SIGN OF THE DAY

何がすごいの?どこが新しいの?今年、
全米No.1に輝いた唯一のインディ・バンド、
アラバマ・シェイクスのすべてを
解説させていただきます:前編
by TSUYOSHI KIZU
SOICHIRO TANAKA
June 08, 2015
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何がすごいの?どこが新しいの?今年、<br />
全米No.1に輝いた唯一のインディ・バンド、<br />
アラバマ・シェイクスのすべてを<br />
解説させていただきます:前編

アジカン後藤正文に訊く、グラミー4部門を
制覇したアラバマ・シェイクスの凄さ、
そこから浮かび上がる2016年の風。前編




1. アラバマ州アセンズというアメリカ南部のバンドによる2ndアルバムが全米ナショナル・チャートの第1位に輝いたという事実――しかも、それが2015年にインディ・レーベルからリリースされたアルバムで初めての全米第1位を記録した作品だったという事実から、あなたが受ける率直な感想を教えて下さい。

木津:いま全米第1位というのがどれくらいの規模なのか正直わからないのですが――ハリウッド映画を日本で宣伝するときのコピー「全米震撼」くらい――、現在アメリカで音楽を買って聴いている人がどれくらいいるのか想像すると、アラバマ・シェイクスのような間口の広い音楽がチャートに上がるっていうのは健康的なことだと思います。「全米震撼」までは行かなくても、「全米大興奮!」「全米が沸いた!」てな感じでしょうか。それはやっぱり、ちょっと盛り上がっちゃいますね。

田中:羨ましい! の一言。この島国とは圧倒的な民意の差を感じます。やっぱアメリカって作家も凄いけど、それ以上にリスナーが凄いな、と。何よりも、ポップ音楽のもっとも重要な故郷のひとつ、アメリカにおける歴史の積み重ね、音楽ファンの裾野の広さと豊かさを感じました。デビューからたかが4年目のインディ・バンドが作った2枚目のアルバム、しかも、決してチージーな売れ線ポップではないアルバムが全米第1位に輝いたんですから。だって、日本で例えるなら、ceroが『My Lost City』の時点でオリコン・チャートの第1位になったようなもの。とにかく羨ましい! の一言。と言いながら、一言じゃない



2. あなたがアラバマ・シェイクスの2ndアルバム『サウンド&カラー』を聴いて、まず口にせずにはいられない興奮について教えて下さい。この作品のどのような部分に、どのような興奮を覚えますか?

木津:まず録音が格段に洗練され、バンドの大切な根っこは残しながらも音楽性を大きく広げたことに、「うん、頑張ったなー! すごく真っ当な成長!」だと思いました。

田中:録音。とにかく一音一音の録り方とミックス。わかりやすいところで言うと、ギターの音。まずアタック音が圧倒的。しかも、弦の振動がそのまま伝わってくるような、ふくよかな倍音の変化が手に取るように聴こえる。これ、本当に驚きです。何十年もギター音楽を楽しんできた耳からすると、ここ10年間のJ-POP/J-ROCKのギターの音は、正直、その90%はギター音楽の歴史に対する冒涜と言えるほど酷いものばかり。聴くに堪えない。ここ最近、この島国のレコードやライヴに接する中で、こりゃ、最高だな! と思えたのは、吉田ヨウヘイgroupの3rd『paradise lost, it begins』で西田修大が弾くギター。ライヴだと、サンフジンズで奥田民生が弾くギターぐらいのもの。でも、これにはかなわない。『サウンド&カラーズ』におけるギター・サウンドは、ギターの選び方、弾き方、鳴らし方、録り方――次元が違いすぎる。決して上手いギタリストではない。でも、この鳴り。良かったら0分19秒からのギターの鳴りを聴いて下さい。出来るならYouTubeではなくCD音源で。これこそが本物のギターの音なんです。

Don't Wanna Fight

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3. 2012年の1stアルバム『ガールズ&ボーイズ』の時点では、一般的にはソウル、ブルーズ、R&Bを基調にしたロック・バンドだと思われていた彼らは、この『サウンド&カラー』では化けた。明らかに別次元のサウンドを手に入れています。あなたなら具体的にどう変わったと説明しますか。あなた自身がもっとも目をみはらずにはいられなかった、その変化について具体的に教えて下さい。

木津:前作では武骨でラフだった――それを味としていたところもありますが――演奏と録音が、非常に洗練されています。ロブ・ムースがストリングスをはじめとするアレンジメントで大きく貢献しているのでしょう、とにかく音色が多彩。まず一曲目、タイトル・トラックの“サウンド&カラー”のヴィブラフォンの余韻たっぷりの響きに「おっ」と引き込まれます。隙間をたっぷり用意したプロダクションも見事で、強烈に太い低音が最高に効いています(“フューチャー・ピープル”の低音といったら!)。またアルバムを通しての緩急もよく統制されており、やや平坦だった前作の弱点を見事に克服しています。

Sound & Color

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Future People (Live from Coachella 2015)

