2016年はホント最高です。リアーナ、カニエ・ウェストとビッグ・リリースが続いただけでなく、いろんなジャンルがとにかくざわついている。ここ日本でも、そもそも多様なプレイヤーが出揃った感のあった日本語ラップ周辺がTV番組『フリースタイル・ダンジョン』の影響もあって、とてつもなくざわめいている。
こうした状況の中、昨年末に〈サインマグ〉が上梓した、2015年の年間ベストのチャートを改めて振り返る時、もはや昨年2015年というのは、いろんな大輪の花びらが芽吹く直前の、もっとも草木が滋養をため込む雪解けの季節だったのかもしれないという思いを強くするわけです。
2015年
年間ベスト・アルバム 50
年明けには、デヴィッド・ボウイが逝くというポップにおけるあまりにも大きな損失があったものの、2016年初頭からの新旧作家の奮闘ぶり、全世界的な音楽シーンの充実ぶりは、偶然とは言え、どこか残された者たちが奮起したかのような印象さえある。
黒い巨星、デヴィッド・ボウイ亡き今、
圧倒的に「イギーが足りない!」2016年の
ポップ・シーンについて考えてみました
そして、ボウイが亡くなる直前まで、欧米における年明けの数多のリリース作品の中でも、もっとも評価と盛り上がりを見せていたのはデヴィッド・ボウイの『★』ではなく、むしろハインズの1stアルバムだったという事実。ここが本稿の出発点です。
それにしても、何故、ポップ音楽の辺境と言うベきスペインのマドリードからハインズは現れたのか? ハインズが発見され、それが世界的に一気に広がった背景とは何なのか? という流れで本稿はさくさくと進みたいと思います。
同じスペインの二大都市のひとつ、カタルーニャ地方にあるバルセロナの場合、数あるヨーロッパの音楽フェスティヴァルの中でもその先鋭的なラインナップで知られる〈ソナー〉の存在が象徴しているように、かの地にはエレクトロニクス・ミュージックの基盤がある。また昨年、〈キャプチャード・トラックス〉が契約したことで一躍話題を集めた10代バンド、モーンもまたバルセロナの出身。
同じスペインでも根深い民族問題を抱えるバスク地方の場合、社会的なメッセージを持ち、民族音楽とパンク、ハード・ロックを組み合わせたバンドが数多くいることは、〈フジ・ロック〉のリピーターなら、より知るところでしょう。ただ、これまでポップ史にはスペインの首都でもあるマドリードという地名はほとんど登場することがなかった。
これまで何度かマドリードという地に降り立った時の実感というかなり眉唾な観察からすると、マドリードで人気のあるポップ音楽と言えば、ハード・ロックとパンク、ガレージ。一度ならず二度、三度も、乗り合わせたタクシーの運転手から、スペインの民族音楽とメタルを組み合わせたバンドの音を聞かせられたことがあります。
閑話休題。いずれにせよ、ハインズが現れた背景には、スペインにはロウな手触りを持ったガレージやパンクの土壌があり、彼女たちが世界的な注目を集めた背景には、前述のモーンと契約した〈キャプチャード・トラックス〉や〈バーガー・レコード〉が牽引する今日的なトレンドが関係しているということ。という具合に本稿は舵を切ります。そして、勿論、その背景には、北米を中心としたポップ・シーン全体の地殻変動がある。
脱インディ? 水増しされたポップの隆盛?
そんな時代の分岐点における「第三の道」を
象徴するアルバート・ハモンドJr.新作
バンド音楽なんてもう死んだでしょ?!
