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2021年
年間ベスト・アルバム 50
by YOSHIHARU KOBAYASHI
SOICHIRO TANAKA
December 28, 2021
2021年<br />
年間ベスト・アルバム 50

北米メインストリームがすべての中心だった2010年代は本格的に終わりを迎えた。ポップ・ミュージックが地域性や歴史性という制約から解放され、中心を欠いたまますべてが拡張し続ける2020年代が到来している。この喜ばしき混沌の中にポップという共通言語は如何に生まれ得るのか?

いよいよ北米メインストリームがすべての中心だった2010年代というディケイドが本格的に後景へと追いやられ、新たな時代のポップ音楽地図が再編されつつある。ひとまずは、2021年とはそのような一年だったと位置づけることが出来るだろう。

過去の年間ベストの記事を遡ってもらえばわかるように、ここ数年はあらゆるジャンルや地域や人種の音楽が北米メインストリームを舞台にダイナミックに混交するという2010年代的なポップの価値観が少しずつ終焉に近づいていることを我々は何度も強調してきた。2021年はそうした流れが加速し、より明確かつ具体的に次の時代の兆しが見えてきたという実感がある。遂に新たなディケイドの扉は開かれたのだ。

いまだ予断を許さないパンデミック下において、否応なしにポップ・ミュージックの重要な「現場」のオンライン化は加速した。その結果、北米に活動の拠点を置くアーティスト以外、あるいは英語圏以外の才能にも一層の脚光が当たることになったのは理に適っている。プエルトリコ出身のラウ・アレハンドロやスペイン出身のセー・タンガナ、ナイジェリア出身のテムズやガンビアにルーツを持つイギリス在住のパ・サリューなど――メインストリームにおいてもアンダーグラウンドにおいても、世界各地の優れたアーティストが最早「アメリカ進出」なしに世界中で聴かれているという状況は当然のこととなった。北米メインストリームがすべての中心という状況が行き過ぎた結果、サウンドの均質化/平準化という弊害がもたらされたことがここ数年のポップ・シーン全体の傾向だったとすれば、中心を欠いたままひたすら全体が広がり続けている今年2021年の状況は、まさにカオスであると同時に本来あるべきサウンドと価値観の多様性が担保されているとも言えるだろう。

パンデミック以降にもっとも重要な音楽プラットフォームのひとつとなったのはTikTokだ。ラウ・アレハンドロの世界的ブレイクをアシストしたのをはじめ、北米以外からのヒットの発信源としてもこのSNSは大きな役割を果たしている。と同時に、フリートウッド・マック“ドリームス”が42年ぶりに全米チャート入りしたのもTikTokでのヴァイラルがきっかけであることも注目しておくべきだろう。つまり、TikTokはポップ音楽シーンを国や地域の横軸だけではなく、歴史の縦軸においても拡張している。今やヒットは「いつ」の「どこ」から生まれてもおかしくないのだ。オンラインが舞台の中心となった2020年代においては、過去と未来を含めたすべてが「今」であり、地球の裏側まで含めたすべてが「ここ」なのだから。

TikTokが歴史や場所性を消失させたということは、言い換えれば、音楽から意味や文脈を剥ぎ取ったということでもある(このプラットフォームにおいて重視されるのは何よりも「ムード」だ)。それはサウンドのフォルム以上にリリックの意味が重視されたり、あるアーティストがあるサウンドを使うことの政治的な正しさが精査されたりするようになった2010年代からの大きな転換を予感させるものだろう。当然ながら、構造的な搾取や差別の是正を目指すという2010年代の重要な成果を忘れてはならない。だが、例えばピンクパンサレスにブレイクの兆しが見えることが象徴的なように「意味と文脈の時代からサウンドのフォルムとムードの時代へ」という大きな流れの変化は確実に訪れつつある。そもそもポップ・ミュージックのダイナミズムとは意味や理屈に縛られた現実世界からの跳躍力にあるとすれば、この変化は喜ばしきものとして迎え入れるべきだろう。

もっとも、中心を欠いたまま全体が拡張し続けるという今の状況は、人々の価値観やリアリティが無限に多様化するということでもある。北米メインストリームというひとつの価値基準で物事を推し量ることが難しくなった現状において、スペイン語圏のレゲトンと、サウス・ロンドンのインディ・ロックと、韓国のK-POPと、西アフリカのアフロビーツを同じ俎上に上げて語るのは決して簡単なことではない。だからと言って、ある特定の音楽を「最高だ」と称揚しても、また新しい村をひとつ作ることにしかならない。そのような混沌とした現状においてポップという共通言語は如何に見出すことが出来るのか? そして、それはどのような形であり得るのだろうか? その答えを探すことが、2020年代のポップ音楽を考える上で重要な課題となるはずだ。

2021年は、まさに2010年代というディケイドの枠組みが音を立てて崩壊し、新たな時代の価値観とリアリティの形成が本格的に始まり出した一年だった。ここに選んだのは、そんな新たな時代の空気をキャプチャーした50枚である。


2021年 年間ベスト・アルバム 41位~50位

2021年 年間ベスト・アルバム 31位~40位

2021年 年間ベスト・アルバム 21位~30位

2021年 年間ベスト・アルバム 11位~20位

2021年 年間ベスト・アルバム 6位~10位

2021年 年間ベスト・アルバム 1位~5位




collage graphics by DaisukeYoshinO)))

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