SIGN OF THE DAY

ミステリー・ジェッツ interview : 前編
地球という小さな球体の片隅に暮らす
とてもちっぽけな存在たちの唄
by SOICHIRO TANAKA January 18, 2016
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ミステリー・ジェッツ interview : 前編<br />
地球という小さな球体の片隅に暮らす<br />
とてもちっぽけな存在たちの唄

大胆なレコードだ。これまでの4作品すべて、その音楽性を変え続けてきたバンドとはいえ、これほどのドラスティックな変化は初めてだろう。宇宙から見た、地球の表面に太陽の光が浮かび上がるスチール写真を使ったアートワークが示す通り、壮大にして雄大。もし筆者が「このアルバムの両側に2枚の既存の作品を並べるとしたら何か?」と訊かれたら、まずはキング・クリムゾン70年の3ndアルバム『ポセイドンの目覚め』と、ジェネシス最初の傑作である72年の3rdアルバム『フォックストロット』を挙げる。だが、ミステリー・ジェッツの5thアルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、そんな乱暴な言葉では言い表せない、一筋縄ではいかない作品だ。

冒頭から4曲はまぎれもなく名曲。息もつかせない。そこに穏やかなピアノ・バラッド“1985”を挟んで、6分44秒に及ぶ長尺曲、アルバム全体を象徴する“ブラッド・レッド・バルーン”が真っ暗な水平線から姿を現し、まるで静かな潮騒が突然に荒ぶる荒波へと姿を変えるような7曲目“テイクン・バイ・ザ・タイド”を経て、アルバムのフロウはクライマックスを迎え、そこから少しずつカーム・ダウンしていく。『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、そんなフロウを持ったアルバム。

その全キャリアを通してデヴィッド・ボウイが証明したように名盤を作るには名曲が揃っているだけでは不十分。アルバム1枚の統一感と、何度も繰り返し聴かずにはいられない独自のフロウを持つことが不可欠だ。この『カーヴ・オブ・ジ・アース』は見事にその条件を満たしている。全9曲49分。6分台の長尺曲が2曲もありながら、最後まで少しも飽きることなく聴き手の耳をずっと楽しませ、驚かせ続ける。つまり、この『カーヴ・オブ・ジ・アース』という作品は、今では失われつつある「アルバム」という伝統を現代に甦らせる作品なのだ。

と同時に、この『カーヴ・オブ・ジ・アース』は2016年的なモダン・プロダクションを象徴するレコードでもある。収録曲9曲のどれもが長尺にして壮大、ダウンテンポの楽曲が並んでいながら、そのプロダクションは極めて現代的。サウンドはどこまでもクリア。アメリカのメインストリーム・ポップの向こうを張る現代的なプロダクションが施されている。大半の曲で、ギターや生ドラムを筆頭にオーガニックな楽器と共に、シンセのシークエンスが脇を固め、デジタルな感触の打楽器がリニアなビートを刻むことで、これまでに聴いたことのないサウンド・テクスチュアが浮かび上がる。

試しにアルバム6曲目の“ブラッド・レッド・バルーン”を聴いて欲しい。bpm76というダウンテンポ。これは70年代プロッグ特有のテンポであると同時に、トラップ以降のヒップホップのテンポでもある。曲冒頭の「これ、ジュークを模したんですか?」と言いたくなるようなシンコペーションしたリズムを刻むカスタネット。そこに少しずつ生楽器が加わり、キックと一体化したベースが四分打ちのリニア・ビートを刻み出す。さらに倍速の固いスネアが加わったと思いきや、コーラスに移るやいなや、まったく別の音色を持ったスネアがハーフ・リズムを刻み出す。ブリッジに移ると、いきなりリズムレスに。かと思えば、そこに32を刻むハットが配されたりと、曲のリズムは次々と姿を変えていく。音色においてもリズム解釈においても、これは間違いなくこの2016年にしか産み落とされえない作品だ。

ポップ・シーン全体を見渡せば、バンド音楽が窮地に立たされ、ウェル・プロダクションのポップ音楽が隆盛を極める2010年代半ば。そこに対して一矢を報いるべく、2作連続でメインストリームのプロデューサーを起用したものの、結果としてはミイラ取りがミイラ、かつてのインディ・バンドとしてのエッジを失い、ただの薄まったポップ・アルバムへと堕したコールドプレイの『ア・ヘッド・オブ・フル・ドリームス』とは、ある意味、真逆の作品。この『カーヴ・オブ・ジ・アース』こそが本当の意味での、インディからのポップへの逆襲とは言えまいか。