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2016年期待の新人バンド6組をご紹介
上記のリンク記事二つに付け加えるなら、ここ数年の北米シーンにおけるもうひとつの大きなトレンドは、やはり〈バーガー・レコード〉周辺バンドの存在。ブラック・リップスしろ、ウィーザーのブライアン・ベルのバンド、ザ・リレーションシップにしろ、彼ら周辺バンドのサウンドの方向性はおよそ一言で要約出来るわけです。シンプルで生々しいローファイ・ガレージ。ここはメモるところです。
個々のバンドに関しては、それぞれパンク、パワー・ポップ、あるいは、カーティス・ハーディングのようにソウル寄りの音楽性を持ってはいるものの、シンプルで、生々しいローファイ・ガレージであることには変わりはない。実際、ハインズが世界中から脚光を浴びたのも、まさにそうした潮流と関係があるわけです。
つまり、本稿の主人公ハインズにしろ、今や〈キャプチャード・トラックス〉の看板作家のひとりでもあるマック・デマルコにしろ、〈バーガー・レコード〉からもリリースしているここ日本のボーイズ・エイジにしろ、ロウで、ローファイなバンドが世界中で注目を集めているのは、ここ10年、どこか複雑で、高度になりすぎたきらいのある北米インディ音楽に対する振り戻し現象だということ。乱暴に言うなら。
ポップ・ミュージックは世界が舞台。そんな
当たり前の話をごく当たり前に実践し始めた
このニッポンで生まれたアクト6組をご紹介
よって、正直、ハインズの1stアルバム『リーヴ・ミー・アローン』について、いろんな角度から音楽的に説明しようとしてもあまり意味がない。ざっくりと、今風のローファイなロックンロールだな!こりゃ、たまらんな!という話で済むわけです。以下の日本の記事でも、とにかくいろんな角度から彼女たちを見ようとしてはいるんですけど。
バンド音楽なんてもう死んだでしょ?!
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2016年期待の新人バンド6組をご紹介
シーンを転覆させる救世主のいない時代に
マドリード出身の女子4人組ハインズが
全世界から注目されている理由、教えます
しかし、極論すれば、こうした時代的な流れの中、彼女たちが奏でる音楽はとにかくシンプルで、エッジがあって、かっちょいい、これだけで十分なわけです。なので、ここでは大した音楽の話はしない。フィーリングと態度について語ろう。それが以下の対話のコンセプトです。
しかも、彼女たちの場合、とにかくメンバー4人並んだ時の佇まいがこれまたかっちょいい。演奏とアンサンブルの自由さから言っても、これはまさしくリバティーンズ。話してみても、インスタグラムに上がってる写真や動画を見ても、とにかく自由。最高にロックンロールなわけです。改めて“チリ・タウン”のPV、観ときましょう。これスよ。
これで彼女たちに夢中にならないわけがない。というわけで、FaceTimeによる海を越えたインタヴューとまいりましょう。
●あなたたちの音楽における音楽的なリファレンスって、ホントたくさんありすぎて、ひとつやふたつ挙げても意味がない。ただ少し前、日本人の間では、インスタグラムの画面に9枚のアルバムや映画、人を並べて、「私を作った9枚」というハッシュタグを付けるのが流行ってたんですね。なので、まずあなたたちも9枚のアルバムをあげてもらえませんか?
カルロッタ・コシアルス(以下、カルロッタ)「オッケー」
アナ・ガルシア・ペローテ(以下、アナ)「まずは、やっぱりマック・デマルコの『2』」
カルロッタ「ストロークスの『ルーム・オン・ファイア』」
アナ「それから、フワン・ウォーターズの『ノース・アメリカン・ポエトリー』」
カルロッタ「シャノン・アンド・ザ・クラムスも! 『スリープトーク』ね」
アデ・マーティン(以下、アデ)「ファット・ホワイト・ファミリーは?」
カルロッタ「うん、ファット・ホワイト・ファミリーの『シャンパン・ホロコースト』」
アナ「で、勿論、ボブ・ディランの何か。う~ん、盤はボブ・ディランのヴェリー・ベストで(笑)」
アデ「デッド・ゴースツはどう?」
アナ「デッド・ゴースツだったら、セルフ・タイトルの『デッド・ゴースツ』ね」
アデ「(アナに向かって)これは?」
アナ「それは違うな」
アデ「じゃあ、パロッツ」
カルロッタ「パロッツ! でもまだアルバムは出してないの」
アナ「だから、パロッツが出したシングルとかEP全部」
カルロッタ「パロッツもスペインのマドリードのバンドなの」
●最後の1枚は?