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田中:ひとつ前の質問では敢えてギターの音にだけ言及しましたが、『サウンド&カラー』でもっとも驚くべきは太鼓のサウンドです。昨年2014年のすべてのアルバムの中で、その録音とプロダクションに思わず舌を巻かずにいられなかったのは、森は生きているの『グッド・ナイト』でした。そのどちらにも共通するのはプロダクションにおける録り音の良さと同時に、ポスト・プロダクションにおける音処理の的確さ。いまだ一介のガレージ・バンドにすぎなかった1st『ガールズ&ボーイズ』とはもはや別バンドと呼んでもいいほどのウェルメイドで、モダンな太鼓の音。現行のR&B/ヒップホップを思わせる低音の奥行き、太さもさることながら、一番の驚きはハットとスネアとキックのエコー処理がそれぞれ別なことです。どんな風に録音しているのか、さっぱりわからない! 結果的に、生バンドが録音したレコードでありがなら、非常にデジタルな質感とタイム感を持った、これまでまったく聴いたことのない音像に仕上がっている。2015年にこの『サウンド&カラー』のサウンドに耳に傾けないというのは、「今」に目をつぶっていると同義と言っても過言ではありません。

Gimme All Your Love

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4. アラバマ・シェイクスというバンド名、『サウンド&カラー』というアルバム名、本作のサウンドとリリック、あるいは、そのそれぞれが表象しているもののうち、彼らを他の同時代の作家と大きく隔てているとあなたが感じるものを挙げて、彼らの独自性について説明して下さい。

木津:彼女らは出自としては紛れもなくインディ・ロック・バンドだと思うのですが、ここ10年ほどのUSインディ・ロックがちょっと知的すぎるというか、コンセプトがかなり複雑だったり目的意識が前面に出過ぎたりで、やや窮屈になっていた場面もあったと思います。過去のサウンドを参照するのなら、「なぜそこなのか?」までが前提になってなければならない、というような。コンセプチュアルで知的なインディ・ロック・バンドの最高の例としてダーティ・プロジェクターズが挙げられますが、誰もがデイヴ・ロングストレスのようにウィットに富んでいるわけではないですから。そこを行くとアラバマ・シェイクスは、まさにアラバマからやって来た振動です。そこにあるのは小賢しさではなく、古いソウルとブルーズの力を借りて、聴くひとの身体と心を揺さぶりたい、そんな熱さです。これは反知性主義ということでは、勿論ありません。彼女らには過去のソウル、ブルーズ、ロックに深い理解と愛があります。アラバマ・シェイクスはその知性がどこに向かうべきなのか? という問いに対する、多くのひとが忘れていた爽快な回答であり実践です。

田中:ある時期までのヒップホップ・アクトが敢えて距離を取ろうとしてきた忌むべき記憶としてのブルーズという伝統に積極的に繋がろうとするアティチュードです。そうした意味ではケンドリック・ラマーの新作と共通するものがあるかもしれない。人種や出自の問題に関して、かつて80年代から90年代には、誰もがハイブリッドになることで、その問題を超えていこうという考え方がありました。でも、ここ10年はむしろ、それぞれがそれぞれのルーツを明確に意識し、保持し続けながら、互いのハーモニーを探り出すという方向に向かっている。アラバマ・シェイクスというバンドがオファーしているすべては、そうしたハーモニーという理想へ向かう、決してたやすくはない受難への誘いだと感じます。ケンドリック・ラマーが異なるカラーの両方に向けて――そして、自らにも向けて――批判的な眼差しを投げかけたのと同様、アラバマ・シェイクスはすべてのカラーに向けて、受難を越えていくことの祝福を投げかけている。これもやはり「今」のアティチュードだと思います。



5. ソウル、ブルーズ、R&Bといったサウンドからの参照に多くを拠っているという点からすれば、彼らアラバマ・シェイクスを何かしらレトロスペクティヴで、保守的なバンドと位置付けることも可能です。ただ、あなたなら、そうした視点に対し、どの程度、賛同し、どのように反論しますか? あるいは、彼らに革新性というものがあるとすれば、それはどういった部分なのでしょうか。

木津:回顧的と書くと後ろ向きな印象ですが、ポップ・ミュージックのタイムレスな要素を考えるならば過去の音楽の参照は不可欠ですよね。たしかにアラバマ・シェイクスの参照元は奇を衒っておらず、アメリカのポップ・ミュージックの正史に残るような音楽ばかりですから、新しいバンドには見えにくいのかもしれません。が、アラバマ・シェイクスはいまどき手のかかることを、じつは率先してやっているバンドのように感じます。コンピュータを使えばバンドなんて組まなくてもインスタントに音楽が作れますし、過去の「スタンダード」なんて途方もないものと勝負するよりも、ターゲットを絞ってそのトライブの趣味性に合うようなマニアックな音楽を作ったほうが手っ取り早いのではないでしょうか。けれどもアラバマ・シェイクスは確実に、不特定多数の「人びと」に向けての音楽をロック・バンドのフォーマットでやるという、時代遅れのことを……いやいや、だからこそ、マーケティングと住み分けばかりの現代のシーンで、キラリと光る存在になったのだと思います。

田中:もし誰かがアラバマ・シェイクスがレトロだと言うなら、今どこにレトロじゃない作家がいるのか、むしろ訊きたいくらい。00年代初頭のミッシー・エリオットのような、あからさまにフューチャリスティックなサウンドこそが今もっとも過去の音楽でしょう。1stアルバム『ガールズ&ボーイズ』は確かにレトロだったかもしれない。しかし、この2015年において、『サウンド&カラー』以上に新しい音楽はない。いくつかの過去からの音楽的参照点に拠っているという点からすれば、ハドソン・モホークもスクリレックスもジェイミー・エックス・エックスもすべてレトロ。このアルバムのようなサウンドを持ったレコードはかつて存在しなかった。この『サウンド&カラー』こそが今であり、未来だと思います。




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