ライヴが主流になり、録音された音楽に対する興味が失われつつあると、したり顔で語る輩が蛭のようにはびこる今、この『カーヴ・オブ・ジ・アース』はそうした紋切り型の言説を吹き飛ばす、素晴らしい「レコード」だ。昨年ここ日本で全曲再現されたライヴと比べても格段に素晴らしい。正直、このレコードはライヴでは再現不能。その音楽性/ソングライティングは過去の偉大な伝統に連なるものながら、そこに現行のモダン・プロダクションを見事に合体させ、しかもライヴでは再現不能な緻密さと密室性を持つという意味では、このアルバムの隣にはアラバマ・シェイクスの『サウンド&カラー』を並べるべきだろう。

総じて、宇宙的な広大なパースペクティヴと、パーソナルで密室的なコミュニケーションとの間を行き来するレコード。実験的で壮大なソングライティングと、クリアで直接的でデジタルなポップ・プロダクションとの間にある不思議な何か。携帯に繋いだイヤフォンから聴いても大音量のシステムで鳴らしても、それぞれの異なる環境でそれぞれまた別の体験が出来るレコード。是非楽しみ尽くして欲しい。

アルバム全体のテーマについては以下の対話に譲りたい。いずれにせよ、この『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、2016年に生きる我々の多くをリプリゼントする作品なのは間違いない。フロントマンであり、メイン・ソングライターでもあるブレイン・ハリソンと、新加入のベーシスト、ジャック・フラナガンに訊いた。


ミステリー・ジェッツなめんなよ! 仰天の
新作『カーヴ・オブ・ジ・アース』に備え、
10年に渡るキャリアを総ざらいします


『カーヴ・オブ・ジ・アース』合評


●アルバム5曲目の“1985”の歌詞には「サターン・リターン」という言葉が出てきます。一般的にこれは、人生において誰もが受け入れなければならない苦境と変化を示す言葉です。

ブレイン・ハリソン(以下、ブレイン)「うん」

●で、質問です。このアルバムは、あなたたちがバンドとしても個人としてもサターン・リターンという宿命に向き合って、何かしらの答えを出そうとしたレコードだ――そういう視点があります。ただ実際のところは、どうだったんでしょう?

ブレイン「よく覚えてるんだけど、僕ら、この前のレコードをアメリカで作ったあと、ロンドンに戻った時に『自分は新しいチャプターを迎える準備ができてる』って感じたんだ。僕自身の人生においてもバンドにおいてもね。でも、『そのチャプターが何を意味するのか?』についてはまだわからなかったし、それが何を運んでくるのかもわからなかった。だから、未来が怖くもあった。ベースのカイが抜けて、アメリカで大冒険をして、自分は次に何を書きたいんだろう、何をしたいんだろう?って。で、サターン・リターンっていう考えが僕の意識に入ってきた。他のメンバーの意識にもね。サターン・リターンは占星学的な現象で、土星が自分が生まれた時の位置に戻ってくると――大体30年に一度なんだけど――変化が起きるっていう」

ジャック・フラナガン(以下、ジャック)「あれ? 26年に一度じゃなかった?」

ブレイン「26年から29年だね。だから、ほとんどの人にとって人生で三度、もしくは二度起きる。その度に大きな変化が起きるんだ。で、僕は、30歳になろうとする時期に何が起きるんだろう?って考え始めたんだよ。と同時に、周りの友達が経験しつつある変化を見るようになった。子供が生まれたり、仕事に対して真剣になりはじめたり……」

ジャック「それとは逆方向に向かう連中もいたしね。さらに無茶になった奴らがいたり(笑)」

ブレイン「そう、酒浸りになったり。で、思ったんだよ、『この年齢の頃、両親はどうだったんだろう?』って。だから、“1985”っていう曲は、僕自身が両親の立場になって書いた曲なんだ。コーラスの『僕らは星の巡りの悪い恋人たち(star-crossed lovers)の目の中の、一瞬の輝きにすぎなかった』っていうラインは、ある意味、僕の年齢の父母と、僕自身を並列させてるんだ。うん、あの曲は“意識におけるシフト”をリプリゼントしてると思う。僕にとってあの曲は20代への別れであり、無茶なファックト・アップへのさよならなんだよ(笑)」

ジャック「(笑)」

●で、タイトルになってる1985年っていうのはあなたの生まれた年?

