SIGN OF THE DAY

この2016年の夏、〈サマーソニック〉で
レディオヘッドを観ておかないと絶対に
後悔する10の理由 part1-総論編
by SOICHIRO TANAKA May 27, 2016
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この2016年の夏、〈サマーソニック〉で<br />
レディオヘッドを観ておかないと絶対に<br />
後悔する10の理由 part1-総論編

さすがに2016年夏のレディオヘッドだけは観ておかねばならない。「大型イヴェントじゃなく単独公演で観たいよ!」、「てか、まだレディオヘッドとか言ってんの? さすがにもういいんじゃない?」といった声が聞こえてきそうですが、こうしたすべては一刀両断に論破したい。これが本稿の主旨です。

ただ、2011年の9thアルバム『ザ・キング・オブ・リムス』以降、その前後のアトムス・フォー・ピースの作品/活動やトム・ヨークのソロ・ワークにしか接することの出来なかったここ数年、正直、レディオヘッドに対する興味がかなり目減りしていたことは告白しておかねばなりません。これは筆者の個人的な感慨というよりは、世界的かつ一般的な見解でもあるでしょう。

しかし、それは勿論、彼らが90年代後半からずっと世界一のバンドであり続けてきた、ほぼすべての新作が最高傑作であり続けてきた、という前提があってのこと。世の凡百のバンドの作品に比べれば、2003年の『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』にしろ、『ザ・キング・オブ・リムス』にしろ、勿論のこと、ポップ史における金字塔であるのは言うまでもありません。

そして、昨年2015年のクリスマス当日、当初はボンド映画『007 スペクター』のテーマソングとして依頼されていながら、何かしらの理由によってボツにされてしまった“スペクター”がネット上に突然公開されるやいなや、世界中が浮き足立ちました。

Radiohead / Spectre


これを機に新作に対する期待はうなぎ登り。今度の新作は絶対に間違いない。そして、期待以上のアルバム『ア・ムーン・シェイプド・プール』が上がってきたことはもう既にご存知のことでしょう。読者の皆さんにはホントどーでもいいことでしょうが、また再びレディオヘッドというバンドの存在、その作品に興奮している自分を発見することが本当に嬉しいのです。

いずれにせよ、2016年のレディオヘッドは何度かの全盛期に勝るとも劣らないクリエイティヴィティの高まりを有している。むしろそれは作品そのものよりも、このツアーで証明されることでしょう。これまでの彼らの新作のリリース、あるいは、ツアーにリアルタイムで立ち合うことの出来なかった若い読者の皆さん、もう何ひとつ悔しがる理由はありません。この2016年、あなたは最高の機会に立ち合っているのです。

そんなわけで、本稿では、この2016年の夏、〈サマーソニック〉でレディオヘッドを観ておかないと絶対に後悔する10の理由を、総論編とセットリスト編の前後編に分けつつ、ご説明したいと思います。




1. このライヴが日本での「最後のライヴの可能性」もあるから

いきなり脅しですいません。しかし、2016年の今のタイミングだからこそ記しておきたいことがあります。

おそらくこの数年の間に日本というマーケットは世界的に完全に孤立しました。実際、欧米の作家がアジア諸国にツアーをしても日本には立寄らない。中国や韓国でのギグが何かしらの理由でキャンセルになった場合は日本のツアーも自動的にキャンセルになる。というケースが頻繁になってきた。ここ5年の間、すっかり「日本飛ばし」という現象が当たり前になったのです。

もっともテイラー・スフィストに代表されるアリーナ/スタジアム・クラスでの興業が可能なメガ・ポップ・アーティストのツアーはいまだ行われているし、逆に100人クラスの小さなヴェニューで海外のインディ・バンドを観る機会はむしろ増えています。ただ夏フェスや〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉のようなイヴェントの出演を除けば、全体的に欧米アーティストの単独ツアーは激減。こうした事実は、世界における日本という市場の孤立化をもっとも端的に物語っています。これはアリーナ・クラスの動員が見込める作家でないと日本ツアーが実現することのなかった70年代の日本にもどこか似た状況と言えるかもしれません。