アデ「アークティック・モンキーズだと思う」
アナ「アルバムで選ぶなら、『サック・イット・アンド・シー』ね」
●ありがとう。では、ここ10年代の北米中心のインディ・シーンは、スフィアン・スティーヴンスのように緻密で繊細な音楽をやっていたり、アニマル・コレクティヴのような実験性を前面に押し出したバンドがその中心にあった。ただここ数年、世界的に見ても、〈バーガー・レコード〉周辺のシンプルなガレージ・サウンドを指向するバンドや、マック・デマルコに象徴されるソングライターであり、ローファイ・プロデューサーでもある人たちが明らかに勢いを増しつつある。ハインズの場合、そういった人たちと何かしら共通のものをシェアしてるという感覚はありますか? だとすれば、何をシェアしてる?
カルロッタ「基本的にはあなたが言ったようなことね。私たちはすごくローファイなやり方で音楽を始めたから。ていうのも、サウンド・プロダクションを勉強した友達がいて、彼が最初の2曲のレコーディングを手伝ってくれたの。実際、リハーサル・ルームで全部、1日で録音したんだけど。大がかりな機材も楽器も何もなくて……」
アナ「もう、絵に描いたようなローファイ・プロダクション(笑)」
カルロッタ「ホントそう! でもその後も、私たちはそうやっていくことを選択した。そのやり方が気に入ったから」
アナ「あと、やっぱり私とカルロッタが二人で一緒に始めたことも大きいと思う。最初は2011年、二人で曲を書こうとしたんだけど、何も書けなかったの。多分、音楽を学びはじめたばかりの私たちにとっては、あの頃聴いてた音楽みたいな曲は書きようがなかったんだと思う。当時はボブ・ディランやローリング・ストーンズ、ビートルズみたいなクラシックなロックンロール・バンドを聴いてたから」
●じゃあ、一度、壁にぶつかったんだ?
アナ「そう。それでプレイするのをいったんやめて、2年後にまた始めたのよ。でも、その間にアメリカから出てきた音楽っていうのが、あなたが言ったようなものだった。彼らを発見したのが、あたしたちがもう一度やり始める最大のきっかけになったの。なんていうのかな? 『感じるままに曲を書いていいんだ!』みたいな。あとスペインのバンド、私たちと同じような若いバンドのライヴをたくさん見たことも、『自分だって曲を書いていい』みたいな気持ちにさせてくれたと思う」
●今、欧米中心のポップ・ミュージックのメインストリームは、ポップ、ヒップホップ、R&B、先ほどのインディにしろ、ウェルメイドなプロダクションが主流です。しかし、あなたたちの場合、息遣いが伝わってくるようなハンドメイド感覚のローファイ・レコードを作った。あなたたちのそうした選択の理由は? それって何かしらの反発はあった?
カルロッタ「選択ではあったけど、反発からじゃなかった。最初の曲をレコーディングした頃は、状況と選択のフィフティ・フィフティって感じだったと思う。きちんとしたプロダクションにしたくても、機材もお金も、何もなかったから。でも、そのサウンドが気に入ったのよ! 『こんなのクソ』なんて思わず、気に入ってインターネットにアップしたの。それに、その次はもっといいプロダクションにできるわけでもなかった。2ndシングルだって1日でレコーディングしたし、最初のシングルをプロデュースしてくれた人がミキシングしたし」
カルロッタ「で、その次がアルバムだったんだけど、レコーディングするのに、それまでやってきたことから離れるなんてバカだと思ったの。最初のアルバムでこのバンドのルーツから離れるなんて。だって、本質的に、1stアルバムってバンドのルーツでしょ? スタート地点で変えるなんて、バカげた決断だと思った」
アナ「私たちみんなこのサウンドにするべきだって感じてたし。あなたはハンドメイドって言ったけど、まさにこれこそ私たちの腕や、声や、足から出てるサウンドだって感じたの。すごく気に入ってたし、だからこそこのままキープしようって決めた。この時点ではそうでなきゃダメだって感じたのよ」
カルロッタ「それにアルバムを作ってる間、私たちはライヴをやることの方にずっと時間をかけてて、ある意味、そっちのほうを気にかけてた。どんなプロダクションでも、曲がよければ誰かが気づいてくれるって思ってたし。『サウンドが洗練されてなくても、いい曲なら聴いてもらえる』って」
アナ「実際、みんなで昨日話してたんだけど……来年とかにライヴ・アルバムをリリースしようって。きっと全然違うサウンドになるし、その方がずっといいかもしれない(笑)。ライヴでやると、弾き間違えたりもするんだけど、それがかえってよかったりもするの。だから、同じ曲を別のレコーディングでリリースしたら面白いんじゃないかって。少なくとも一部の人たちにとってはね(笑)」
●今って、サウンドクラウド上のタグ付けでなくとも、誰もがきちんと自分の耳で確かめてみることなしに、安易なイメージで気軽にタグ付けして、意識のフォルダのどこかに放り込んで、わかってような気分になってしまう時代ですよね。でも、我々ならハインズのことをシンプルにロックンロールと呼びたい。ただ、もしあなたたちが自分にどうしてもタグをつけなければならないとしたら、何というタグをつけますか?