ブレイン「うん、そういうこと」

●ただ別な視点として、このアルバムがあなたたち自身がサターン・リターンを受け入れる作品であると同時に、同じ時代に生きてる人たちが何かしらの変化の局面を迎えてる、っていうレイヤーもある気がしたんだけど。

ブレイン「そうだな……もうひとつ、今の話に加えて話すべき曲がアルバムの最終曲“ジ・エンド・アップ”だと思う。ウィリアムが書いた曲なんだけど。彼は今に至るまでの人生で出会ってきた人たちすべてをスナップショットみたいに並べて、重厚なタペストリーみたいに表現してるんだ。すごく美しく表現してる。このアルバムには何人かのキャラクターが出てくる。ほとんどそれとはわからないようなキャラクターなんだけど、でも、はっきりと語ってるんだよ。彼らはこれまで僕らが知り合ってきた人たちで、ある意味、“ジ・エンド・アップ”ではウィルが僕が“1985”で言ったのと同じことを言ってるんだ。つまり、ひとつのチャプターを締めくくって、新しいチャプターを始めてるんだよね」

●では、そういった新しい章の始まりと、それに対する不安や恐怖に対して、あなたがこのアルバムを作っている時に出会ったスチュワート・ブランドの『ホール・アース・カタログ』はどういう影響を与えたのか? それについて教えて下さい。

Whole Earth Catalog Special Talk Night


ブレイン「要するに、『ホール・アース・カタログ』はスプリングボード(踏切板、出発点、契機)になったんだよね。何よりもあのイメージ、それから全体的な思想や生き方へのガイドっていう、あの本のイーソスが大きかった。だから、実際に書かれてることよりも、あの本の存在が僕ら全員に――特にソングライティングに影響を与えたんだ。僕ら、ある意味、あの本に取り憑かれて、オブセッションみたいになった。このアルバムのアートワークにも影響したし……とにかくすごい本なんだよね」

●その影響について、より具体的に言うと?

ブレイン「まずはアルバムのイメージに影響した。これまでの僕らのほとんどのアルバムのカヴァーには僕らが写ってる。でも今回のアルバムのカバーはもっとグラフィックにしたかったんだ。僕らの写真にはしたくなかった。だから、アート・ディレクターと話して――友達のギャリー・バーバーなんだけど――彼がこのイメージをプレゼンしてきたんだよ。彼とは『ホール・アース・カタログ』の話をしたり、アルバムのテーマについて話したりしてたんだけど、ある日、彼が突然このイメージを僕らの前にドンと置いたんだ。『これどう?』って」

ジャック「で、僕ら、『それだ!』って(笑)」

ブレイン「みんなブッ飛んだんだよ。地球がこんな風に提示されてるのを見たことなくて。最初はまるでネオンっていうか、ストリップライトみたいだと思った。こんなにシンプルな地球の表現は初めてだった。まさに光線なんだよね。あと、このイメージのもう一つのレファレンスはジャックから出てきたんだ。曲を書いてた時、僕らオックスフォードにあるジャックのお母さんの家で新曲を書こうとしてて。その時にジャックが『ペイル・ブルー・ドットって知ってる?』って訊いてきたんだよ」

ジャック「その言葉って、カール・セーガンが同名の本で語ったことなんだけど。僕は最初、子どもの頃にそれを聞いて、それで僕の地球に対するパースペクティヴが決まったっていうか。宇宙に比べて、地球って本当に小さな点にすぎないんだよね。ポッと浮かんでる、ホントちっぽけな淡い青の点なんだ」

ブレイン「僕はこのイメージを見て、すぐそれを連想した」

ジャック「その話をした時には、それがこのレコードに関わってくるなんて思いもしてなかったんだけど。とにかくすごい本だから。必ずブッ飛飛ばされるはず(笑)」

ブレイン「実は、僕らが作った曲には、“ペイル・ブルー・ドット”っていう曲もあったんだけど、最終的にはアルバムには入らなかった。この『カーヴ・オブ・ジ・アース』っていうアルバムの後ろには、山ほどボツになった曲の骨格があるんだ」

ジャック「曲の死骸だね(笑)」

●じゃあ、アルバム自体のテーマやリリックに対する『ホール・アース・カタログ』からの影響については?

ブレイン「勿論、ある。僕にとって『ホール・アース・カタログ』からの最大の影響は歌詞においてなんだ。多分、歌詞において僕らが『ホール・アース・カタログ』から取り込んだのは、スケールっていうアイデアだと思う」

●スケール?

