウンド・シーンにおいて、ノーウェイヴはスロッビング・グリッスルやコイルと共に音楽的指標として共感を寄せる対象だった、と聞く。

Salon:Pissoir / Dokument#1


だが、〈PI〉並びにコペンハーゲンのアンダーグラウンド・シーンでの出来事は、あくまで状況の一端に過ぎない。『ドクメント #1』が伝える音楽傾向――ハードコア、インダストリアル、ポストパンク、ノイズ、ドローン、ゴシック等々は、目下、方々に散らばる新たな担い手たちによってリプレゼントされ、リニューアルされ続けている。その顔ぶれは、先のコラムで紹介されたリストに付け加えるなら、モントリオールのオウトやテキサスのインスティチュート、メルボルンのトータル・コントロール、ベルリンのデイエート、ブリスベンのキュアード・ピンク、コペンハーゲンに次ぐデンマーク第二の都市オーフスのユング、北アイルランドの首府ベルファストのガールズ・ネームス、といったあたりが目ぼしいところか。勿論、本稿の主役であるガール・バンドもそこには含まれる。

Girl Band / Live on KEXP (Full Performance)

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Ought / Sun's Coming Down

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Cured Pink / (I'm) Swimming


この若き硬音/騒音主義者たちの存在は、ざっくりと2000年代の折り返しあたりから直近までのディケイドにおける音楽傾向とのコントラストやギャップによって際立たされている。乱暴に言ってしまえば、一つに「サイケデリック」というワードにも集約された「インディ・ロック/ギター・ロック」のモードや気分――すなわち、装飾過多なテクスチャー、アマルガムな折衷主義、あるいはハーモニーや甘ったるいリヴァーブに対して、はっきりとカウンターの立場にあるサウンドのデザイン――意図された空白、モノクロームのミニマリズム、さらには不協和音と冷たいホワイト・ノイズが選び取られている。

こうしたサウンドそのもの自体は、取り立てて目新しいわけではない。例のブルックリン勢も含まれた2000年代前半のポストパンクやニューウェイヴのリヴァイヴァルがそうだったように、現在のそれらもまた、音の端々に往時のアイコン――ジョイ・ディヴィジョン、TG、ワイアー、キャバレー・ヴォルテール、クローム、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、フリッパー等の記憶を反芻させる。それは、本稿の主役であるガール・バンドもしかり。ザ・フォール、バースデイ・パーティ、ジェームス・チャンス&ザ・コントーションズ等、そのルーツや参照源を自ら詳らかにすることに躊躇いはない。

The Fall / Rowche Rumble (live)

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Throbbing Gristle / discipline

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とはいえ、このガール・バンドについて、2010年代/2015年現在ならではの傾向や特異性をそこに敢えて指摘するとするならば、それは、現行のアンダーグラウンドなダンス・ミュージック~広義のエレクトロニック・ミュージックが示す潮流との共振、だろうか。その硬く振り下ろされるリフ、掻き毟った無調のギター、突き刺すようなノイズと無慈悲な(モータリックな)ビートは、例えばプルリエントのエレクトロ・メタル、ピート・スワンソンのけたたましいディストーション、カット・ハンズやグノドの物騒なパーカッション、アンディ・ストットやレイムの律動するヘヴィネス、あるいは〈トリロジー・テープス〉や〈L.I.E.S.〉が送り出すロウ・ハウス周辺にも通じるインダストリアルやミニマルの感覚を滲ませて聴こえる。

Prurient / Dragonflies To Sew You Up

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そうしたクロスオーヴァーという観点からすれば、TGと別プロジェクトも組む同国のファクトリー・フロアと(デザインは異なるがメソッドにおいて)ガール・バンドは並べることもできるかもしれない。

Factory Floor / Live on KEXP (Full Performance)

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それはそうと、ドラムのアダム・フォークナーが語ったところによれば、バンドにはデビューに際して〈ラフ・トレード〉と共に〈サブ・ポップ〉からも契約のオファーがあったという。彼らの盟友メッツのホームでもある縁から来た話だったのかもしれないが、実際のところ、初期のニルヴァーナやジーザス・リザードも度々引き合いに出されるそのサウンドは、そのまま〈サブ・ポップ〉や〈タッチ・アンド・ゴー〉あたりのカタログに「アメリカのバンド」として紛れ込まされてもまったく遜色がない代物だろう。

少なくとも、昨今の「UKインディ・ロック」と呼ばれる類いの流通イメージからは規格外。かつ、例えばクラウド・ナッシングスやウェーヴス以来続く、「USインディ・ロック」における90年代リヴァイヴァル~ポスト・グランジとも一線を画す。90年代のグランジの意義について、パンクが否定した1977年以前のロック、つまりハード・ロックやヘヴィ・メタルの記憶を掘り起こしたところ、と語ったのは元ソニック・ユースのサーストン・ムーアだったが、そういう点では、ガール・バンドの硬音/騒音が想起させるのはむしろ、ジャンクの流れを汲むポスト・ハードコアやノーウェイヴのミニマリストを含むUSアンダーグラウンド、かもしれない。

Big Black / live at CBGB July 1986

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Glenn Branca / Dissonance

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「なぜ、今、ガール・バンドなのか?」。これまでの話を振り返れば、ガール・バンドに感じる「今」というのも、そもそもは〈ポッシュ・アイソレーション〉の『ドクメント #1』に抱いた直観と似たようなものに過ぎない。ガール・バンドだけが突出した存在というわけではない。あくまで、「今」を印象づける象徴の一つ。そして、その「今」には、これまで数多の「今」がそうだったように、過去や歴史の濃密な反響を聴くことが出来る。ただ、2010年代を迎えて半分が過ぎ、にもかかわらず、2000年代の余韻を引き摺るように代り映えしない顔ぶれがまだまだ大手を振る、こと「インディ・ロック/ギター・ロック」において、2015年現在、いいかげん新たなディケイドを待ち望んでいた気分にガール・バンドは、とてもフィットする。




「ガール・バンドこそが、間違いなく『今』!
彼らの何がどう最高で、どこが今なのか?
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