カルロッタ「多分、まずは“マドリード”。マドリードを愛してるし、私たちが音楽をやるスタイルは本当に本当に本当にマドリード出身だからなの。それから“ローファイ”のタグも付けるな。それはやっぱり必要だと思う」
アナ「あとは“ラヴ”。“太陽”。それから……」
カルロッタ「“ビール”(笑)。で、“ロックンロール”かな」
●じゃあ、『ジャップロックサンプラー』という60~70年代の日本のロックについての本を書いたポストパンク時代の偉大な作家のひとりジュリアン・コープは、「ロックンロールは帰る場所を持たないすべての人間についてのホームだからこそ、世界中のどんな人間でもアクセス出来る」と語っています。あるいは、アメリカ人が無鉄砲なことをやらかそうとする時に「ロックンロール!」と叫んだりしますよね。ただあなたからすると、ロックンロールというのは、何を意味する言葉なんでしょうか?
アナ「私たちにとってはライフスタイルだと思う。例えば、何かをするべきかしないべきか、迷ってるような時。それがリスキーなことだったりすると、自分の中の迷いを全部振り払って、『ロックンロール、やっちゃおうよ!』って言うんじゃないかな。それにそれって大抵、やるべきことなんだよね」
●それがロックンロールのアティチュードで、フィーリング?
カルロッタ「そう。あと私にとってロックンロールは、すごく“自由”と繋がってる。パッションを持って自分の人生を生きること。そして、なんでもやれる自由を感じること。『愛するものがあるなら、それをやらなきゃ』っていう。それをやる自由を気持ちの中に持つことね」
●じゃあ、サウンドとしては?
カルロッタ「うーん……どうかな……」
アナ「わかんないな」
カルロッタ「まあ、私たちがロックンロールって呼ぶものはコードを基本にしてると思う。ほら、コードが同じ曲ってあるでしょ? でも、コード進行がまったく同じでも、それで何百曲だって作れる。そこには自由があるのよ。例えば、プロダクションとしては、ローリング・ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”なんて、クレイジーなくらいビッグなプロダクションじゃない? でも、同時に、テープに録音したようなプロダクションのロックンロールもあるし。どれもロックンロールなのよ」
アナ「私が思うのは、どんなにすごいプロダクションでも、やっぱりライヴでその曲を証明しないといけないんじゃないかな。わかる? レコードでものすごくいいロックンロールに聞こえてたとしても、ライヴではその曲が本物のロックンロールか、それとも単にプロデュースが巧みだったのかがわかる。でしょ? だからこそ、ライヴではそのために戦って、ロックンロールだってことを見せなきゃいけないのよ」
●じゃあ、インディは? ここ10年は、前述の北米インディ・アーティストの大半は、何かしらレディオヘッドが10年間やってきたことのリアクションだったと思うし。ただあなたたちにとっては、何をイメージさせる言葉なんでしょう?
