SIGN OF THE DAY

00年代USインディの象徴? 難解なだけの
実験主義? 今こそ解きほぐしておきたい、
アニマル・コレクティヴの「5つの誤解」
by YUYA WATANABE April 15, 2016
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00年代USインディの象徴? 難解なだけの<br />
実験主義? 今こそ解きほぐしておきたい、<br />
アニマル・コレクティヴの「5つの誤解」

アニマル・コレクティヴもついにここまできたか。と感慨を覚えずにはいられません。そう、彼らの最新作『ペインティング・ウィズ』を聴いた今となっては。このアルバムがいかに素晴らしく、アニコレのターニング・ポイントとなる作品かということは、以前こちらのレヴューにも書いた通り。

Animal Collective / Golden Gal (2016)

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でも、アニコレの最高傑作は『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』(2009年)で、その後は徐々に下り坂でしょ? 彼らが本当にすごかったのは『サング・トング』(2004年)まで? いやいや、ちょっと待って下さい。もしかして、あなたはアニマル・コレクティヴのことをもうすっかり過去のバンドだと思ってませんか? もしくは、小難しくて自分とは関係のないバンドだとか? もしそれで『ペインティング・ウィズ』を聴かずにいるんだとしたら、あまりにもったいない話ですよ。

この記事では、そんなアニコレにまつわる誤解を解いていきたいと思います。では、早速いってみましょう。




>>>誤解その①:アニコレってメンバーがキャラ立ちしてなくて、「バンド」としての魅力に乏しいよね?

アニコレの熱心なリスナーには釈迦に説法でしょうが、まずは基本的なところから始めましょう。

リバティーンズ、ビートルズ、ザ・フーといった名前を挙げるまでもなく、バンドにとって、メンバーそれぞれのキャラが立っていて、しかもバランスが絶妙であることは非常に大事。でも、アニコレは敢えて自分たちをキャラ立ちさせず、リスナーを煙に巻こうとしていた時期がありました。特に初期なんて完全にそう。当時の彼らは顔も本名もいっさい明かさない、まさに正体不明の覆面バンドだったわけです。まずはその頃のアニコレを見てみましょう。

Animal Collective / Winter's Love (2004)

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アニコレが本格的に活動をはじめた00年代初頭は、他にも覆面をかぶった人たちがたくさんいました。有名どころだと、ダフト・パンクやスリップノット。あるいはデーモン・アルバーンによる架空のバンド=ゴリラズなんかも、そのひとつと言えるでしょう。懐かしいところだと、メンバー全員が医療用マスクを着用していたバンド=クリニックもいました。そう、00年代前半はまさに覆面の時代だったのです。

Clinic / Come Into Our Room (2002)

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というのはさすがに冗談ですけど、一方でアニコレや上記のバンドが素顔を隠していたことに、共通したステイトメントを見出すことは可能かもしれません。語弊を恐れずにいうならば、それは「アンチ・ポップ」。作り手の人格やルックス、思想などは伏せて、とにかく音楽そのものに集中したい(させたい)――彼らの覆面には、そうしたスタンスが表れていたのではないでしょうか。

あるいは、いつまでも次のカート・コバーンを求めつづける欧米のポップ産業に対する反発心も、そこには少なからず込められていたような気がします。エイフェックス・ツインが自らの写真を常に醜くリフォームドさせていたのも、また同じような文脈です。

00年代初頭の時代の空気に共鳴し、アノニマス的な方向で活動していたアニコレですが、バンドの評価と知名度が高まっていくなか、やがてメンバーの本名を公表し、これまでヴェールに包んできたものを少しずつあきらかにしていきます。そして、その音楽性も徐々にカジュアルで開かれたものとなっていくのですが――そのへんについては、のちほどじっくりと紐解いていきましょう。


>>>誤解その②:アニコレって、ごちゃごちゃしたサイケって感じでわかりにくい。ジャンルは何? ロック? フォーク? ワールド・ミュージック?

