SIGN OF THE DAY

アークティックの息抜きなんかじゃない!
ラスト・シャドウ・パペッツの2ndは、
21世紀ポップの女王、アデルをも脅かすか?
by YOSHIHARU KOBAYASHI March 18, 2016
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アークティックの息抜きなんかじゃない!<br />
ラスト・シャドウ・パペッツの2ndは、<br />
21世紀ポップの女王、アデルをも脅かすか?

このラスト・シャドウ・パペッツほど、「サイド・プロジェクト」という説明が誤解を生みそうなユニットもありません。勿論パペッツとは、アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーと元ラスカルズのマイルズ・ケインがそれぞれのパーマネントなプロジェクトの合間を縫って始めたユニット。ですが、彼らの音楽には、「サイド・プロジェクト」という言葉から連想される、余暇の息抜きだとか、ただのお遊びといったムードは皆無。むしろその正反対だと言えます。

この特殊なプロジェクトの立ち位置をもう少しクリアにするため、まずはアークティックのポジショニングをおさらいしておきましょう。改めて今のイギリスを見渡してみると、大文字のロック・バンドとしての期待を一身に背負っているのは、アークティックくらいしか見当たりません。確かにフォールズやマッカビーズといった中堅はアリーナ・バンドへと見事に成長しましたし、サヴェージズのように気を吐いている若手もいるにはいます。

Foals / What Went Down (2015)

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ただ、これらのバンドは総じてポストパンクの文脈。音楽性の話は置いておいたとしても、スケールや貫録といった点でも後一歩。そう考えると、大文字のロック・バンドとしての責任と重圧を真正面から引き受けているのは、現在のイギリスではアークティックだけと言えるはず。そういった彼らの位置付けは、以前にこちらの記事でも書いた通りです。

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2014年の〈ブリット・アワーズ〉でアレックスが「ロックンロールは死なない」と宣言したことを思い出すまでもなく、アークティックは大文字のロック・バンドとして踏ん張ると腹を決めたところがあります。その姿勢は間違いなく称賛されるべき。ただ、その一方で、アレックスは現在のアークティックでは表現しきれない音楽的な関心の広がりを持っていることも確かです。だからこそ、遊びや余暇の息抜きというよりは、アークティックとは別に、自身の音楽的な関心を存分に発揮出来るアウトプットが必要であり、それがラスト・シャドウ・パペッツなのだ。と言っていいのではないでしょうか。

実際、ラスト・シャドウ・パペッツの1st『ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメント』はそのような性格を持った作品でした。これは、アークティックがUKインディ・ロックの圧倒的なトップ・ランナーだった2008年当時、スコット・ウォーカーやリー・ヘイゼルウッドの作品にインスパイアされて作り上げた、どこまでもゴージャスで流麗なチェンバー・ポップ・アルバム。ジャズやシャンソン、クラシックから現代音楽やグレゴリア聖歌までを取り込んだスコットと、フランク・シナトラの娘ナンシー・シナトラのプロデュースやコラボレーターとしてお馴染みのヘイゼルウッドに深く傾倒したサウンドは、気安くインディやロックと呼ぶのが憚られるほどでした。

The Last Shadow Puppets / Standing Next To Me (2008)

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Scott Walker / Jackie (1967)

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Nancy Sinatra / These Boots Are Made for Walkin' (1966)

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英国インディ・ロックの現在と未来を担うバンドと目されていたアークティックのフロントマンが、突如このようなサウンドを全面的に打ち出したのはやはり衝撃的でした。と同時に、その完成度の高さには誰もが舌を巻いたのです。

The Last Shadow Puppets / The Age Of The Understatement (2008)

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言ってみれば、ラスト・シャドウ・パペッツとは、アレックスが自らの非ロック的な関心を120パーセントの力で発揮するプロジェクト。そして、マイルズがアレックスにスコット・ウォーカーのアルバム(『スコット・ウォーカー・シングス・ジャック・ブレル』)を教えたことでパペッツが始まったというエピソードからもわかる通り、その際の最良のパートナーがマイルズであることは疑いようもありません。

とは言え、パペッツは1stのリリース後、すっかり音沙汰がなくなり、アルバム一枚限りのプロジェクトと思われている節もありました。が、大方の予想を裏切り、8年ぶりのニュー・アルバム『エヴリシング・ユーヴ・ カム・トゥ・エクスペクト』が4月1日に送り出されます。先述の通り、アークティックが大文字のロック・バンドとしてエスタブリッシュされつつある今、アレックスがその枠組みには収まり切らない音楽的な関心のアウトプットを再びパペッツに求めることになったのは、ある意味、必然だったのかもしれません。

では、具体的に見ていきましょう。2ndからのリード・トラックとして、まず公開されたのが“バッド・ハビッツ”。

The Last Shadow Puppets / Bad Habits (2016)

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正直なところ、このトラックは謎ですね。パペッツのトレードマークであり、前作に引き続きオーウェン・パレットがアレンジを手掛けたストリングスも耳を引きますが、基本的にこの曲は60年代のサイケデリック・ガレージ風。まだアルバムの全貌が明らかになっていないので予測の範囲を出ないものの、敢えてリスナーの意表を突く「目眩まし」的な意味合いが強い曲かもしれません。ちょうど、甘くメロウなポップ・ソング集だったアークティックの4th『サック・イット・アンド・シー』のリード・トラックが、アルバム全体の方向性とは逆を行く豪快なロック・トラック“ブリック・バイ・ブリック”だったのと同じのように。

Arctic Monkeys / Brick By Brick (2011)

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そんな風に想像するのも、その後に続けて公開された2曲が、まさにパペッツと呼ぶにふさわしいサウンドだったからです。これはどちらもゴージャスで美しい珠玉のポップ・ソング。

The Last Shadow Puppets / Everything You've Come To Expect (2016)

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The Last Shadow Puppets / Aviation (2016)

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こうして聴いてみると、やはりパペッツは唯一無二の存在だという思いを強くせずにはいられません。彼らが現在のアークティックとは違う、「非ロック」的な方向に振れようとしているのは間違いない。しかし、そこでかつてのレディオヘッドのようにアンダーグラウンドのクラブ・カルチャーからの刺激を取り込むのではなく、むしろリッチなポップスへと向かっている。無論、ポップスとは言っても、現在のEDMやボーイ・バンドのようなチージーな音楽のことではありません。

2人が連なろうとしているのは、フランク・シナトラ、ジャック・ブレル、スコット・ウォーカー、セルジュ・ゲンズブールといった、ゴージャスな男性ヴォーカリストたちによる良質なポップスの系譜。それは、今、アデルに代表される女性ヴォーカルの世界以外では忘れられつつあるものです。

Frank Sinatra / You Make Me Feel So Young (1956)

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お気付きの方も多い通り、こうした方向性はアークティック・モンキーズ作品のメロウ・サイドにも含まれています。ただ、それを鉄壁の4人のアンサンブルではなく、より大規模な編成でのアレンジメントで奏でてみたい。そんな風にアレックスが思ったとしても不思議はありません。

そうした意味では、来るべき彼らの2ndアルバム『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』は、2016年の今、アデルやサム・スミスと同じ土俵に上がって勝負出来る唯一のアルバムとなる可能性もあるかもしれない。もはや欧州随一のロック・バンドとしての名声を極めてしまった今、今度は大文字のポップへの挑戦に挑むのではないか。ロックとポップの二冠制覇を目論んでいるのではないか。そんな想像も可能です。

このアルバムが世に放たれた時には、とんでもないことになる可能性も秘めている――と想像も膨らみますが、さあ、果たしてどうなるでしょうか?


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