カルロッタ「今のインディ・ミュージックってちょっと変な感じじゃないかな。始まった頃って、もっと……どういうのだっけ? クークスとか」
アナ「ウォンバッツとか(笑)」
カルロッタ「あと、カイザー・チーフスとか。そういうバンドで始まった、ちょっとしたブームだった気がする。私たちからすると、そういうバンドに使われてた言葉だったのよね。でも、今はインディがカテゴリーになって、私たちもそこに入れられてて。“オルタナティヴ”のときもそうだったんじゃないかな」
●つまり、自分たちはインディだとは思わない?
カルロッタ「そう」
アナ「音楽的なタームとしては、私たちはインディだとは思わない。ただ一般的に、インディっていうとアンダーグラウンドだとか、もっとパンク的なものを連想したりもするでしょ? 巨大な業界とかに依存しないっていう」
カルロッタ「インディペンデントって言葉自体、そこから出てきたんだし」
アナ「そう。その意味では、私たちのバンドはインディペンデントだと思うし、自由だって感じてる。音楽業界のコントロールから完全に自由だって。ただ音楽的には、カイザー・チーフスとか、ヴァンパイア・ウィークエンドみたいなバンドと繋がってる気はしないな。“インディ”っていう言葉が使われだしたようなバンドにはね」
●スチュワート・サトクリフがいた初期ビートルズの時代から、最高のロックンロール・バンドというのは必ずしも全員がポール・マッカートニーのような優秀なミュージシャンの集まりである必要はなくて、むしろ気の置けないギャング仲間であることの方が重要だったりしますよね。ただ、バンドというのは、非常にフラジャイルで、面倒なものです。例えば、ブラック・リップスはステージ上でもオフでもすぐに喧嘩を始めて、その後、泣きながら抱きあっていたりする。
カルロッタ「うん(笑)」
●今のようにコンピューターを使って、ひとりで音楽を作れてしまう時代に、あなたたちがわざわざバンドという形態を選んだ一番の理由は何なんでしょう?
アナ「それはやっぱり、その前から友達だったから(笑)。それぞれが別々に『バンドやりたい』って思ってたわけじゃなくて、もともと友達で、突然その友達と音楽のプロジェクトを始めるのがすっごいアイデアに思えたっていう(笑)。だから、もし私たちがもともと友達じゃなかったら、全然違ってたと思うし……」
カルロッタ「きっともっとひどかったよね(笑)」
アナ「うん、もっと問題が起きてたと思う。でも、私たち、ホント仲がいいのよ」
カルロッタ「実際、他のバンドはそうでもないんだってことが最近ようやくわかってきたの。私とアナってもともと友達で、一緒に音楽をやって、それが楽しくて、土曜日ごとに会ってまたやって、っていう風に始めたでしょ? だから、世界中のどんなバンドもそんな感じなんだと思ってたの。でも、他のバンドを見てると、ぜんっぜん違ってたりする。まったく友達でもなかったりして!」
アナ「普段は話しもしなかったり」
カルロッタ「普段は別々で。びっくりしちゃう」
●ザ・フー、ゼップ、ビートルズ、クラッシュ、バングルズ、ストロークス――まあ、いくつも挙げられるんだけど、理想のロックンロール・バンドであるための最大の条件は、メンバー全員のかけがいのない個性のバランスだと思うんですね。4つの個性という制約があってこそのマジックやロマンティシズムがあり、それが音楽的な個性に繋がっていたりする。あなたたち4人を繋いでいる共通項と、ともすれば、何かしらのテンションに繋がってしまうような差異について、教えて下さい。
アナ「うーん……やっぱり友達だったから、もともといろんなものをシェアしてたと思う。例えば、歌詞を書く時。歌詞について話してると、私たち、実際に書かないようなことも延々しゃべってるのね。何か悩みを抱えてると、私はカルロッタに話すし、そうやって話すことで何かしら結論が出てきたりする。それを歌詞に入れたりもするの。だからホント、ライフスタイルそのものなんじゃないかな。友達としてバンドでも仲良くやれるってわかってたし、同じ音楽が気に入るだろうってわかってたし。このバンドにものすごく情熱を持つだろうってこともね。だから、ホントすべてが簡単だったの(笑)。『変な方向に行っちゃうかもしれない』なんて思いもしなかったくらい。とにかく一番簡単な決断だった(笑)」
