SIGN OF THE DAY

〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2020年のベスト・アルバム、ソング&
映画/TVシリーズ5選 by 天野龍太郎
by RYUTARO AMANO December 25, 2020
〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、<br />
2020年のベスト・アルバム、ソング&<br />
映画/TVシリーズ5選 by 天野龍太郎

>>>Best Albums of 2020

5. Anuel AA / Emmanuel

4. Wizkid / Made in Lagos

3. Juice WRLD / Legends Never Die

2. Burna Boy / Twice as Tall

1. Megan Thee Stallion / Good News



>>>Best Songs of 2020

5. BLACKPINK / How You Like That

4. Megan Thee Stallion / Girls in the Hood

3. Juice WRLD / Wishing Well

2. Pop Smoke / Dior

1. The 1975 / Me & You Together Song


新型コロナウイルス禍、人種差別、性差別、弱者とマイノリティの排除、気候変動……と、わたしたち人類様の目の前には、これでもかと課題が山積み、てんこもりである。もはや宇宙にイグジットするしかないのか、いや、いっそのこと地球外の超文明がやってきて……なんて、『三体II』を読みながら思った。暗中模索、けれども、どうしても虚無主義的にならざるをえない2020年だった。とはいえ、The 1975の『Notes on a Conditional Form』のレヴューで引いたように、「どうにもならないと思われた状況からこそ、突然に、あらゆることがふたたび可能になる」、かもしれない。

12月25日に売られる〈ele-king Vol. 26〉 で個人的な視点から、ちょっとエッジーな10のアルバムを選んだので、2019年のリスト とまったくおなじやりかたで、「ポップ」という観点から選んでみた。重複を避けて、泣く泣くはずしてしまったものもあるので、〈ele-king Vol. 26〉も見てもらえるとうれしい。

2020年は、いや、2020年も、ジュース・ワールドやXXXテンタシオン、マック・ミラー、リル・ピープなど、この世を去ったアーティストたちのことを考えつづけた年だった。なにより、ポップ・スモークの死は大きかった。ロックにしてもそうで、たぶんいちばん聞いたアルバムはパープル・マウンテンズの『パープル・マウンテンズ』とリチャード・スウィフトの『ザ・ヘックス』だったと思う(前者は2019年の、後者は2018年のアルバムだけれど)。ちなみに、『ザ・ヘックス』を聞いたのは、フリート・フォクシーズの『ショア』(とMonchicon!の記事 )のおかげだった。

数年前に比べると、アメリカのラップ・ミュージックのメインストリームはなんだか頭打ちに感じてしまい、この一年は、そのぶんアンダーグラウンドなシーンへの興味が加速した。バーミンガムのピンク・シーフとフィラデルフィアのムーア・マザーは、その象徴のような存在としてとらえている。血が噴き出すような、鋭い怒りに満ちた『ネグロ』を世に問うたピンク・シーフの重要性は、もっと語られてしかるべきだ。また、それだけにメッドヘインの性暴行疑惑は残念で、彼はその件について弁明しているものの(わたしは彼の言葉を信じたいと思っている)、もやもやとした思いが晴れることはなかった。いっぽう各地のギャングスタ・ラップはエッジーな表現を追及していて、デトロイトのサダ・ベイビーやベイビー・スムーヴ、そしてLAのドラキオ・ザ・ルーラーには興奮させられた。ラップ・ミュージックの中心地は、もうアトランタではないのかもしれない。

もっとも、特に心を傾けていたのはブルックリン・ドリルで、それだけにポップ・スモークが亡くなった時のショックといったらなかった。ただ、ラー・スウィッシュやスムーヴ・Lのような才能が、これからもっと活躍してくれるはず。さらに、彼らに続く新世代が続々と現れている。ポップについては〈ele-king〉のレヴュー で、ブルックリン・ドリルについては〈Mikiki〉の記事 で向き合った。あとから池城美菜子のツイート で知ったのだが、ブルックリン・ドリル・シーンのスリーピー・ハロウは、もともとダンスホールのアーティストだったのだとか。そういった、意外なつながりもおもしろい。

それから、UKドリルへの興味が強くなり、おなじUKではアフロスウィングもよく聴いた。印象的な作品として挙げたいのは、ロウスキーの『ミュージック・トライアル・アンド・トラウマ:ア・ドリル・ストーリー』とパ・サリューの『センド・ゼム・トゥ・コヴェントリー』、それからヘッディ・ワンがついにリリースしたデビュー・アルバム『エドナ』。ドリルやUKのラップ・ミュージックには、ストリートから直接届けられたほこりっぽいにおいがして、どうしても惹かれてしまう。ロウスキーのレコードからはロンドンの、パ・サリューのアルバムからはコヴェントリーの路上のにおいが感じられた。

ほかには、2018年、2019年から引き続きプエルトリコやコロンビアのレゲトン/ラテン・トラップをよく聴いていて、グローバルな影響力を持ったナイジェリアのアフロビーツにも傾倒した。

レゲトン/ラテン・トラップではニオ・ガルシアとカスペル・マヒコのコラボレーション・アルバム『ナウ・オア・ネヴァー』、セッシュとアヌエル・AAそれぞれの力作、そして、言わずもがな、バッド・バニーの強烈な3作が決定打になった、と感じている(バッド・バニーは2020年の最重要アーティストの一人だが、彼は本当に引退してしまうのだろうか?)。アヌエル・AAのアルバムがボブ・マーリーへのリスペクトを込めた楽曲で幕開けし、バッド・バニーの『YHLQLDMG』がトム・ジョビンのクラシックの引用で始まることは、なにかとても意味のあることだと思った。

アフロビーツでは、バーナ・ボーイ、ダヴィド、ウィズキッドというビッグ・スターがすばらしいアルバムをうんだ。ナイジェリアのデモに際して、ダヴィドの“FEM”がストリートに鳴り響き、さらにバーナ・ボーイが“20 10 20” でフェラ・クティが乗り移ったかのような表現をしたことも、とても印象深い出来事だった。

これらについても、〈Mikiki〉の記事を読んでもらえれば幸いだ。レゲトンアフロビーツ について、それぞれ書いている。なお、ダンスホールについてはポップカーンの独り勝ちだった印象で、これからグローバルな存在感を示す才能が80年代後半から90年代生まれのアーティストたちの中から現れることに期待したい。また、ラテン・アメリカとアフリカのポップ・ミュージックについては、K-POPの躍進とあわせて脱欧米中心主義の運動、そのうねりとしても考えている。

2020年はロザリアの活躍に期待していたのだけれど、残念ながら、彼女から決定的な楽曲やアルバムが届けられることはなかった。“Juro Que”、“Dolermo”、“TKN”という3つのシングルはどれもよく聴いたし、客演では存在感を見せつけていたものの、2019年の衝撃を超えてはいない。というわけで、MVPにはメーガン・ザ・スタリオンを。

「ポップ」という観点から離れて、わたしの気分に寄り添ってくれたものを挙げると、フィービー・ブリジャーズの『パニッシャー』とインディア・ジョーダンのレイヴィなEP『フォー・ユー』の2つにつきる。楽曲では、気候変動の問題をあつかったケリー・リー・オーウェンスのミニマルなハウス“メルト!” と、ドッグレッグの捨て鉢なパンク“カワサキ・バックフリップ” が印象に残っている。

今回、田中亮太との〈Mikiki〉での連載「Pop Style Now」の年間ベスト・ソング で選んだものも選外にしてしまったので、そちらも参照してほしい。


〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2020年のベスト・アルバム、ソング
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