ただ、70年代と決定的に違っているのは、日本以外のアジア諸国には、欧米のポップ音楽を受け入れるマーケットが日本よりも遥かに存在しているということ。今年2016年の春にボン・イヴェール来日公演は、あらかじめどうしてもアジア・ツアーをしたいという彼自身のアイデアがあったからこそ実現しました。そのおこぼれとして日本を組み込むことが出来た。ただ残念なことに大阪公演は決してフルハウスとは言いがたい集客でした。

また、ここ3年の間、すべてのツアーをソールドアウトさせてきたテーム・インパラが唯一ソールドアウトすることが出来なかったのが、この2016年の大阪公演。方や、香港やシンガポール、クアラルンプールといったアジア諸国の都市ではソールドアウト。大阪近郊の皆さんを責めているわけではありません。ただ、こうした実績がこれから先、欧米の作家が日本でツアーをすることをさらに困難にさせていくに違いない。と同時に、欧米だけでなくアジア諸国でも大規模なイヴェント/フェスティヴァルの開催は軒並み増えている。それゆえ、おそらくこうした現象はさらに加速していく。どうにも抜け出すことが出来ないダウン・スパイラルです。

勿論これはゼロ年代初頭から続いてきた、日本というマーケットが選んだ「ポップ音楽の鎖国化」が一番の原因なわけですが、こんな風に言うと、またぞろ前世紀の洋楽至上主義がーとか、洋楽コンプレックスがーなどとほざく間抜けが湧いてきたりもするかもしれない。ただ、選択肢がいくつもあること、可能性が開かれていることほど大切なことはない。ただ単にそういう話です。

そうした状況を鑑みるに、もしかすると、今回のレディオヘッドの来日公演は最後になるかもしれない。お、いきなり脅しから来たか、低俗だな。と思われても仕方ありませんが、実際、そんな悲観も頭をよぎるような現状が今なんです。

新作『ア・ムーン・シェイプド・プール』タイミングの日本でのライヴはおそらくこの機会だけ。〈サマーソニック〉の後、レディオヘッドの単独日本ツアーは特に予定されていません。まあ、移り気な彼らのことですから、わかりませんけどね。

ただ、今回のツアーのレディオヘッドは少しばかり変なんです。詳しくは後述しますが、どこか有終の美を飾るかのようなキャリアすべてを包括するセットリストのライヴを行っている。いや、これは第二弾の脅しとして、彼らの解散の可能性を示唆しているわけではありません。

ただ、ここ10年の彼らの活動を見る限り、次、いつアルバムを出すかはわからない。まあ、そこもわかりませんけどね。ファンを驚かせることにかけては彼らの右に出るバンドはいませんから。実は既にもう1枚アルバムを完成させているかもしれない。ははは。

いずれにせよ、新作『ア・ムーン・シェイプド・プール』のモードの彼らのステージを堪能出来るのは、おそらくこの機会限りかもしれないのです。



2. 新作『ア・ムーン・シェイプド・プール』が圧倒的に素晴らしいから

新作については早く書きたいが事情がそれを許さない。こちらの原稿でもちらりと触れはしましたが、この作品を位置付けるにはいまだ謎が多すぎる。

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そこをきちんと書かないと、本当は説得力ないんですけどね、この原稿。ただひとつだけ記しておきましょう。『ア・ムーン・シェイプド・プール』は、2000年の『キッドA』同様、このアルバムでエド・オブライエンとフィル・セルウェイは結局、何をしていたんだろう? レコーディング中の彼ら二人の心境たるや、相当に忸怩たるものがあったに違いない――そんな不安を感じさせてしまう作品です。ただ、そうした作品こそが必ず傑作になる、というレディオヘッド特有の法則があります。

