SIGN OF THE DAY

この2016年、男性シンガーが歌う、理想の
ラヴ・ソングって、どういう曲なんだろう?
シャムキャッツ夏目知幸と一緒に考えてみた
by SOICHIRO TANAKA August 26, 2016
この2016年、男性シンガーが歌う、理想の<br />
ラヴ・ソングって、どういう曲なんだろう?<br />
シャムキャッツ夏目知幸と一緒に考えてみた

夏目知幸単独インタヴューの露払いとして
シャムキャッツ新曲“マイガール”に猛烈に
触発された田中宗一郎が四千文字で語ります


この2016年夏に何故、新曲“マイガール”は
ラヴ・ソングなのか? 何故ロックなのか?
シャムキャッツ夏目知幸がその謎に答えます


シャムキャッツ夏目知幸と考えた。西野カナ、
小沢健二、サニーディ・サービス、嵐の
ラヴ・ソングと、“マイガール”はどう違う?



●すごく面白いなと思ったのは、“マイガール”が「精一杯そばにいること」を切り取った曲であるのに対し、同じく今回のシングルに収録されている“真冬のサーフライダー”のキャラクターは「ごめんよ/明日の朝にはいなくなる」って歌ってる。阿久悠が書いた沢田研二の曲みたいに。

沢田研二 / サムライ

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●そういう真逆のキャラクターを描いた曲がひとつのパッケージに入っている。これは偶然ですか、意図的ですか?

「ああ、勿論、意図的なんですけど」

●だよね?

「バレないかなと思ってた(笑)。これは、最初からどの曲も一人称で書こうとは思ってたんで、そこで作品性を広げるって考えると色んな奴がいた方がいいと思ってたから。あー、やだやだ(笑)」

●なんで? だからこそ、すごくいいと思ったけど。

「この曲は、新宿でパッと思いついたんですよね。思いついた時期は“マイガール”とほぼ一緒なんですけど。“マイガール”とは真逆で、とにかく『俺は孤独だ!』ってことが言いたかったんですね。『寂しい、ここにいたくない、誰か一緒にいてくれ!』って。でも、そこは言わなくてもいいかなと思ってた」

●隠しておきたいところだった?

「というか、最近、こういう心境の変化もあって。『TAKE CARE』とか、『AFTER HOURS』の頃は、俺とにかく、すごい説明したかったんですよ。曲とか、アルバムのことを知って欲しかった。こういう襞があるぜとか、こういう参考シーンもありますとか、もっと知ったらもっと楽しめますよってことを言いたかったんですけど、今は委ねちゃいたいっていう気持ちが本当はある。本当はね。今は機関、装置だから、求めるもの、求められているもの、やること、やんなきゃいけないこと――そこに入っていって、動くのが楽しい」

●じゃあ、ひどい質問していいですか? “マイガール”と“真冬のサーフライダー”のそれぞれのキャラクター、強いて言えば、どちらが2年前の夏目くんと、今の夏目くんに近いですか?

「うわあ、難しいなぁ。うーん……なんかどっちも今の自分に近い。と思います」

●じゃあ、ランダムにひどい質問続けます。夏目くんの中で、愛情っていうのは、感情の問題ですか? それとも意志の問題ですか?

「あー、なるほど。うーん、まあ、どっちもですけどねー。でも、意志じゃないですか?」

●俺もそう思うんだけど、でもそれって、女性が望む答えじゃない気もするよね。

「うん、多分そう」

●で、三つ目のひどい質問。“マイガール”と“真冬のサーフライダー”、それぞれが何かしらの恋愛感情を切り取っているとすれば、恋愛の意志の部分と感情の部分、それぞれどれくらいの比率で切り取った曲だと思いますか?

「う~ん、どうだろうなあ……。でも、どうでしょうね? 感情的になることって、どういう時にあるのかなぁ?」

●好きで好きでたまらないとか、会いたい会いたい、寝たい寝たい。

「ああ、そこかなあ。でもそれって、結構瞬間ですよね。うーん、どうでしょうね……。あんまり考えてはなかったけど、そう言われてみるとなあ。意志と感情ねえ。でも、何でも感情が最初ではありますよね」

●始まりは間違いなく感情なんだけど、でも、その後はむしろ意志の問題になってきたりする。ちょっと一般化しすぎかもしれないけど。

「うん、そうですね。それで合ってると思うし、これは人に言われて気付いたんですけど、“マイガール”って、見方によっては、セックスレスな時期の恋人たちの曲っていう風にも聴こえると思うんですよ。そういうイメージに固定されると、嫌ではあるんだけど」