ブレイン「例えば、“テロメア”はDMAについて語ってる。つまり、人間の本質についてだね」

Mystery Jets / Telomere

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ブレイン「“ジ・エンド・アップ”は友達がみんな大人になること、個人的な関係、恋に落ちることについて。さっきも話した通り、“1985”は父母について語ってるし、“テイクン・バイ・ザ・タイド”は友達を失うことについてなんだ。つまり、どれもすごくパーソナルなテーマなんだけど、あまりにもそういうことに気を取られたりしすぎると、周りで起きてることが見えなかったりするよね?」

●わかります。周りが見えなくなって、より問題がこじれたりする。

ブレイン「だからこそ、ズームアウトする必要があったりする。で、どんどん遠く離れて、友達の顔や自分の問題が見えなくなるところまでくると、文字通り地上から離れて、抽象的な視点にたどり着く。そこからまたズームインすると、突然、全部がまた興味深く見えてくるんだ。一旦離れて、戻ってくるとね。わかる? 僕にとっては、そうした視点こそが『ホール・アース・カタログ』のグレイトなところなんだよ。それが歌詞のスプリングボードになった。3年もかけて(笑)、なんとか自分たちが書こうとしてたことを明確にしてくれたんだ」

Mystery Jets / Curve of the Earth Trailer

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●じゃあ、具体的に個々のリリックについても訊かせて下さい。

ブレイン「いいよ」

●“ボンベイ・ブルー”はボンベイ(ムンバイ)っていう地名やマハラシュトラっていう州名も出てくるし、何かしら不穏なこと、悲劇について語られてる。これというのは、ムンバイでの同時多発テロとは何か関係してるんですか?

ジャック「いい質問だな。でも、実際は、ブレインの個人的な体験についての曲なんだ」

ブレイン「うん、すごくいい質問だ。ジャックがバンドに加わる直前の話なんだけど、僕ら、ツアーの合間にインドを旅してたんだよ。で、ある晩、僕とウィリアムがムンバイのホステルに泊まってた時、いろいろ話しながら、外でタバコ吸ってたんだよね。音楽について、ちょうどリリースされようとしてた『ラッドランズ』について、それから――この言い方は好きじゃないんだけど――“第一世界の問題(First world problems)”について話してた。イギリスには“先進国の贅沢な悩み”っていう表現があるんだ。ひどい言い方だけど、ある意味、とても的確なんだよんね。だって、その時の僕らときたら、『あの曲のギターのサウンドはよくない』とか、『あの曲のヴォーカルは、ああすればよかった』とか愚痴ってたんだからね(笑)」

●(笑)確かに贅沢な悩みですね。

ブレイン「で、ふと見ると、ホステルの外の路上で家族が眠ってた。1歳か2歳くらいの小さな子供たちのいる家族で、みんな路上で暮らしてた。それに僕はものすごく動揺して、家に戻った時に……ホント何も考えもせずに日記をパラパラめくってると、自然にこの歌詞が出てきたんだよ。実は“ボンベイ・ブルー”っていうタイトルはずっと前から頭にあって。ボンベイ・サファイアっていう名前のジンがあるんだけど、僕はジンが好きで、青い瓶を見ながら『ボンベイ・ブルーって曲のタイトルにぴったりだな』ってずっと思ってた。だから、この曲が出来てきた時にすごくしっくりきたんだ。つまり、“ボンベイ・ブルー”は必ずしも政治的なイシューに対してのコメントではないんだけど、むしろ時事的なことへのコメントっていうか」

ジャック「ブレインの代わりに僕が言うのも変だけど、この曲は、ある状況について感じる無力感についてなんじゃないかな。例えば、何かの足しにしてもらいたくて、彼らにお金をあげたとしても、向こうからしたら『これで何が変わる?』ってことかもしれないし。彼らの生活を何も変えられないことに対しての自分自身のフラストレーションっていうか。あまりに問題が大きすぎて。例えば、千ポンド渡したってそれでも足りないだろ?」

ブレイン「だって、その向こうの角にはまた別の家族がいるんだからね。だから、あれは人類全体を自分は助けることは出来ない、全員を自分は助けられないんだっていう気持ちについてなんだ」

●この曲の「How love became enemy」――つまり、「どんな風に愛は敵に変わるのか?」っていうラインがどこから出てきたか、教えてもらえますか?

ブレイン「うーん……(笑)。ちょっと歌ってみるね(鼻歌を歌う)。そうだ、ムンバイのタクシーの運転手か誰かに、こう言ったのを覚えてる。『もっとお金をあげればよかった、別の人にもあげればよかった』って。すると、その運転手が『人にお金をあげたって仕方ない、ちょっとした助けにはなるかもしれないけど、長い目で見ると問題解決にはならない』って答えてきてさ。僕、彼にそう言われた時、ものすごくイライラしたのを覚えてるんだ。だから、その時に感じたことから出てきたラインだね。まあ、あまり歌詞を具体的に説明したくはないんだけど」

●じゃあ、もう一つだけ。“バブルガム”にも“テロメア”にも、どちらの曲にも「splinter(分裂する)」と「divide(分断させる)」っていう動詞が出てくる。