Radiohead / Daydreaming


そうした軋轢と融和を行き来する中で、メンバー5人の最大のクリエイティヴィティが発揮されてしまった。『ア・ムーン・シェイプド・プール』はそんな作品でもあります。個々のメンバーのソロ・ワークでは決して起こらない、この5人が揃った時にしか想像以上のケミストリーは起こらないことを証明した傑作です。

そして勿論、今回のツアーは最新作からの楽曲を軸においたものになります。その作家が今も全盛期と変わらぬアクチュアリティを持った現役のアーティストかどうかを判断するには、その作家の最新作のツアーでのセットリストをチェックすること。80年代半ば以降のローリング・ストーンズしかり、ある時期からのオアシスしかり、ステージ・パフォーマンスが何かしらのアートではなく、ファン・サービスの装置になってしまった作家のセットリストは誰もが知っている大ヒット曲が中心になってしまいます。勿論、体験としては楽しい。でも、やはりそれはアートではなく、単なるスペクタクルに過ぎないのです。

2016年春のボブ・ディランの来日公演が示す通り、現役の作家というのはファンの期待に応えることなど知ったこっちゃない。だって、誰もが知ってるだろう曲は2、3曲。最近のアルバムがカヴァー集だったとは言え、果たして自分の曲、何曲やったんだ?という具合。偉い。偉すぎる。自分がやりたいことをやる。今しかやれないことをやる。それでいながら、観客の期待を越えた驚きと感動を与えてしまう。ディランが今も現役アーティストであることを示す理由もここにあります。

今回の『ア・ムーン・シェイプド・プール』ツアーは5月20日のアムステルダム公演から既に開始されています。現時点までの5公演において既に新作収録曲11曲の内、10曲が演奏されています。しかも、なるほど、こういう並びで聴かせるのか!というセットリスト。間違いない。これを観ずには死ねないのです。



3. レディオヘッドは現存する「最高峰のライヴ・バンド」だから

もしかすると、レディオヘッド諸作品に対するあまりに高すぎる世界的な評価から、彼らのことをスタジオ・レコーディングにのみ長けた作家だと勘違いしている方もいるかもしれない。しかし、困ったことに、彼らは現存する世界最高峰のライヴ・バンドのひとつでもあります。かつてのビートルズやマイルス、ディランがそうであったように。

レディオヘッドというバンドはグリーンウッド兄弟を除けば決して卓越した演奏家の集まりではない。だが、それぞれの演奏家としてのクセや長所、短所といった個性のすべてを味方につけたアンサンブル。これが凄い。静と動の緩急。ダイナミック・レンジの広さ。彼らの演奏を目の前にしていると、「うひょー、すげー」という声が思わず漏れてしまう胸の透くような瞬間が何度もあります。

それは楽曲の感情的なトーンに呼び起こされた感情的な動き――何かしらの共感に支えられた感動とは違う体験です。サグラダ・ファミリアやピラミッドのような壮大で緻密な建造物を目にした時のような心の動きです。

そして、緻密さとスポンティニアスさの奇跡的な融合。これは長年の間、不動の5人のメンバーによって構成される「バンド」であることにこだわりぬいた結果です。これだけはどんな偉大なソロ・アーティストにも、くるりやプライマル・スクリーム、ceroのようなフレキシブルなメンバー構成を持ったバンドにも生み出すことは出来ない。

特に、これまで彼らのライヴに一度も接したことのない若い読者に言っておきたい。死ぬまでに絶対に一度は観ておいた方がいい。勿論、この2016年には、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのような偉大なライヴ・バンドもいるにはいる。だが、彼らは4ピースのコンボ・スタイルのバンド演奏という制約の中からいかに優れた音楽を生み出すことが出来るかに挑戦している、いわゆる「ロック・バンド」。勿論、それだけで十二分に偉大なことです。

しかし、ポップ音楽だけでなく、あらゆるジャンルを横断し、音楽そのものの可能性を貪欲に追求し続けながら、しかも、同時に、「これこそがバンドなんだ」ということを感じさせてくれる作家はやはりレディオヘッドしかいない。今も昔も。本当に唯一無二。