アニコレのジャンルは何か? そんな無粋な質問をしちゃいけません。アニコレの音楽をなにかひとつの言葉で括るのは無理。ご存知の通り、とんでもなくエクレクティックなバンドですから。

アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーの最新作を例に挙げるまでもなく、近年のポップ・ミュージックの主流は、間違いなくエクレクティックなサウンド。オアシスみたいに「ロック」と単純に分類出来る音楽の方が圧倒的に時代遅れ。その点では、アニコレの音楽性こそ、圧倒的に「今」。ジャンルは何か? なんて質問は不要なのです。

ただ、それでも「わかりにくい」という感想は出てくるかもしれません。だって、アニコレはアルバムによって作風がまったく違いますから。ご存知の方も多いように、2004年に発表した5作目『サング・トング』によって、有力メディアからも注目されるようになった頃の彼らは、いわゆるフリー(ク)・フォークの代表格として認知されていました。

で、『サング・トング』と1stは作品性もわりと近い。でも、その間の2ndや3rdは超ノイジーで、まったく別モノ。そして、演奏の要が生楽器からエレクトロニクスに移ったという点では、『ストロベリー・ジャム』(2007年)を音楽的なターニング・ポイントと見ることも可能――といった具合に。とりあえず、ここでは『サング・トング』と『ストロベリー・ジャム』から一曲ずつ聴いてみましょう。

Animal Collective / Leaf House (2004)

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Animal Collective / Fireworks (2007)

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この2曲を聴くだけでもわかるように、アニコレはどのアルバムを最初に聴くかで印象が全然変わります。じゃあ、何をまっさきに聴くべきか? それは勿論、最新作の『ペインティング・ウィズ』ですが、その理由は後々詳しく説明することにしましょう。


>>>誤解その③:アニコレの音楽って、とにかく実験的でむずかしいよね? 正直、取っつきにくいわ。

アニコレが実験的だという指摘は、確かにその通り。それこそ00年代前半において、彼らがブラック・ダイスやギャング・ギャング・ダンスらと共に、ニューヨーク周辺のエクスペリメンタル・シーンを先導してきたのは、まぎれもない事実ですから。

Black Dice live at Brighton Festival (2003)


ただ、同時にここで押さえておいてほしいのは、その前衛志向がすっかり浸透したアンダーグラウンドの状況に、いち早くポップスの文脈を持ち込んだのもまた、他ならぬアニコレだった、ということ。ここはすごく重要なので、もっと強調しておきましょう。もしアニコレがアンダーグラウンドの位置からポップ・ミュージックの可能性を示していなかったら、ヴァンパイア・ウィークエンドやMGMTといったポップ・アクトの登場は、まずありえなかったのです! 多分。

MGMT / Time To Pretend (2009)

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そうした観点でいくと、ここであらためて注目すべきは、2005年に発表された『フィールズ』。ひとつ前のアルバム『サング・トング』が高く評価されたことによって、当時のアニコレは、デヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムらと並ぶフリー(ク)・フォークの旗手とされていました。

しかし、彼らはその後、ヴァシュティ・バニアンとの共作EP『プロスペクト・ハマー』(2005年)を経て、早くもそのフリー(ク)・フォーク的なイメージから脱却。そして、『フィールズ』という作品をもって、彼らはよりポップな方向性へと舵を切ったのです。ということで、その『フィールズ』から1曲いってみましょう。

Animal Collective / Grass (2005)

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パンダ・ベアが叩くフロア・タムの躍動感もさることながら、このコンパクトにまとまった楽曲展開からも、彼らが意識的にポップスのマナーを取り入れたことは十分にうかがえます。脱構築的なインプロとかよりも、ポップスの形式をふまえて楽曲制作に取り組むほうが、むしろ今はチャレンジングなのでは? という意識もあったのかもしれません。何にせよ、ここで彼らはまた先鞭をつけることになったわけです。このアルバムから『メリウェザー』にいたる流れは、間違いなくアニコレのキャリアにおける最初のハイライトと言っていいでしょう。


>>>誤解その④:アニコレの最高傑作は『メリウェザー~』だっていうし、もうピークを過ぎた下り坂のバンドでしょ?