ブレイン「興味深いよね(笑)」

●これは偶然? それぞれ別の文脈で使ってるんですか? 今作を語る上では、とても重要なキーワードって気がしたんだけど。

ブレイン「うん。書いてて自分で気付いたのは……ほとんど意識の流れのままに書いてたんだよ。僕、ずっと歌詞を延々書き付けてるんだけど、その中の言葉が最終的にそれぞれの曲の歌詞になっていった。過去にはそういうやり方じゃなかったんだ。別々の紙にそれぞれの歌詞を書いて、『これはこれ』みたいな感じだった。でも、今回は全部の曲がスクランブルされて、ひとつになってたような感じで。ある意味、イカレてたんだけど(笑)。で、“バブルガム”と“テロメア”は同じ日に書いたんだ。あの日は歌詞が飛び交ってたのを覚えてる。あるラインがしばらくはこっちの曲だったのが、あっちの曲に移ったりして。だから、作曲のプロセス上、まあ、同じ言葉が両方の曲に残っちゃったのは、ミスとも言えるんだけど(笑)」

ジャック「(笑)」

ブレイン「言わなきゃよかった(笑)」

●多分、どの曲のリリックもすごくパーソナルなところから出てきた言葉だと思うんだけど、ただ今の世界を見渡すと、いろんな場所に溝ができてる。「splinter」と「divide」が蔓延してる。だから、パーソナルな文脈とはまた別の、社会的なコンテクストにも当てはめられることが出来るのが、本作のリリックの特徴だと思ったんだよね。

ジャック「違うのはスケールだと思う。このレコード全体には、スケールっていうテーマがあるんだ」

●つまり、対象に対して離れるのか近づくのか、どんな距離を置いて見るかによって見え方が違ってくるってことだよね?

ジャック「このレコードはいろんなスケールを巡って作られてると思う。“テロメア”は体の中の細胞の分裂について語ってる。で、“バブルガム”では、もうちょっと世界っていうか、分断を超えてみんなが一つになる、みたいな」

ブレイン「うん、確かにスケールの違いもある。でも、面白いのは、同時に“バブルガム”はむしろ個人的な関係についてなんだよね。恋人か誰かが、『離れよう、別々の場所に行こう』って言ってるような。それは世界の違う側、もしくは、町の向こう側かもしれない。ウェスト・サイドとイースト・サイドとか」

●じゃあ、今回のアルバム全体に戻ります。これほどあなたたちがサウンドをガラリと変えて、なおかつトータルなアルバムを作ったのは初めてだよね? すごくハイ・リスクな選択だったと思う。そこまでのリスクを冒したのは、最初に話したサターン・リターンを受け入れる覚悟と直接的に関わっているとは思う。でも、それだけじゃないですよね?

ジャック「うん、いくつか理由があると思う。ひとつには僕ら自身のスタジオを持ったこと。だから、存分に時間がかけられたし。でも、僕はあんまり変化については話せないな。何よりも僕自身が変化のひとつだから(笑)」

Hares / Your Kind of Guy

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ブレイン「いや、実際のところ、本当にジャックは大きな理由のひとつだよ。一つ前のアルバムでは……あれを作るのはすごく楽しかったし、僕の心の中にある一枚ではあるんだけど、あの時のクリエイティヴなプロセスはとにかくメチャクチャだった(笑)。ライヴとかを含めて、何度もメンバーが変わったし、すごく断片的だったんだ。アルバム制作時にも、僕らの間でコミュニケーションがなくて。でも、今回のアルバムに関しては、僕ら自身、このレコードを呼吸して、生きたような感じだった。これまでの中でも一番ね。ジャックが言ったように僕ら自身のスペースがあったから、本当に毎日一緒に過ごしたんだ。みんな同じ服を着て――今でもそうなんだけど(笑)――着けるコロンも一緒だったし、同じベッドで寝る夜もあった」

ジャック「うん。僕、基本的にバンドの三人と一緒に過ごしてない日がここ2年間、まったくないんだよ(笑)。クレイジーだよね。まるで『フレンズ』に出演してるみたい(笑)」

ブレイン「(笑)だからこそ、このレコードはそれを反映したサウンドになってる。だからこそ、君がそういう印象を抱いたのはすごくグレイトだね。だって、これは2年間の本当に強烈な時間の中で、強烈な環境下で書かれたレコードだから。どのレコードよりも、5人の人間が“一緒に時間を過ごしすぎた”サウンドになってると思う」

ジャック「だね(笑)」




ミステリー・ジェッツ interview : 後編
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