しかも、彼らの場合、ここ15年、聴覚だけでなく、視覚に訴えるライヴの現場でのステージセットやライティングにおいても常に新しいデザインやアイデア、システムを追求してきた。特にライティング・デザインに関しては、世界中のどんなポップ・アーティストのステージを観ても、2000年の『キッドA』ツアー以降の彼らのデザイニングやアイデアに何かしら恩恵を受けているのがわかる。

Radiohead / live at Glastonbury 2003 (full show)


もうひとつ重要なことは、彼らのステージ・デザインは絶対にこけおどしのスペクタクル演出はしない。飽くまで音楽が主。決してそれを損ねることのない洗練と礼節があります。時にU2が間違いを犯してしまうように新しいテクノロジーや音楽以外のコンセプトやメッセージに過剰に振りまわされることもない。そうしたすべてが世界最高峰のライヴ・バンドとしての彼らのポテンショルを十二分に引き出す。それがレディオヘッドのライヴです。是非、その事実を体験として理解して欲しい。

次の項目では、彼らのそんな「ライヴ・バンドであること」のこだわりについても触れておきましょう。



4. 2011年以来の「最強の6人態勢」での演奏だから

数年前までのレディオヘッドは頑なに5人のオリジナル・メンバーでのみステージに登ることを自らに課してきたバンドです。2000年のアルバム『キッドA』以降、加速度的に拡がり続けてきた音楽性の拡がりからすれば、彼らのロールモデルのひとつでもある80年の『リメイン・イン・ライト』~83年の『スピーキング・イン・タングス』期のトーキング・ヘッズのように多くのアディショナル・メンバーを迎えて、演奏した方がいいに決まっている。

Talking Heads / Stop Making Sense (1983)


もっともアルバムの音を再現するために、ごく当たり前のようにステージ後方にキーボディスト奏者がいたりするロック・バンドの姿に我々はすっかり慣れてしまいました。しかし、ザ・フーしかり、レッド・ツエッペリンしかり、クラッシュしかり、どれだけ演奏やアンサンブルが心もとなくとも、メンバーだけでバンドがステージに登る姿というのは何かしらの感動を誘うもの。それはどんな極端な音楽至上主義者にも否定出来ないことのひとつでしょう。

The Clash / Magnificent Seven (Tom Synder Show 1981)


例えば、音楽的な完成度を考えれば、再結成後のストーン・ローゼスなんてメンバー全員を総入れ替えした方がいいに決まってる。気がつけば、22年も待たせられた待望の新曲“オール・フォー・ワン”なんて、あの調性破壊マシーンと呼ばれていたイアン・ブラウンがもっともきちんとしていたぐらいですから。♬ホワッツ・ゴーイン・オン? とはこのこと。

The Stone Roses / All For One


だが、しかし、誰一人として心もとない演奏しか出来ない4人がステージ上に居並ぶ姿こそが観たい。ですよね? しかも、我々の多くは制約こそが奇跡を呼び込む最大のポイントでもあることを知っています。それに比べると、『ミュージック・ステーション』辺りで弦楽を従えたロック・バンドの節度と礼節のなさときたら。「マジなんなの? お前らが弾いてる音より他の誰かが鳴らしてる音の方が多いじゃん。どこで鳴ってんだよ、もう一本のギターと鍵盤?」などと思ってしまう心の狭い方もいるかもしれません。お気持ちは察します。でも、もはやそうした価値観は失われつつある。

しかし、レディオヘッドというバンドは、そうしたごく当たり前の節度と礼節を頑なに守ってきた。そんな彼らでさえ、前回の『キング・オブ・リムス』ツアーでは、そうした掟を破るという英断に踏み切りました。現在のレディオヘッドの音楽性において、一般的なポップ音楽の基準からすれば、かなり複雑怪奇なリズムを司るパーカッションの存在は何よりも重要。『ザ・キング・オブ・リムス』ツアー以降、それまでもポーティスヘッドをサポートしてきたドラマー/パーカッショニスト、クレイヴ・ディーマーがステージ・メンバーとして参加したことは必然とも言えます。おそらくこの映像を観てもらえば、それも納得でしょう。