あえてここで『メリウェザー~』が最高傑作だという評価に従うのであれば、今のところアニコレのキャリア・ハイは2009年前後ということになります。が、しかし。当然ながらアニコレはそうした過去の評価に甘んじるようなバンドではない。そう、アニコレは2010年代の到来と共に、また大きく変貌を遂げていきます。

ちなみに、『メリウェザー~』が全米チャートで最高13位を記録した2009年は、ダーティー・プロジェクターズの『ビッテ・オルカ』、そしてグリズリー・ベアの『ヴェッカーティメスト』が、おなじく全米チャートに食い込んだ年でもあります。いま思うと、これって完全に節目の年ですよね。だって、上記3バンドがセールス面でこれほど躍進したってことは、ブルックリンに象徴されるインディ・シーンの隆盛が、とうとう全米規模にひろがり始めたってことなんですから。北米におけるメインストリームとアンダーグラウンドのクロスオーヴァーが、いよいよこのあたりから本格的に始まったわけです。

そんな時代の真っ只中に、アニコレが提示したのが『センティピード・ヘルツ』(2012年)でした。これはさすがに驚きました。というか、ぶっちゃけ少し戸惑った。言ってみれば、これは『メリウェザー~』とは正反対のベクトルに突き進んだ作品。では、アルバムからのリード・シングル“トゥデイズ・スーパーナチュラル”をどうぞ。

Animal Collective / Today's Supernatural (2012)

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「レレレレレレレ!!」――冒頭から飛び出してくるこの奇声が、まさに象徴的。そう、『センティピード・ヘルツ』はとにかく異常なまでにハイテンションなアルバム。この作品のメタリックな電子音と性急なビートは、それこそ『メリウェザー』におけるオーガニックでやわらかな音響とは、まったく性質の異なるもの。さらにはリヴァーブを全面的にカットすることで、みずから切り開いてきたアンビエント・ポップの潮流とも袂を分かつような本作は、従来のファンから賛否両論ありました。

でも、こうしてまた果敢にもサウンドを刷新させていく姿勢には、やっぱりシビれませんか? そう、2010年代もアニコレはガンガン攻めてる。そして、その結果生まれた新たなマスターピースが、最新作の『ペインティング・ウィズ』なんです。


>>>誤解その⑤:実際、新作どーなのよ! 〈ピッチフォーク〉の点数も6.2点でビミョーだし、あんまりよくないんじゃないの?

ここはハッキリと言いましょう。『ペインティング・ウィズ』は、少なく見積もっても、彼らのディスコグラフィで1~2位を争う傑作です。

言うならば、今作は00年代のUSインディを牽引してきたアニコレが、ヒップホップ/R&B全盛の2010年代を的確に見定め、あらたにモード・チェンジを果たしたレコード。これまでの彼らを特徴づけていた、コラージュめいたサイケデリアは踏襲されつつ、そのサウンド・プロダクションはよりクリアでハイファイなものに。低音域のファットな質感を強調した音づくりは、たとえば現在のメインストリームを象徴するカニエ・ウェストやリアーナ等の新作と並べてみても、まったく遜色のない迫力と華やかさを携えています。そう、アニコレはここで、みずから築いてきたUSインディの文脈にも則りながら、同時にブラック・ミュージックが圧倒的な存在感を示している2016年の状況とも、真っ向から対峙しているのです。

その作品に対して〈ピッチフォーク〉は6.2点という評価を下しました。それをアニコレの失速と取るのか、〈ピッチフォーク〉の動揺と取るのか。その判断はあなたに委ねます。

Animal Collective / FloriDada (2016)

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ということで、もしあなたがまだアニマル・コレクティヴの作品をひとつも聴いたことがないのであれば、迷いなく僕はこの最新作をまっさきにオススメします。そしてそれが、アニコレのあまりに芳醇なディスコグラフィに関心をもつきっかけとなってくれたら、そんなに喜ばしいことはない。何にせよ、まずは『ペインティング・ウィズ』をチェックですよ。あなたが2016年のアクチュアルなポップ・ミュージックにすこしでも興味があるなら、今このアルバムを聴かない理由なんてひとつもないんですから。




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