●テンションは全然なかった? というのもあなたたちにしろ、ビートルズ、ストーンズ、クラッシュ、リバティーンズにしろ、二人のソングライター、二人のフロント・パーソンがいるバンドもまた特別ですよね。
アナ・カルロッタ「(二人顔を見合わせて、にっこりしながらハグをする)」
カルロッタ「彼らとあたしたちは全然似てないと思うな。だって、あたしたちは最初から友達だもの。そっちのほうが大きいの。例えば、何かで意見が違っても、『絶対自分を押し通す! 死ぬまで戦う!』みたいなことにはならない。むしろ『じゃあ、アナの言う通りやってみるよ』って感じ。二人ともお互いを信頼してるから、意見が違うことさえものすごく大きな意味を持つのよね。わかる? 『アナがそう言うんならそうかもしれない、私が間違ってるかもしれない』って。だって、アナだもん(笑)」
アナ「(笑)ほら、例えば、みんなで一緒にリハーサル・ルームにいるでしょ? で、意見が分かれたら、そこで誰かが折れる。カルロッタの意見が通って、言い合いには勝つかもしれない。『じゃあ、そうすればいいじゃない』って。でも、1週間もすれば、私も、全員が賛成してるの。『やっぱりこれが正しかったね、変えてよかった』って。ある時点でぶつかったとしても、結局は納得するのよ。ぶつかったら一つの方法を試してみて、うまくいかなかったら、それがうまくいかないってことで意見が一致するし」
カルロッタ「その通り」
●じゃあ、「ウーマン・イン・ロック」なんて言葉はもはや無意味だと思いつつも、あなたたち全員が女性であることに、やはりちょっとした興奮は隠せないんですよ。実際、スージー・クアトロにインスパイアされて、ランナウェイズの一員となったジョーン・ジェットの時代から、そもそもファッキン男社会である音楽業界において、女の子たちだけの小さなバブルを作りながら闘っていくのはかなり大変なことだと思います。だからこそ、やっぱりバングルスにしろ、スリッツにしろ、ビキニ・キルやルシャス・ジャクソン、スリーター・キニーにしろ、全員が女性のバンドって最高だと思うんですね。ただ実際、今、名前を挙げたバンドたちからあなたたちが受け取ったバトンは何だと思いますか? あるいは、彼女たちと自分たちとの一番の違いはなんだと思いますか?
アナ「勿論、影響はあるんだけど……」
カルロッタ「私たちは自分たちのやり方で音楽をやってると思う」
アナ「そう。つまり、私たちはただ、感じてることを曲に書いてる。その意味で、女性が感じることって男性とは違ってたりするから、たまたま他とは違ってたりもする。でも、女性として書いてるわけじゃなくて、感じることを書くって意味では同じなの。わかる?」
カルロッタ「例えば、あなたはビキニ・キルの名前を挙げたけど、彼女たちは、ある意味、最初に明確な主張があって、バンドを作った。女性の権利とか、そういうことについて語るためにね。自分が伝えたいことを伝えるためにパフォーマンスを始めたのよ。でも、私たちの場合はそういう順番じゃなかった。私たちはまず音楽をやりたかったの。私たちが音楽をやってることで、それがフェミニズムの闘いになってるならそれはいいことだと思うけど(笑)。でも、順番が逆なのよね」
アナ「女の子であることと、バンドをやってることで結果的にそうなってる。例え、そうしたくなくても、それでフェミニストとして女性の権利のために戦ってるってことになるの。私たちはやりたいことをやって、ステージに上がってるだけなんだけど、それが結果として戦うことになっちゃう。でも、それはそもそも私たちが目指してたことじゃない。とは言っても、その過程でいろんなことを少しずつ変えられるんだけど」
カルロッタ「でも、バカバカしいって思うこともあるの(笑)。だって、私たちはやりたいことをやってるだけなのに、それで物事を変えてるんだから! ねえ、そう聞くと、クソバカバカしいって思わない?(笑)」
通訳:萩原麻理
シーンを転覆させる救世主のいない時代に
マドリード出身の女子4人組ハインズが
全世界から注目されている理由、教えます