Radiohead / Bloom (live From the Basement)


実際、メンバーを増やすことによって、正確さよりもむしろリズムの揺らぎの面白さが強調されている。鍵盤入れてサウンドの幅を広げましたよん。という凡百のバンドの安易な発想とはまったく違っている。これまでの彼らが機械によるシーケンスを鳴らす際にも、コンピューターで起動させたソフトウェアだけでなく、モーグやARPを筆頭にモジュラー型のアナログ・システムを多用してきたのも、そのサウンドだけが理由ではありません。使い勝手が悪く、安定性にも欠けることを逆手に取り、そこからスポンティニアスな偶然を引き出そうとしてきた。つまり、彼らは徹底的に「ライヴ」であることにこだわっているバンドなのです。

今回のツアーは、前回同様、クレイヴ・ディーマーを加えた最強の6人編成。これは絶対に間違いない。では、彼らがそんなに「バンドであること」にこだわっている作家だとするなら、印象的なストリングスのリフが軸になった新作1曲目の“バーン・ザ・ウィッチ”はどんな風に演奏するんだろう? そんな疑問を持つ方もいることと思います。これに関してはお楽しみにしておきましょう。ただ一言。やっぱりバンドって最高だな、そう思わせる演奏です。

Radiohead / Burn The Witch




5. やっぱり各メンバーのソロやアトムス・フォー・ピースよりもレディオヘッドが飛び抜けているから

この項目の文章は少しばかり不機嫌です。ファンの気持ちを不必要に逆なでするようなことばかり書いている。なので、特に熱狂的なトム・トーク・ファンの方は読まない方がいい。最初にそうお断りしておきます。

例えば、昨年2015年の〈ホステス・クラブ・オールナイター〉における集客について考えてみましょう。それぞれが上梓した作品を聴きさえすれば、どう考えてもトム・ヨークのパフォーマンスより、マシュー・ハーバートやジョン・ホプキンスのパフォーマンスの方が刺激的かつ素晴らしいに決まっている。しかし、彼らが演奏した際にフィールドを埋めた観客の数はむしろその逆でした。

これはあまりに不可解。筆者の理性からすればかなり受け入れがたい『音楽と人』という名前を持った雑誌があるそうですが、結局、誰も音楽などは聴いていないのか? 結局、ポップ産業はアイコン商売なのか? どなたかこの中で作品について訊いて下さる方はいらっしゃらないのですか? と感情を押し殺して呟きたくなってしまうような現実があります。

例えば、2010年の〈フジ・ロック〉におけるアトムス・フォー・ピース。同じ時間に〈ホワイト・ステージ〉のトリを飾ったLCDサウンドシステムを差し置いて、あれほどの観客を集めるようなパフォーマンスだったでしょうか。正直、理解に苦しむ。フリーを筆頭に素晴らしい演奏家揃いだったかもしれない。でも、バンドとして、あるいは、演奏された楽曲の粒の揃い具合として、どちらが圧倒的だったでしょうか。百歩譲ってトム・ヨークやアトムス・フォー・ピースの力量と素晴らしさを認めたとしても、やはりレディオヘッドの5人が揃った時には、どちらもその足下にも及ばないのは絶対的な事実です。

その差は何か? やはりそれは30年近い苦渋を共にし、何度も解散の危機を乗り越え、それでもひとつの目的を果たすべく邁進してきたバンドとしての経験値と結束力、阿吽の呼吸。そして、今なお消えることのないメンバー間の緊張感です。そうした視点からすれば、どれだけ逆立ちしても、アトムス・フォー・ピースはチリ・ペッパーズにもレディオヘッドにもベック・バンドにも勝てない。それはもう仕方がない。読者の皆さんの幸福な記憶に水を差すことを承知の上で言えば、今年の夏にこそ、それを越える体験が待っているはずなのです。