●ファナティックな段階が終わった後の関係。

夏目「だから、意志の割合が強いっちゃ強いですよね。相手を信じているとかどうとか言ってるっていうのもそうだし。でも、セックスの話って、女性の方が好きじゃないですか。セックスレスだから浮気するだのどうのって、男はあんまり言わないでしょ。で、それが僕はちょっと嫌なんです。『しなくったっていいじゃん』っていうタイプなんです、実は。勿論するのは大好きだし、全然するけど。セックスするっていうのが、恋愛にとって一番大事なものだっていう考え方に対しては、僕は実は反対なんです」

●さっきの話題――今のシャムキャッツの曲が小沢健二と曽我部恵一/サニーデイ・サービス、その中間にいる感じがするっていうのは、今のアングルとも関わってるんです。小沢健二の愛って、やっぱり意志の比率がすごい強いとも思うんですよ。まあ、モテる男の最低限の条件のひとつですよね。実際にそうかどうかは別として、これから先もずっと愛し続けるってことを日々きちんとアピールし続けるっていう。でも、曽我部くんとか、サニーデイの曲における恋愛というのは、性愛だし、欲望だし、感情だし、すごく移り気で、刹那的。いつか消えてしまうかもしれないけれど、今この瞬間は猛烈に第三者を欲しているっていう本能的な部分に繋がってる。ある種の疫病のようなものとして意識されているところがある。

サニーデイ・サービス / パンチドランク・ラブソング

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サニーデイ・サービス / セツナ

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●で、自分にはそっちの方がしっくり来るんですよ。リアル。どちらがいい悪いって話じゃないんだけど、小沢健二の音楽を聴くと、ちょっとしんどくなる時がある。レディオヘッドと同じフォルダに入っている感じ。特にここ10年くらいは。いやいや、下半身で動きたいんですけどっていう。自分自身がビーガンになれないのと似てるんだけど、性的な衝動とか、攻撃本能とか、そういった欲望で起動することのダイナミズムというのは、勿論マイナスもあるんだけど、すごく大切なものだと思っていて。で、サニーデイの新作は久しぶりにそれが全開になってて最高だな。愛よりも欲望だよ。みたいな話。

「うんうん。その話へのちゃんとしたリアクションになってるかはどうかわからないけど、今ぱっと思いついたのはジョン・レノン。別の仕事でもう一回聴き返す機会があって、『ダブル・ファンタジー』を聴いたんですよ。で、“スターティング・オーヴァー”で始まるじゃないですか。あれって、『僕たち長く続けてきたけど、もう一回最初みたいに、また二人でどっか遠くへ行って楽しくやらない?』っていう空気じゃないですか」

John Lennon / Starting Over

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「それって、ものすごく中間のような気がしてて。もう一回っていうのは意志だけど、『最初みたいにさ』みたいなところが最高っていうか。結局、『君がいるだけで僕は元気になっちゃうし』みたいな、それくらいのバカさ。それが一番ちょうど良いのかなって感じがしてるんです」

●なるほど、なるほど。

「なんか、バカ度の違いっていうのはあると思ってて。オザケンだと、『このままずっと素敵な日々が続くんだよ』なんて、『お前、何言ってんだよ、バカじゃねぇの?』っていう話ではあるんだけど。その感じと、曽我部さんが言うところの『愛って何だ?』は背中合わせじゃないですか。だから、そのグラデーションがある中で、『俺はどういうとこなのかな?』っていうのは、すごく考えるところではある」

●この辺りの俺のめんどくさい視点っていうのは、今後も夏目くんがラヴ・ソングだったり、何かしらのエモーションを燃焼させて曲を書こうとする時に、何かしら問題意識として残っていくと思いますか?

「うん、そうだと思います。何ていうか、恋愛って、『どれくらい人に甘えていいか?』ってことなんだと思うんですよね。甘えるって、意志なのか感情なのか、よくわかんないじゃないですか。とにかく僕は甘える対象が欲しいんですよ(笑)。誰かに甘えていないと生きていけない。甘えるには意志が必要だろうし、でも、『好きだ好きだ、愛してる』って感情もないと、甘えさせてもらえないと思うんですよね。だから、寄りかかる誰かを探しているっていうか、そんな感じ。そういうラヴ・ソングを書きたいかも」

●ジョン・レノンでいうと、『ダブル・ファンタジー』の頃の、ジョン・レノンがオール・ヌードになって、蝉みたいな格好で、オノ・ヨーコを跨いでるっていう『ローリング・ストーン』誌に載った有名な写真。あれって、自分の弱さとか、ネガティヴな部分っていうのを全部曝け出したいっていうフィーリングでもあると思うんですね。で、それって、実は、普段はマッチョなふりをしてる人が抱えているフィーリングでもある。で、「男気」が一つの冠になる夏目くんの中には、そういう曝け出したいっていう感覚はあるんでしょうか?