6. 2003年の〈サマーソニック〉が伝説的なライヴだったから

長年封印されてきた“クリープ”をアンコールで演奏したという誰もが予期しなかった事件も相まって、2003年の〈サマーソニック〉でのレディオヘッドのライヴは、世界的にも伝説的なパフォーマンスのひとつとして記憶されています。ただ結果的にそうなった最大の理由は、この日スタジアムを埋めた万雷のオーディエンスの力にこそあります。決してバンドだけの力ではない。

そもそもレディオヘッドというバンド、実は決してメンタルは強くない。ライヴ当日のコンディションによっては大失敗をやらかしてしまうバンドでもあります。

例えば、2001年10月の『アムニージアック』ツアーにおける武道館公演。その後、初披露から21年、遂に新作『ア・ムーン・シェイプド・プール』にスタジオ・テイクが収録された“トゥルー・ラヴ・ウェイツ”がこの日のアンコールでは演奏されるというサプライズもあったものの、開始から終演までボタンが掛け違ったまま、1曲たりとも彼らのバンドとしての真価が発揮されることのなかった散々なライヴでした。その理由は、その日が業界人の招待日であり、物見遊山の冷めた好奇の視線に囲まれていたとも無縁ではありません。レディオヘッドというバンドは、オーディエンスの力の自らに取り込むことで、最大の力を発揮する典型的なバンドでもあります。

だからこそ、件の2003年の〈サマーソニック〉東京来場でのライヴは本当に素晴らしい内容でした。そのくらい、当日のフィールドを埋めた観客は素晴らしかった。

ところで、2003年の夏、あの現場にいた皆さん、覚えていらっしゃるでしょうか。ライヴ終了後、いくつもの花火がスタジアムに打ち上げられた時にフィールドに流れた曲を。

当時、筆者はてっきりこれが主催者であるクリエイティヴマン側の選曲だと思い込み、「粋なことやるなー」と思っていたのですが、どうやらこれはバンドが指定した曲だったらしいのです。

この日、大団円感溢れたスタジアムで大音量で流れた曲はカーリー・サイモンの“ノーバディ・ダズ・イット・ベター”。77年のボンド映画『007 私を愛したスパイ』のテーマソングです。と同時に、トム・ヨーク自身が「これまで書かれた曲の中でもっともセクシーな曲」と呼び、『ザ・ベンズ』期の彼らが時折ステージでカヴァーしてきた曲でもあります。

Radiohead / Nobody Does It Better


勿論、この曲のタイトルと歌詞は男女間のセクシャルな行為を匂わせるもの。ただ、この曲をバンドがその瞬間に鳴らすことを選んだのは、つまり、「ノーバディ・ダズ・イット・ベター」ーーその現場に居合わせたすべての観客に向けた「あなた達ほど素敵な人はいない」というメッセージだったのは言うまでもありません。事前に用意されたものとは言え、2003年の〈サマーソニック〉でのライヴがいかに特別な時間であったことと物語っている逸話だと言えるでしょう。

おそらくそうした実感は、メンバー的にも確実に幸福な記憶として刻まれているはずです。前述のようなバンドの特性からすれば、それが今年2016年の同じ場所でのパフォーマンスに対し、何かしらの形で予期せぬ奇跡的なケミストリーを引き起こさないはずがない。これもまた、今年夏の彼らのパフォーマンスに対する期待が高まる理由のひとつです。

では、後半のセットリスト編によって、この2016年の夏、〈サマーソニック〉でレディオヘッドを観ておかないと絶対に後悔することをさらに証明していきたいと思います。



この2016年の夏、〈サマーソニック〉で
レディオヘッドを観ておかないと絶対に
後悔する10の理由 part2-セットリスト編


初級コース:2016年夏のレディオヘッドを
120%楽しむために。事前に聴いておくべき
「現在のレディオヘッド」を代表する10曲


レディオヘッド『ア・ムーン・シェイプド・プール』合評


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