「弱さを曝け出したいっていう気持ちはそんなにないかも。私、非常に弱い人間なんで、落下防止ネットみたいなものがないと、とことん下まで落ちてしまうんですよ。こんなこと言ったら、本当に女の子に怒られちゃうかもしれないけど、セーフティ・ネットなんですよね、僕にとっての大切な彼女とかって。だから、曝け出すわけじゃないけど、弱くなっちゃった時に、めちゃくちゃ弱くならなくて済むんです。だから、僕にとって甘えるっていうのはそういうことかな」

●これまでのシャムキャッツの曲の中で、異性に対する甘えって部分が描かれてる曲ってありますか?

「例えば、『たからじま』の“SUNNY”って曲とかは、『とにかく甘えたい、俺を受け止めて欲しい』っていう歌だったんですよ」

シャムキャッツ / SUNNY (from『たからじま』)

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「で、そういう感じで恋愛感情を描くっていうのは、わりと今までもやってきたことだったけど、これから自分たちでレーベル作ってやっていくってなった時に、もうちょっと強くないとダメだなって思ったし、俺はシンプルにもっと大人になりたいって思ったんですね。その時に、初めて『俺に甘えていいぜ』って曲を書きたくなったん。だから、“マイガール”はそういう曲。甘えさせてくれる誰かはずっと求めているけど、俺だってセーフティ・ネットだからっていう」

Major Lazer / Cold Water feat. Justin Bieber & MØ

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●一番はそこだよね。思いっきり「俺はお前を愛してる」なり、「俺がいるから、お前は大丈夫なんだ」っていうフィーリングは歌いたかったでしょ? それは“SUNNY”とかの時とはまったく違うものになってる。

「うん、まったく違う」

●では、最後に一つ。実際、夏目くんっていうキャラクターは男気が強い人なんだと思いますか?

「うん、強いんじゃないですか。そう思いますけどね。まあ、何が男気か分かんないから、何となくですけど。ライヴ終わって、フラっと外出たりすると、ライヴ直後なのに俺に恋愛の相談してくる男子とか、女子とかいるんですよ。僕に男気って言った子は、そういう現場とかを見て、『それって、あなたをそういう目線で見てるっていうことだから、それにリアクションするっていうのは大事なんじゃないの?』っていうようなことも言われたんですよ。昔、タナソウも、『ライヴで一番前にいるお客さんが自分に一番影響を与えたりするからね』って言ってたことがあったじゃないですか。そういうのも重なって、そういうことなら、『じゃあ、それやろうじゃん!』っていう。それも僕なりの男気の一つではあるし」

●じゃあ、来年に向けて、次のアルバムを作るという流れの中で、ラヴ・ソングっていうのはそれなりに重要な形式になりそうですか?

夏目「うん、何個かは入ると思う。その話とも繋がると僕は思うんですけど、脱構造主義というか。曲の構成、構造に縛られると、ちょっと袋小路に陥るような部分も見えてきて。策に溺れるっていうか。もうちょっと自分の気持ちを見てあげた時に、『ここ、揺れるんじゃないかな?』って思うメロディを拾ってきてあげるっていう作業を今してるんですけど。そうなると、自然と恋愛とかに寄るのかなって気はしてる」

●なるほど。

夏目「今までは、平熱の生活を送っている時に、ふっと香るもの、漂う雰囲気、空気感を表現したいっていう気持ちがあったんだけど。今は、例えば、夕方6時くらいにちょっと暗くなってきて、涼しい風がちょっと吹いてる時に、『あ、何かいいことありそうだな』っていう時の感じ? その感じをもっと引き延ばしてあげたいっていうか、もっとそれにゲインをかけてあげたいっていう気持ちが強いんで」

●日常にある、さりげないポジティヴなフィーリングの沸点を切り取って、さらにそれをオーヴァー・ドライヴさせてあげたい?

夏目「そうですそうです。なんか、こうトルクを上げたいっていうか。だから、以前はずっとローファイなロックやってきて、その後にポップに挑戦して、今度はハイファイなロックをやりたいんですよね」



シャムキャッツ interview
Director's cut edition part.1
始まりはアステカからの葉書


シャムキャッツ interview part.1
暮れていく夕日に幸せを感じる人にも
気持ちが沈んでいく人にも、優しさと
厳しさを届けるポップを目指して


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